ボブ・ディラン大阪公演(10年3月11日、Zepp Osaka)
2010年3月11日 ライブ・レポートボブ・ディランの9年ぶりの来日公演を観るため久しぶりにZepp Osakaを訪れた。コスモスクエア駅を出ると、以前よりもまたマンションやビルの数が増えている。初めて訪れたのは10年前のBONNE PINKのライブの時だったが、当時は空地ばかりだった。大阪南港周辺の開発はどんどん進んでいるようである。
今日は整理番号の入場だったにもかかわらず開場時間ギリギリの到着だった。年配の人が目立つかと予測したけれど、待っているお客をパッと見た限りではバラバラの年齢層という感じである。しかしながら、入口に注意書きの大きな紙が張ってあったり、場内で長い長いアナウンスの注意がされたり、いつもならば入る時にドリンク代500円を徴収されるのが今回は無かったりと、色々な面で配慮をしているのは明らかだった。ディランがライブをしなければ生涯Zeppに来ることがなかったであろう人たちへの対応に主催者側もいろいろと苦慮したことが忍ばれる。
私の整理番号は355番と割と若い番号だったので、前から4列目くらいの中央の位置を確保することができた。あとは開演を待つばかりである。9年前の大阪公演では時間になったらブツンと客電が落ちて、再び明かりがついた時にはバンドが全て現れているという感じだった。今回もそれを期待していたけれど、今回はどうしたことか、開演時間の7時を10分ほど過ぎてもバンドは一向に登場しない。観客も明らかに動揺している。当の私もかなり不安が大きくなっていく。ミュージシャンが出てくるかどうかここまで心配になったのは、サマーソニックのモリッシー以来だ。ディランも今年で69歳であり昔のようにはなかなかいかなくなっているということなのだろうか。そして7時20分、場内が暗くなりようやくバンドとディランが現れる。
事前にネットで情報を得ていたが、最近のディランはギターではなくキーボードを弾きながら歌うという。座って演奏するのかと思ったら、立ってキーボードにも寄りかかるような格好で歌っていた。しかしながら実際にその姿を観ると、9年前のイメージも残っていたためか、現在のディランに違和感を抱いたことは否定できない。また曲によってはスタンドマイクの前でポーズをとったりハンドマイクで歌ったりという場面もあり、その違和感にさらなる拍車がかかった。この9年の間、ディランの心境に一体何が起きたのだろう。
とは言いながらも、やはり演奏が進んでいくにつれてそんなことはどうでも良くなっていった。以前ほど鬼気迫る雰囲気はなかった気もするが、チャーリー・セクストンを筆頭にバンドの音は実に素晴らしい。ドライブの効いた演奏は”追憶のハイウェイ61”あたりでピークを迎える。アンコールの最後はジミ・ヘンドリックスやニール・ヤングのカバーでも知られる”見張り塔からずっと”なのも良かった。それが終わってもお客は帰らず拍手を送り続けるも、2回目のアンコールは訪れず無念にも客電がついてしまった。いま振り返れば、バンドの音が以前と違うように感じた原因はディランが高齢になったとかではなくて、彼自身の弾くオルガンのようなキーボードが入ったからではないかと今では思う。
1万3000人が参加しているディランのmixiコミュニティの冒頭には、
「彼のテクや演奏をコピーしてもまったく意味は無い。 彼の出す全体的な雰囲気は誰にも真似ができないから。」
と書かれている。それは私が前回の来日公演で感じたことを見事に表している。9年前も現在も彼の曲はほとんど頭に入っていないけれど、パフォーマーとしてなんともいえない魅力に惹かれて今回もライブに行ったわけだ。そして、今回の彼に対しても同じ感想をもった次第である。
とは言いながら、部屋に戻ってからネットで演奏曲目を調べて思わず苦笑してしまった。会場に行く前は、前回の来日公演の予習のために買った「ボブ・ディラン・ライヴ!1961-2000~39イヤーズ・オブ・グレート・コンサート・パフォーマンス」(01年)を聴いていた。このアルバムに入っている曲もかなり含まれていた(”To Ramona”、”I Don’t Believe You”、”Cold Irons Bound”、”Things Have Changed”)にもかかわらず、全く気づかなかったからである。
「この曲、演奏されてたっけ?」
としばし呆然となった。彼の曲がまったく頭に入っていないとは言いながらも、それでもここまで全く気づかなかったのは情けないというしかない。
それはともかく、演奏曲目を見てみると、この15年あたりに作った作品の比率も低くないことに気づく。
「タイム・アウト・オブ・マインド」(97年)から2曲
「ラヴ・アンド・セフト」(01年)から1曲
「モダン・タイムズ」(06年)から3曲
「トゥゲザー・スルー・ライフ」(09年)から1曲
という感じである。”Things Have Changed”も近年の曲だから、ここ15年の曲目が半分くらいを占めることになる。この辺りは、自分がまだ現役のミュージシャンであることを主張しているようで頼もしい気がする。
最後に一つだけ記したい話がある。今回、ディランがギターを手に取ったのはわずか2曲だけだった。フォーク・シンガーというイメージが今でも強い人だから、そう思って会場に臨んだ人は面食らったに違いない。実際、ライブが終わった後で若い人が、ディランが全然ギターを持たなかった、みたいなことを耳にした。
それを聞いた私は、9年前はそうじゃなかったんだけどねえ、とほくそ笑んでいたのであった。
最後に演奏曲目を記す。
【演奏曲目】
(1)Watching The River Flow
(2)Girl Of The North Country
(3)Things Have Changed
(4)To Ramona
(5)High Water (For Charley Patton)
(6)Spirit On The Water
(7)The Levee’s Gonna Break
(8)I Don’t Believe You (She Acts Like We Never Have Met)
(9)Cold Irons Bound
(10)A Hard Rain’s A-Gonna Fall
(11)Highway 61 Revisited
(12)Can’t Wait
(13)Thunder On The Mountain
(14)Ballad Of A Thin Man
<アンコール>
(15)Like A Rolling Stone
(16)Jolene
(17)All Along The Watchtower
今日は整理番号の入場だったにもかかわらず開場時間ギリギリの到着だった。年配の人が目立つかと予測したけれど、待っているお客をパッと見た限りではバラバラの年齢層という感じである。しかしながら、入口に注意書きの大きな紙が張ってあったり、場内で長い長いアナウンスの注意がされたり、いつもならば入る時にドリンク代500円を徴収されるのが今回は無かったりと、色々な面で配慮をしているのは明らかだった。ディランがライブをしなければ生涯Zeppに来ることがなかったであろう人たちへの対応に主催者側もいろいろと苦慮したことが忍ばれる。
私の整理番号は355番と割と若い番号だったので、前から4列目くらいの中央の位置を確保することができた。あとは開演を待つばかりである。9年前の大阪公演では時間になったらブツンと客電が落ちて、再び明かりがついた時にはバンドが全て現れているという感じだった。今回もそれを期待していたけれど、今回はどうしたことか、開演時間の7時を10分ほど過ぎてもバンドは一向に登場しない。観客も明らかに動揺している。当の私もかなり不安が大きくなっていく。ミュージシャンが出てくるかどうかここまで心配になったのは、サマーソニックのモリッシー以来だ。ディランも今年で69歳であり昔のようにはなかなかいかなくなっているということなのだろうか。そして7時20分、場内が暗くなりようやくバンドとディランが現れる。
事前にネットで情報を得ていたが、最近のディランはギターではなくキーボードを弾きながら歌うという。座って演奏するのかと思ったら、立ってキーボードにも寄りかかるような格好で歌っていた。しかしながら実際にその姿を観ると、9年前のイメージも残っていたためか、現在のディランに違和感を抱いたことは否定できない。また曲によってはスタンドマイクの前でポーズをとったりハンドマイクで歌ったりという場面もあり、その違和感にさらなる拍車がかかった。この9年の間、ディランの心境に一体何が起きたのだろう。
とは言いながらも、やはり演奏が進んでいくにつれてそんなことはどうでも良くなっていった。以前ほど鬼気迫る雰囲気はなかった気もするが、チャーリー・セクストンを筆頭にバンドの音は実に素晴らしい。ドライブの効いた演奏は”追憶のハイウェイ61”あたりでピークを迎える。アンコールの最後はジミ・ヘンドリックスやニール・ヤングのカバーでも知られる”見張り塔からずっと”なのも良かった。それが終わってもお客は帰らず拍手を送り続けるも、2回目のアンコールは訪れず無念にも客電がついてしまった。いま振り返れば、バンドの音が以前と違うように感じた原因はディランが高齢になったとかではなくて、彼自身の弾くオルガンのようなキーボードが入ったからではないかと今では思う。
1万3000人が参加しているディランのmixiコミュニティの冒頭には、
「彼のテクや演奏をコピーしてもまったく意味は無い。 彼の出す全体的な雰囲気は誰にも真似ができないから。」
と書かれている。それは私が前回の来日公演で感じたことを見事に表している。9年前も現在も彼の曲はほとんど頭に入っていないけれど、パフォーマーとしてなんともいえない魅力に惹かれて今回もライブに行ったわけだ。そして、今回の彼に対しても同じ感想をもった次第である。
とは言いながら、部屋に戻ってからネットで演奏曲目を調べて思わず苦笑してしまった。会場に行く前は、前回の来日公演の予習のために買った「ボブ・ディラン・ライヴ!1961-2000~39イヤーズ・オブ・グレート・コンサート・パフォーマンス」(01年)を聴いていた。このアルバムに入っている曲もかなり含まれていた(”To Ramona”、”I Don’t Believe You”、”Cold Irons Bound”、”Things Have Changed”)にもかかわらず、全く気づかなかったからである。
「この曲、演奏されてたっけ?」
としばし呆然となった。彼の曲がまったく頭に入っていないとは言いながらも、それでもここまで全く気づかなかったのは情けないというしかない。
それはともかく、演奏曲目を見てみると、この15年あたりに作った作品の比率も低くないことに気づく。
「タイム・アウト・オブ・マインド」(97年)から2曲
「ラヴ・アンド・セフト」(01年)から1曲
「モダン・タイムズ」(06年)から3曲
「トゥゲザー・スルー・ライフ」(09年)から1曲
という感じである。”Things Have Changed”も近年の曲だから、ここ15年の曲目が半分くらいを占めることになる。この辺りは、自分がまだ現役のミュージシャンであることを主張しているようで頼もしい気がする。
最後に一つだけ記したい話がある。今回、ディランがギターを手に取ったのはわずか2曲だけだった。フォーク・シンガーというイメージが今でも強い人だから、そう思って会場に臨んだ人は面食らったに違いない。実際、ライブが終わった後で若い人が、ディランが全然ギターを持たなかった、みたいなことを耳にした。
それを聞いた私は、9年前はそうじゃなかったんだけどねえ、とほくそ笑んでいたのであった。
最後に演奏曲目を記す。
【演奏曲目】
(1)Watching The River Flow
(2)Girl Of The North Country
(3)Things Have Changed
(4)To Ramona
(5)High Water (For Charley Patton)
(6)Spirit On The Water
(7)The Levee’s Gonna Break
(8)I Don’t Believe You (She Acts Like We Never Have Met)
(9)Cold Irons Bound
(10)A Hard Rain’s A-Gonna Fall
(11)Highway 61 Revisited
(12)Can’t Wait
(13)Thunder On The Mountain
(14)Ballad Of A Thin Man
<アンコール>
(15)Like A Rolling Stone
(16)Jolene
(17)All Along The Watchtower
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