石川幸憲「メディアを変える キンドルの衝撃」(10年。毎日新聞社)
2010年5月9日 読書
今年の日本は「電子書籍元年」だ。そんな声をどこからともなく聞いたような気がするが、今月28日に「iPad」の日本版が発売されるのを皮切りにその噂も現実となっていくだろう。
といってもiPadにおいては電子書籍は搭載機能の一つに過ぎない。また以前の日記でも書いているけれど、通信料がかかることもあるので私は今のところ所持する気になれない。ただ、電子書籍というものに対しては人並み以上に興味を抱いている。
そんな私のような人間が注目しているのは、年内には日本版が出るという噂もあるキンドル(Kindle)であろう。キンドルはかのアマゾン(Amazon)社が開発した電子書籍端末である。2007年11月19日に本国アメリカで世に出たが、発売開始5時間半で在庫が無くなったという。アマゾンは売り上げなどの情報を公開しない方針をとっているけれど、2009年のキンドルの販売数は200万台前後と推測されている。
キンドルの特徴は色々ある。「イー・インク」と呼ばれる紙と同じようなモノクロ画面の技術、電子消費量がLCD(液晶画面)の10分の1で済む省エネ設計、本1冊のダウンロードが60秒以下でできる3Gワイヤレス機能の搭載、キンドル1台で1500冊もの電子書籍の保存ができる、などなどだ。
しかしキンドル、というよりアマゾンの凄いところは、ネットワークの使用料を全て会社が負担するということである。ここがiPadと大きく違い、私がグラッときた点だ。だから日本版が出たら購入してみたいと思っている。
ただこの本は「読んでみてキンドルの発売が楽しみになってきた!」などと単純に楽しみになるような内容にはなっていない。本書の特徴はキンドルを取り巻くアメリカ新聞業界の変化についても触れられているからだ。第3章の「米メディア危機と生き残り戦略」では、
「09年に1・5万人が失職」
「ネットが奪った3行広告」
「トリビューンの経営破綻」
といった小見出しが続き、新聞業界の片隅のそのまた片隅で生きている人間からすれば実にイヤな話が盛りだくさんだ。
素人目から見ても紙媒体の電子化への流れは明らかである。そしてそれに伴い新聞業界は印刷の縮小、配達の縮小、人員の縮小、といろいろな分野に悪い面で影響が及んでいくのだろう。
しかしそうした流れが急激に進むのか、それとも10年20年かけて徐々に変化していくのかよくわからない。紙とコンピューターのいずれか、ということではなく両者が併存しながら世の中は動いていくからだ。
著者は最後の章でこのような表現を使っている。
ネットの書評を見ていると、アメリカの新聞業界のことしか触れていない、著者の定見がない、などという否定的な感想が目についた。しかし、今日のアメリカは明日の日本の姿、というケースはこれまで多くあったことである。それに日本のメディアがこれからどうなるかなど具体的な見通しなど誰が立てられるというのか。分かる方がいるならぜひ私にご教示していただきたい。場合によっては今後の身の振り方を本気で考えたいからだ。
本書で書いてあることだが、かのグーテンベルクが活版印刷技術を開発した当時、本人も周囲の人も誰一人として「印刷革命」の将来を見通せなかったというのだ。印刷文化がヨーロッパ社会に定着するのに実に100年を要したのである。コンピュータ(ENIAC)が米ペンシルベニア大学で開発されたのも1946年、いまから60年以上も前の話だ。文化の大きな変化というのは長い年月の積み重ねによって訪れるものなのかもしれない。
少なくとも私には、著者の定見が無いというよりも、彼が紙メディアに対して抱いている不安や危機感などが表れているように読み取った。それは著者も紙媒体の世界で仕事をしている人だからに他ならない。
といってもiPadにおいては電子書籍は搭載機能の一つに過ぎない。また以前の日記でも書いているけれど、通信料がかかることもあるので私は今のところ所持する気になれない。ただ、電子書籍というものに対しては人並み以上に興味を抱いている。
そんな私のような人間が注目しているのは、年内には日本版が出るという噂もあるキンドル(Kindle)であろう。キンドルはかのアマゾン(Amazon)社が開発した電子書籍端末である。2007年11月19日に本国アメリカで世に出たが、発売開始5時間半で在庫が無くなったという。アマゾンは売り上げなどの情報を公開しない方針をとっているけれど、2009年のキンドルの販売数は200万台前後と推測されている。
キンドルの特徴は色々ある。「イー・インク」と呼ばれる紙と同じようなモノクロ画面の技術、電子消費量がLCD(液晶画面)の10分の1で済む省エネ設計、本1冊のダウンロードが60秒以下でできる3Gワイヤレス機能の搭載、キンドル1台で1500冊もの電子書籍の保存ができる、などなどだ。
しかしキンドル、というよりアマゾンの凄いところは、ネットワークの使用料を全て会社が負担するということである。ここがiPadと大きく違い、私がグラッときた点だ。だから日本版が出たら購入してみたいと思っている。
ただこの本は「読んでみてキンドルの発売が楽しみになってきた!」などと単純に楽しみになるような内容にはなっていない。本書の特徴はキンドルを取り巻くアメリカ新聞業界の変化についても触れられているからだ。第3章の「米メディア危機と生き残り戦略」では、
「09年に1・5万人が失職」
「ネットが奪った3行広告」
「トリビューンの経営破綻」
といった小見出しが続き、新聞業界の片隅のそのまた片隅で生きている人間からすれば実にイヤな話が盛りだくさんだ。
素人目から見ても紙媒体の電子化への流れは明らかである。そしてそれに伴い新聞業界は印刷の縮小、配達の縮小、人員の縮小、といろいろな分野に悪い面で影響が及んでいくのだろう。
しかしそうした流れが急激に進むのか、それとも10年20年かけて徐々に変化していくのかよくわからない。紙とコンピューターのいずれか、ということではなく両者が併存しながら世の中は動いていくからだ。
著者は最後の章でこのような表現を使っている。
キンドルなどの電子書籍端末は、私たちにとってのルビコン川である。これを渡ってしまえば後戻りできなくなる。2010年は、紙を前提にして5世紀以上も発展した活字印刷の文化がペーパーレスになる時代の幕開けになるだろう。それは、メディアがデジタル時代へと飛翔する契機でもある。ペーパーレスになることで、メディアはルビコン川を渡ることになる。まさに自己革命の前夜を迎えている(P.171)
ネットの書評を見ていると、アメリカの新聞業界のことしか触れていない、著者の定見がない、などという否定的な感想が目についた。しかし、今日のアメリカは明日の日本の姿、というケースはこれまで多くあったことである。それに日本のメディアがこれからどうなるかなど具体的な見通しなど誰が立てられるというのか。分かる方がいるならぜひ私にご教示していただきたい。場合によっては今後の身の振り方を本気で考えたいからだ。
本書で書いてあることだが、かのグーテンベルクが活版印刷技術を開発した当時、本人も周囲の人も誰一人として「印刷革命」の将来を見通せなかったというのだ。印刷文化がヨーロッパ社会に定着するのに実に100年を要したのである。コンピュータ(ENIAC)が米ペンシルベニア大学で開発されたのも1946年、いまから60年以上も前の話だ。文化の大きな変化というのは長い年月の積み重ねによって訪れるものなのかもしれない。
少なくとも私には、著者の定見が無いというよりも、彼が紙メディアに対して抱いている不安や危機感などが表れているように読み取った。それは著者も紙媒体の世界で仕事をしている人だからに他ならない。
コメント