もう6月の業務も終えてしまった。新しい仕事をしてもう1ヶ月半ほどになる。この辺りが一番苦しい時期かもしれない。

「入ってからもう1ヶ月も経つのに、そんなこともできないの?」

というような言われ方になってくる。周囲の見る目も厳しくなってくるし辛いところだ。

そんな状態で1日を終えて部屋から戻り、食事を済ませてボーッとしていたら一冊の文庫本が目に入ってきた。横田濱夫さんの「幸せの健全『借金ゼロ』生活術」(03年。講談社文庫)というものだ。古本屋で買った(「250円」のシールが貼ったままである)から、購入したのは05年とかそんなところだろう。

横田さんは横浜の某銀行に入社し、法人や個人への融資業務を10数年たずさわっていた人だ。在職中に銀行を内幕を書いた「はみ出し銀行マンの勤番日記」(92年。オーエス出版社)がヒットし、銀行を辞めてからはフリーの作家として金融関係を中心に活動を続けていた(しかし、現在は公式サイトもあまり更新されておらず近況はよくわからない)。

本書は2000年に刊行された「はみ出し銀行マンのお金の悩み相談室 ホンネ回答編」(青春出版社)を文庫本にしたものだが、12年前にして既にその分析は明るいものではない。なにせこの本を文庫化するにあたり、「ボーナス・ゼロ時代の緊急提言」という章が新たに設けられているくらいだから。ここでは、お弁当とお茶を自分で用意して1日の食費を600円にすれば年間で約68万円の節約となる、というような案が出てくる。最近はお弁当と水筒を持参している私だが、この本に書かれていたことが頭の片隅に残っていたのかもしれない。

この本はお金に関する質問に対して横田さんが回答する形をとっている。銀行員として働いていた経験があるだけにお金にまつわる分析はかなり鋭い。ファイナンシャルプランナー(FP)について書いているところでは、

<資産運用というのは、そもそもセンスの問題であって、資格とは関係ない。>(P.70)

などという一文には、資産運用ってそういうもんだろうなあ、と思わされる。

しかし私が今回もっとも惹かれたのは第5章の「転職、企業は甘くない」というもので、そこでベンチャー企業を立ち上げたい、とか、リサイクルショップを開業したいという質問を横田さんが答えている。

そのなかで、

「転職すること五回。収入が少しも増えません」

という「不動産関係 男性 三十六歳 独身」からの質問があり、そこに目がいってしまった。

<バブル期に大学を卒業し、転職すること五回。改めて気づくと、年収は二十二〜二十三歳のころと、ちっとも変わっていません。貯金はほとんどなく、現在もアパート住まいを続けています。
大学時代の同級生を見渡してみても、大手企業に就職した友人たちは、そろそろ主任や課長代理といった中間管理職に就きはじめています。年収も倍以上に差が開いてしまいました。
また、女性との付き合いでも、二十代の頃は、みなそれなりに相手にしてくれていたものが、最近はどうも様子が違います。なぜか距離を置かれてしまうのです。こんな状態では、人並に結婚し家庭を持つことさえ、ままならないかもしれません。
なんだか急に、周囲が冷たくなったような気がします。このままの状態が、あとさらに五年、十年と続いてしまうんでしょうか。とても不安です。>(P.215)

36歳、年収が少ない、アパート住まいで独身、とこの質問者と私とは重なる部分ばかなりある。違うところといえば、あっちは結婚して家庭を持ちたがっている点くらいだろうか。それにしても最後の「このままの状態が、あとさらに五年、十年と続いてしまうんでしょうか。とても不安です。」という部分が実に重たく感じる。

<チャラチャラしてるように見えて、女ってのは、実にしっかりしてるからなあ。>(P.216)

から始まる横田さんの回答はこんなところだ。

<ご相談者が、大学時代の同期生と今の自分を比べ、アセる気持ちもよくわかる。
たしかに、新卒で採用されてからずっと大企業に勤めていれば、今ごろ年収一千万円ぐらいいってたかもしれない。
身分は保障され、生活は安定し、奥さんや子供たちと幸せな家庭を築きつつ・・・。ハタから見ても、大企業のサラリーマンは、かくも恵まれ、幸せそうに映る。
しかしどうだろう。ある意味、そんなのは「今だけの話」と言えるかも。
「たしかに過去はそうだったけど、これからはわからない」「大企業の社員といえども、将来の身分保障はない」ということだ。
現に、一連の金融破綻で消滅した銀行に勤めてた人たちはどうだったか?
(中略)
世の中、そうでなくとも、終身雇用や年功序列制の廃止、リストラ、「勝ち組」「負け組」への二極分化、それによる貧富の差の拡大・・・。と、先の読めない時代へ突入している。いわゆる「一流企業」に勤めてたって、うかうかしられない。
>(P.217-218)

これらの指摘は現在すでに現実化というか日常化している。実際、この10年ほどでどれほどの企業が消滅したり大規模な人員削減をしただろう。さらに付け加えれば、文庫本が出た03年あたりは「IT長者」やベンチャー企業の経営者といった「勝ち組」がもてはやされていたけれど、ここ最近はそういう人も減ってしまったところだろうか。世の中はますます厳しく、そして混迷が深まっている気がする。

最後に横田さんは、バブル期に高値で住宅を買った人たち(例えばピーク時に七千万円だったマンションが三千万を切るまでになった)を引き合いに出し、

<幸いご相談者は、その点「マイナスからのスタート」じゃなく、単にカネと資産がないという「ゼロからのスタート」だ。
だったらまだ、マシなんじゃないかと思うよ。少なくともオレだったら、前向きにそう考える。>(P.220)

なるほど、確かに今の職場を嫌だと思っても住宅ローンや教育ローンを抱えて身動きのとれない人が一定数は存在する。そうしたしがらみが無かったからこそ私も割と前の会社をスッと辞められたわけだ。その辺を肯定的に考えるべきだな、と思っていた矢先に、

<ただし、いつまでも今のままじゃ、それこそ本当の「負け組」になってしまうことも、これまた事実だ。
現状を脱出できるか、できないか。時間はあまりない。
いずれにしても、一世一代、やる気と根性が試されている時期なんじゃないかな?>(P.220)

と締めくくられて、ウーンとなってしまった。このままじゃマズい、時間もあまりない。それも厳然たる事実である。

この36歳の質問者は、現在の年齢に直すと48歳前後になっている計算だ。あれから一体どうなったのだろう。そんなことが気になった。

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