ISBN:4061498428 新書 鈴木 邦男 講談社 2006/05/19 ¥735

著者の鈴木邦男さんは大学時代から現在まで40年にわたり愛国運動を続けてきた人だ。

これは断言できる。僕は日本一の愛国者だ。いや、世界一の愛国者だ。なんせ、愛国運動を四十年間もやってきた。国歌「君が代」は五千回以上も歌った。国旗「日の丸」も同じくらい揚げた。部屋の壁にも「日の丸」を貼っていたし、街宣(街頭宣伝)はいつも「日の丸」の下でやってきた。靖国神社には五百回も参拝した。「教育勅語」も暗唱した。これ以上の愛国者はいないだろう。「愛国者コンテスト」があったら軽く優勝できる。(本書3P)

しかし、愛国運動を一生懸命していても世の中は変わらず、天皇や愛国心などを唱えれば「右翼」のひとことで片付けられる時代がずっと続いていたという。そして話は最近のことに向かう。

ところが、最近、急に世の中が変わった。世相というか国民の意識が変わってきた。ソ連が崩壊し、東欧もなくなった。日本だって左翼がいなくなった。その途端、にわか右翼、オタク右翼、新保守がドッと増えた。ネット右翼も大増殖した。この時とばかり政府も文部科学省も、日の丸・君が代を強制している。近いうちに改憲もされるだろう。教育基本法には愛国心を明記せよと言う。僕でさえ戸惑うほどだ。(本書8ー9P)

そんな現状に対して、

今の日本は、「ともかく愛国心を持て」「愛国心は常識だ」「愛国心さえ持てばいい生徒、いい日本人になれる」と言っている。冗談じゃない。そんな単純なものではない。だから、この本では初心に返って愛国心とは何か、を考えてみた。愛国心は宝石にもなるし凶器にもなる。一面だけを見るのは危険だ。その素晴らしさと危うさの両面を皆に教えてやろう。(本書10P)

というのが本書の趣旨である。

私はもはや右翼だの左翼だのといった思想が衰退していた時代に生まれた人間であるが、鈴木さんの言動については理解できるものが多い。たとえば、公立の中学や高校で日の丸や君が代が強制されている状況について、

そこまでして「君が代」を強制する必要があるのだろうか。かわいそうだと思う。教師や生徒もそうだが、日の丸・君が代もかわいそうだ。こんな争いの道具にされてかわいそうだと思う。また、ガヤガヤとうるさい生徒に、それもいやいや歌わされるなんて。
 僕は日の丸・君が代が好きだ。だからこそ、そんな状態で歌ってほしくないと思う。
(本書72P)

右翼とか民族主義などといった思想と無縁な人間にも伝わるのはなぜか。おそらく、鈴木さんの考えが机上の空論ではなく、四十年間の愛国運動を基盤とした地に足の着いたものだからなのだろう。本書では愛国心や天皇制、また女帝論についてもきわめて自然な視点で語られていく。

そんな「寛容な愛国心」こそが鈴木さんの魅力だが、にわか右翼たちからは「売国奴」「非国民」と罵倒されることも少なくない。どんな思想であれ、そこから進歩し発展してしまえばズレてしまう。それは必然の成り行きなのかもしれない。

しかし、もしも鈴木さんのような思想の「愛国者」が増えるならば国もそれほど間違った方向には進まないと思う。本書も増刷を重ねているようで、偏狭なナショナリズムが進んでいる我が国に一石を投じてもらえる本になってほしいと願う。鈴木さんは本書の最後で「愛国心」についてこう述べている。

愛国心は国民一人一人が、心の中に持っていればいい。口に出して言ったら嘘になる。また他人を批判する時の道具になるし、凶器にもなりやすい。だから、胸の中に秘めておくか、どうしても言う必要がある時は、小声でそっと言ったらいい。(本書192P)

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