午後11時過ぎに京都駅八条口から深夜バスに乗り、新宿西口に着いたのは翌朝の午前6時10分ごろだった。まだ外は暗く、しかも寒い。考えてみると、この冬の時期に深夜バスで移動したことはいままで無かった。今日は渡辺美里の「詩の朗読会」を観るためにここまで来た。関西公演はないので、やむをえずの上京である。開演は午後5時なのでまだ10時間以上もある。それまでどうやって過ごそうか。

深夜バスを乗った時に、新宿駅近くにある「カプセルホテル&サウナ」のサービス券を付いていた。ここで2時間ほど時間をつぶし、それから「ロッテリア・プラス」で朝食を取る。その後JRで池袋へ移動し、駅近くのネット・カフェにしばらくいてから「ラーメン二郎 池袋東口店」で昼食をする。そこからさらに六本木に行き、こないだ開館した「国立新美術館」、さらには六本木ヒルズの森タワーまで登る。すっかり観光を楽しんでしまった。

しかし、深夜バスの移動で疲れが残っているにもかかわらず遊んでしまったのは大失敗だった。会場の銀河劇場(品川区)に着くころには、ひどい眠気に襲われる。しかも、繰り返すまでもないが、今日はライブではなく朗読会なのだ。案内板には、第1部55分、休憩15分、第2部60分となっている。2時間10分も付き合えるだろうか。

ところで、「言の葉コンサート」についてネットで調べると、これはずっとシリーズでおこなわれている朗読会だった。これまでには江守徹が芥川龍之介、古谷一行が司馬遼太郎の作品に挑戦している。おそらく企画の段階で美里の名前が挙がり、その申し出に彼女が乗ったということだろう。与謝野晶子と美里を結ぶ接点がどうにも浮かんでこないので「なぜ朗読なんてしようと思ったんだ?」とずっと疑問だったのだが、別に彼女が率先して企画したわけでもなさそうだとわかり、正直いって少し安心した。席はファンクラブ予約にかかわらず3階とひどいものだったが、会場自体はそれほど大きくないので彼女の表情も確認はできそうだ。

午後5時を8分ほど過ぎた頃、幕が開いて開演である。与謝野晶子という昔の人の作品を取り上げるためか、美里は赤い着物を着ての登場だ。バックはピアノとヴァイオリンというシンプルな編成である。朗読会の題名が、

「うたの木 朗読会 2007 言の葉コンサート『与謝野晶子・みだれ髪』〜うたに生き、恋に生き、106年を経て出会う魂の真実〜」

という名の通り、ただ作品を朗読するだけでなく、与謝野晶子の生い立ちや作品について解説を交えながら進めていくという形を取っていた。作品の中身を知らない人間には親切な内容であったといえる。演奏は”Song of the Asking””十六夜の月〜izayoino tsuki〜””37.2℃(夢みるように うたいたい)””egoism”と彼女のオリジナル曲などが朗読にかぶさるというものである。どこかのブログで演奏曲目を拾ったが、 ”黒い瞳””巴里の空の下に”と聞いたことのない曲も入っている。調べたかぎりでは、昔の映画で使われていた曲だと思われる。

休憩が入っていたものの、座ったままでずっと朗読に付き合うのが苦痛だったことは否めない。私の左側にいた男性は30分ほどでイビキをかいていた。私も1部が終わるまではなんとか頑張っていたが、2部の前半では眠ってしまう場面も多かった。よって2部の内容はほとんど覚えていない。

構成についていえば、1部では与謝野晶子の生い立ち、そして与謝野鉄幹と結婚し「みだれ髪」を刊行するまでの話、2部は晶子が鉄幹を追ってフランスに飛び出してから以降のことが語られていたと、おぼろげに記憶している。他に覚えていることといえば、「みだれ髪」について美里が「晶子のデビュー・アルバム」と形容していたこと、それから「みだれ髪」には「愛」という言葉が一度も出てこないということを触れていたことくらいである。作品や作者の基礎知識が無いというのは、テキストも無く「ただ聴くだけ」の朗読会では致命的だとつくづく感じた。

ファンが気になっていたであろう歌については2曲だけである。1部の最後に”37.2℃(夢みるように うたいたい)”を、2部の最後に”My Love Your Love 〜たったひとりしかいないあなたへ〜”を披露した。この最後の曲は日ごとに違っていて、初日は”My Revolution”、最終日は”10 years”を歌ったらしい。これはこれで良かったと思う。歌と朗読が混じって中途半端になるよりこうした形のほうがスッキリする。

朗読についての感想は正直いって書きにくい。通常のライブならいままで彼女を含めて100本以上も観てきたので比較の対象になるものはいくらでもある。しかし私はこうした「朗読会」というものを一度も体験していない人間である。他の人と比較してどうとか、これまでと比較してどうとかは私にはいえない。わからないものはわからないとしか言えない。通常のライブと同じくらい素晴らしいと思う瞬間はなかった。しかし、朗読会と冠したコンサートに対して「歌が聴きたかった」と言うの見当違いな話ではあるし、適当な言葉が見つからなくて苦しい。

ネットで他の人の感想をみると、褒める人と批判する人が半々くらいだろうか。しかし、褒めている人も、朗読は今回で最後だろうな、などと書いてあるし、批判する人は、ファンが求めているのはボーカリストとしての美里だ、というようなものである。どちらにしても、続けてほしいという声は皆無だったと思う。それがファンのおおむね一致した意見ではないだろうか。私もまさか開演中に寝てしまうほどテンションが低くなるとは思わなかった。

全てが終了したのは午後7時20分ごろである。開演が遅れたことを思えばほぼ時間通りだった。とっとと電車で新宿に行き、トンカツを食べてから、深夜バスに乗り京都へ帰る。最後に演奏曲目を記す。それにしても、本当に書くのに苦しんだ今回の感想である。

(演奏曲目)(注なしは伴奏のみ)
【第一部】
(1)Song of the Asking
(2)十六夜の月〜izayoino tsuki〜
(3)37.2℃(夢みるように うたいたい)
(4)egoism
(5)37.2℃(夢みるように うたいたい)(※歌あり)

(15分間の休憩)

【第2部】
(6) 黒い瞳
(7)巴里の空の下に
(8)10years
(9) 悲しいね
(10)すき
(11)ランナー
(12) 夢のあいだ
(13)My Love Your Love 〜たったひとりしかいないあなたへ〜(※歌あり)

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