今日は20日ぶりの純粋な休日である。もう平日の仕事を辞めてしまうために予定を色々と詰め込んだ結果だが、もしこのライブがなかったとしたら30連勤とか40連勤に延びていたかもしれない。それゆえ、うまい具合に休みがはまったといえる。
今夜のライブは「ライブ・ビューイング」という形で、Perfumeの初海外公演の最終日であるシンガポール公演を全国のシネコンなどで同時生中継をするという試みであった。もちろんチケットはすぐ完売してしまうが、ネットで色々と探していたら譲ってもらえる方を見つけたのでお世話になることになった。
ただ当日はチケットを手渡しだったので、実際に受け取るまで無事に入場できるかどうかもわからない。開演30分前の19時30分ごろに先方と合流してチケットを受け取ることができた。これでまずはひと安心である。
しかし私が抱えていた不安はこれで終わりではない。ライブの中継とはいえ、にわかファン(というほどでもないか)が入っても浮いてしまわないだろうか、という怖さが少なからずあった。会場であるMOVIX京都のシアター10はわずか422席である。P.T.A会員(Perfumeのファンクラブ会員)がギューッと凝縮して集まるに違いない。
その辺りを心配したのであろうか。かつてPerfumeの東京ドーム公演を観たことのある友人が予習用にと「Liveの楽しみ方」とかいうYouTubeの動画URLをメールで送ってくれた。付け焼き刃とはいえ観ておいた方がいいかと思い、当日の朝に1回だけ確認してみる。それは彼女たちのライブのポイントを15分ほどに要約したものだった。しかし一通り見て率直に至った結論は、
「俺のキャラではこんな真似は・・・絶対にできん」
である。
「あー、周りがこんな動きする人たちばっかりだったらどうなるんだろう?」
という思いもあるにはあったが、いまさらどうにもできるはずがない。もう自分のやり方で楽しむしかないだろう。実際この20年、自分はそうやってライブ会場に行ってきたのだから。そんなことを考えながら、2階で生ビールを買って席に座る。P.T.A会員の方に譲ってもらったチケットは「Q列9番」と、かなり後方だった。この辺りの席はみなP.T.A会員なのだろう。左隣に座っていた女性2人組は、
「台湾公演を申し込んだけど、外れてしまって」
などと喋っている。チケットを確保できていたら台湾まで足を運ぶつもりだったのか。凄いなあ。なんだか圧倒されてしまう。
そうしているうちに開演の2分くらい前にプロモーション・ビデオなどが流れていたスクリーンが切り替わり、ライブ会場を正面から捉えた映像に切り替わる。しかし、何かおかしい。開演前に諸注意がアナウンスされているが、
「気分が悪くなったら言ってくださいねー」
と日本語だったのだ。
それに対して、
「はーい!」
と、これまた立派な日本語の返事がかえってくる。撮影しているところは本当にシンガポールなんだろうか。別の意味で不安になってきたが、
「まもなく開演です」
というアナウンスに、シアター10内からも拍手と歓声が起きはじめる。スクリーンの向こうから手拍子が出てくると、シアター10でも手拍子がされる。なんとも不思議な光景だ。そして20時を少し回ってライブが始まる。
1曲目の”NIGHT FLIGHT ”から会場は総立ちし最後まで歌い踊りまくり、一方それについていかない私はポツンと孤立して「なに、こいつ?」という白い目に見られる・・・というような状況には幸運にも陥ることはなかった。さすがに最初は全員立ち上がっていたものの、1発目のMCが始まったらバタバタと座りだしそのまま最後までその状態、という人もちらほら見かけた。それは私の予測とはかなり違った光景ではあったものの、それはそれで合点はいく。
衛星生中継とはいえ、やはりスクリーンを通して観る映像である。実際に会場にいるのとは全く空気感が異なるのだ。これでライブと同じような盛り上がりができるわけがない。考えてみれば当然のことだったが、実際に始まってようやくそうした平凡な事実に私は気がついたのである。
そういえば佐野元春がどこかのラジオ番組で、これだけ技術が発達した時代でもライブの空気というのは再現できないもんだな、というような発言をしたことが頭に浮かんできた。昨今はCDなど音楽ソフトの売上げは下降に一途をたどっているものの、ライブにおける興行収入は増加している。デジタル化によって音楽データやライブ映像などが無料で観られるようになった一方で、ライブというアナログなものの価値が上がっているということなのだろう。
そういう理由もあり個人的には、大画面で動くPerfumeの3人を観るのはなかなか感動的ではあるもの、「ライブを体験した」というのにはほど遠い感覚であった。日本全国(台湾でも放送されていたという)でおよそ3万人が観ていたというこのライブ・ビューイングはかなり周到な準備をしてライブ中継をしたとは感じる。しかしそうした編集作業によって余計に、出来たライブ映像もしくはプロモーション映像を観ているような気分にさせられた。いやこれはただの録画ではなく生中継だと自分に言い聞かせてみても、冷静になってみれば「テレビで生の歌番組を観るのと何が違うでは?」という気になってくる。
そんなことを思っているうちに、「ロック・クロニクルVol.1 1985-1997」(97年。音楽出版社)というロック系のCDガイド・ブックにて、大鷹俊一さんが音楽映像についてルー・リードにインタビューした時のことが書かれている。それを思い出した。
<ルー・リードは、ディレクターたちに何もさせないことが大変だ、と言う。たしかにこれはさんざん数え切れないほどの映像ソフトを観ていて痛感していたことで、むやみにカメラを切り替え、編集をしていていくことでリズムが生まれると勘違いしている場合が本当に多いのだ。観る側は別に編集技術やカメラワークを楽しみたいワケじゃないのに、カメラを固定しただけの映像やブレたものはダメだとしてしまう感覚が、ずいぶん映像作品の表現枠を狭めてきたと思う。>(P.173)
今回のライブ・ビューイングを観てさきほどの佐野元春が発言したことの意味、また山下達郎が客席からミュージシャンが米粒大くらいにしか見えないような大きな会場でライブをしない理由がよくわかった。どう頑張ってみても映像は本物のライブに代わることができないのである。
しかしながらP.T.A会員の方々は、実際のライブさながらに立ち上がって声を出している。そのテンションの高さには感心する。門外漢の私には絶対真似のできない芸当だ。もしライブ中継を見せられただけでそこまで高揚する存在があるとすれば、ニール・ヤング&ザ・クレイジー・ホースかヴァン・モリソン、あとは(観たことはないけれど)レナード・コーエンくらいだろう。観ようと思えば観られる国内アーティストではそこまで振り切ることはできそうにない。
そんなわけで私は、予想通りというべきか、終始座って静かにスクリーンを観ていた。前方ではドカッと腰掛けたまま腕だけ振り上げている人たちが何人かいた。その光景はライブ・ビューイングというどうにも半端な形式には実に似つかわしい気がした。
愚痴ばかりになってきたので、ライブの光景について印象に残っていることをいくつか記したい。まずライブ会場の収容人数はパッと見て1000人とかその程度だったと思う。段差のないフラットなライブハウスという感じで、ただ会場いっぱいにお客が入っていた。mixiを見たら現地でライブを見た人の書き込みがあり、それによると日本人が6割でそれ以外が4割くらいだったという。比率の正否はともかく、思いのほか日本人客が多かったということなのだろう。
面白かったのは本編が終わったあとで、最初は、
「アンコール!アンコール!」
と言っていたのがいつの間やら、
「モウイッカイ!モウイッカイ!」
と変わっていたのである。「モウイッカイ」って「もう1回」ということか。誰かが会場でこの日本語を伝えたのか。そして最後の最後が終わってもお客は帰らず、どこからともなく野太い声で”ポリリズム”の合唱が始まったのはもなかなか感動的な光景であった。
しかし私がこの日に最も心を動かされたのは、アンコールで出てきた「あーちゃん」が海外公演に至った経緯を話した時である。自分は日本が好きだから外国に行くのがあまり好きではないこと、しかし映画「カーズ2」で”ポリリズム”が起用されてハリウッドに行った時に熱心なファンに出会って気持ちが変わってきたこと、これまで在籍した徳間ジャパンが日本しか音楽を流通できなかったのでユニバーサルにレコード会社へ移ったことなどを、目に涙を溜めながら語り出したのである。
そうした前段は全く承知してなかったけれど、この海外公演をおこなうまでの道はちっとも平板でなかったことだけは伝わった。そんなあーちゃんの姿を見てこちらも涙が出そうになった・・・などというのはまあ冗談である。冗談と思ってください。
しかしながら、果たして彼女たちが選んだ道は吉と出るか凶と出るのか。これはまだわからない。しかし、もしまた彼女たちを観る機会があるとしたら、こうした不完全燃焼な形ではなく実際のライブ会場が良いなとだけは強く思った。
最後にネットで拾った曲目を記す。
【演奏曲目】
0.Perfume Global Site
1.NIGHT FLIGHT
2.コンピューターシティ
3.エレクトロ・ワールド
-MC1
4.レーザービーム
5.Spending all my time
6.love the world
7.Butterfly (着替え曲・短縮)
8.edge (⊿-Mix)
9.シークレットシークレット
-MC2
10.Dream Fighter
-P.T.A.のコーナー
11.FAKE IT
12.ねぇ
13.チョコレイト・ディスコ (一部2012-Mix)
14.ポリリズム
-アンコール
15.Spring of Life
16.心のスポーツ
-重大発表
17.MY COLOR
今夜のライブは「ライブ・ビューイング」という形で、Perfumeの初海外公演の最終日であるシンガポール公演を全国のシネコンなどで同時生中継をするという試みであった。もちろんチケットはすぐ完売してしまうが、ネットで色々と探していたら譲ってもらえる方を見つけたのでお世話になることになった。
ただ当日はチケットを手渡しだったので、実際に受け取るまで無事に入場できるかどうかもわからない。開演30分前の19時30分ごろに先方と合流してチケットを受け取ることができた。これでまずはひと安心である。
しかし私が抱えていた不安はこれで終わりではない。ライブの中継とはいえ、にわかファン(というほどでもないか)が入っても浮いてしまわないだろうか、という怖さが少なからずあった。会場であるMOVIX京都のシアター10はわずか422席である。P.T.A会員(Perfumeのファンクラブ会員)がギューッと凝縮して集まるに違いない。
その辺りを心配したのであろうか。かつてPerfumeの東京ドーム公演を観たことのある友人が予習用にと「Liveの楽しみ方」とかいうYouTubeの動画URLをメールで送ってくれた。付け焼き刃とはいえ観ておいた方がいいかと思い、当日の朝に1回だけ確認してみる。それは彼女たちのライブのポイントを15分ほどに要約したものだった。しかし一通り見て率直に至った結論は、
「俺のキャラではこんな真似は・・・絶対にできん」
である。
「あー、周りがこんな動きする人たちばっかりだったらどうなるんだろう?」
という思いもあるにはあったが、いまさらどうにもできるはずがない。もう自分のやり方で楽しむしかないだろう。実際この20年、自分はそうやってライブ会場に行ってきたのだから。そんなことを考えながら、2階で生ビールを買って席に座る。P.T.A会員の方に譲ってもらったチケットは「Q列9番」と、かなり後方だった。この辺りの席はみなP.T.A会員なのだろう。左隣に座っていた女性2人組は、
「台湾公演を申し込んだけど、外れてしまって」
などと喋っている。チケットを確保できていたら台湾まで足を運ぶつもりだったのか。凄いなあ。なんだか圧倒されてしまう。
そうしているうちに開演の2分くらい前にプロモーション・ビデオなどが流れていたスクリーンが切り替わり、ライブ会場を正面から捉えた映像に切り替わる。しかし、何かおかしい。開演前に諸注意がアナウンスされているが、
「気分が悪くなったら言ってくださいねー」
と日本語だったのだ。
それに対して、
「はーい!」
と、これまた立派な日本語の返事がかえってくる。撮影しているところは本当にシンガポールなんだろうか。別の意味で不安になってきたが、
「まもなく開演です」
というアナウンスに、シアター10内からも拍手と歓声が起きはじめる。スクリーンの向こうから手拍子が出てくると、シアター10でも手拍子がされる。なんとも不思議な光景だ。そして20時を少し回ってライブが始まる。
1曲目の”NIGHT FLIGHT ”から会場は総立ちし最後まで歌い踊りまくり、一方それについていかない私はポツンと孤立して「なに、こいつ?」という白い目に見られる・・・というような状況には幸運にも陥ることはなかった。さすがに最初は全員立ち上がっていたものの、1発目のMCが始まったらバタバタと座りだしそのまま最後までその状態、という人もちらほら見かけた。それは私の予測とはかなり違った光景ではあったものの、それはそれで合点はいく。
衛星生中継とはいえ、やはりスクリーンを通して観る映像である。実際に会場にいるのとは全く空気感が異なるのだ。これでライブと同じような盛り上がりができるわけがない。考えてみれば当然のことだったが、実際に始まってようやくそうした平凡な事実に私は気がついたのである。
そういえば佐野元春がどこかのラジオ番組で、これだけ技術が発達した時代でもライブの空気というのは再現できないもんだな、というような発言をしたことが頭に浮かんできた。昨今はCDなど音楽ソフトの売上げは下降に一途をたどっているものの、ライブにおける興行収入は増加している。デジタル化によって音楽データやライブ映像などが無料で観られるようになった一方で、ライブというアナログなものの価値が上がっているということなのだろう。
そういう理由もあり個人的には、大画面で動くPerfumeの3人を観るのはなかなか感動的ではあるもの、「ライブを体験した」というのにはほど遠い感覚であった。日本全国(台湾でも放送されていたという)でおよそ3万人が観ていたというこのライブ・ビューイングはかなり周到な準備をしてライブ中継をしたとは感じる。しかしそうした編集作業によって余計に、出来たライブ映像もしくはプロモーション映像を観ているような気分にさせられた。いやこれはただの録画ではなく生中継だと自分に言い聞かせてみても、冷静になってみれば「テレビで生の歌番組を観るのと何が違うでは?」という気になってくる。
そんなことを思っているうちに、「ロック・クロニクルVol.1 1985-1997」(97年。音楽出版社)というロック系のCDガイド・ブックにて、大鷹俊一さんが音楽映像についてルー・リードにインタビューした時のことが書かれている。それを思い出した。
<ルー・リードは、ディレクターたちに何もさせないことが大変だ、と言う。たしかにこれはさんざん数え切れないほどの映像ソフトを観ていて痛感していたことで、むやみにカメラを切り替え、編集をしていていくことでリズムが生まれると勘違いしている場合が本当に多いのだ。観る側は別に編集技術やカメラワークを楽しみたいワケじゃないのに、カメラを固定しただけの映像やブレたものはダメだとしてしまう感覚が、ずいぶん映像作品の表現枠を狭めてきたと思う。>(P.173)
今回のライブ・ビューイングを観てさきほどの佐野元春が発言したことの意味、また山下達郎が客席からミュージシャンが米粒大くらいにしか見えないような大きな会場でライブをしない理由がよくわかった。どう頑張ってみても映像は本物のライブに代わることができないのである。
しかしながらP.T.A会員の方々は、実際のライブさながらに立ち上がって声を出している。そのテンションの高さには感心する。門外漢の私には絶対真似のできない芸当だ。もしライブ中継を見せられただけでそこまで高揚する存在があるとすれば、ニール・ヤング&ザ・クレイジー・ホースかヴァン・モリソン、あとは(観たことはないけれど)レナード・コーエンくらいだろう。観ようと思えば観られる国内アーティストではそこまで振り切ることはできそうにない。
そんなわけで私は、予想通りというべきか、終始座って静かにスクリーンを観ていた。前方ではドカッと腰掛けたまま腕だけ振り上げている人たちが何人かいた。その光景はライブ・ビューイングというどうにも半端な形式には実に似つかわしい気がした。
愚痴ばかりになってきたので、ライブの光景について印象に残っていることをいくつか記したい。まずライブ会場の収容人数はパッと見て1000人とかその程度だったと思う。段差のないフラットなライブハウスという感じで、ただ会場いっぱいにお客が入っていた。mixiを見たら現地でライブを見た人の書き込みがあり、それによると日本人が6割でそれ以外が4割くらいだったという。比率の正否はともかく、思いのほか日本人客が多かったということなのだろう。
面白かったのは本編が終わったあとで、最初は、
「アンコール!アンコール!」
と言っていたのがいつの間やら、
「モウイッカイ!モウイッカイ!」
と変わっていたのである。「モウイッカイ」って「もう1回」ということか。誰かが会場でこの日本語を伝えたのか。そして最後の最後が終わってもお客は帰らず、どこからともなく野太い声で”ポリリズム”の合唱が始まったのはもなかなか感動的な光景であった。
しかし私がこの日に最も心を動かされたのは、アンコールで出てきた「あーちゃん」が海外公演に至った経緯を話した時である。自分は日本が好きだから外国に行くのがあまり好きではないこと、しかし映画「カーズ2」で”ポリリズム”が起用されてハリウッドに行った時に熱心なファンに出会って気持ちが変わってきたこと、これまで在籍した徳間ジャパンが日本しか音楽を流通できなかったのでユニバーサルにレコード会社へ移ったことなどを、目に涙を溜めながら語り出したのである。
そうした前段は全く承知してなかったけれど、この海外公演をおこなうまでの道はちっとも平板でなかったことだけは伝わった。そんなあーちゃんの姿を見てこちらも涙が出そうになった・・・などというのはまあ冗談である。冗談と思ってください。
しかしながら、果たして彼女たちが選んだ道は吉と出るか凶と出るのか。これはまだわからない。しかし、もしまた彼女たちを観る機会があるとしたら、こうした不完全燃焼な形ではなく実際のライブ会場が良いなとだけは強く思った。
最後にネットで拾った曲目を記す。
【演奏曲目】
0.Perfume Global Site
1.NIGHT FLIGHT
2.コンピューターシティ
3.エレクトロ・ワールド
-MC1
4.レーザービーム
5.Spending all my time
6.love the world
7.Butterfly (着替え曲・短縮)
8.edge (⊿-Mix)
9.シークレットシークレット
-MC2
10.Dream Fighter
-P.T.A.のコーナー
11.FAKE IT
12.ねぇ
13.チョコレイト・ディスコ (一部2012-Mix)
14.ポリリズム
-アンコール
15.Spring of Life
16.心のスポーツ
-重大発表
17.MY COLOR
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