ヴァン・モリソン英国公演1日目(07年6月14日、ハンプトン・コート・パレス)
時差ボケとやらの影響はないようで、午前7時ごろスッと目が覚める。30分ほど経つとKさんから内線が入り、2人で1階の食堂に向かう。小さめの食堂には宿泊客がひしめき合っていた。ホテルの朝食はコーンフレークにパンとトーストだけである。あとは紅茶、コーヒー、オレンジジュースにミルク、さらに「HOT CHOCOLATE」と書かれたポットがあった。飲んでみたら、ココアみたいな味がする。

食事を済ませてから10時ごろ、地下鉄に乗りベーカー・ストリート(Baker Street)駅へ向かう。そこから10分ほど歩くと、スミスなどを輩出したことで有名なインディーズ・レコード・レーベルのラフ・トレード・レコード(Rough Trade Record)に入る。実際はなんてことない小さなレコード店だった。CDの中身は全て抜いてあり、歌詞カードなども確認できるのは日本と違うところである。建物の写真を撮ったものの、何も買わずに出ていく。

そこからまた地下鉄でオックスフォード・サーカス(Oxford CIrcus)駅へ行き、そこから何度も行ったり来たり、果てはバスまで乗りながら、「地球の歩き方」に載ってるフィッシュ・アンド・チップスの店「THE ROCK & SOLE PLAICE」になんとかたどり着く。

調べてみたらサイトもあった。
http://www.hollyeats.com/RockSolePlaice.htm

せっかくイギリスに来たんだからフィッシュ・アンド・チップスくらい食べたいと思ったのである。味は期待してなかったけれど、予想通り白身魚フライとフライド・ポテトの味しかしない。この店の名物のマッシュ・ピー(豆を煮たもの)もたいして美味しくない。これにコーラを足して13ポンドくらいだから、やっぱり高いな。ロンドンで生活するのは大変だと実感する。

道を引き返して、続くは大英博物館である。観光は全くするつもりはなかったが、せめてここくらいは行きたいと思っていた。ミイラやロゼッタ・ストーンのほか、かのイースター島のモアイ像まで観ることができたのには感激した。それにしても、観光客の数はものすごい。ツアーと思われる日本人の集団も見かける。それから駅に戻る途中、ヴァージン・メガストアに立ち寄る。今月11日に出たヴァン・モリソンのベスト・アルバムも置いてあったが、日本盤が出るのを信じて買わなかった。続いてピカデリー・サーカス(Piccadilly Circus)駅に行きロンドン三越でお土産を買って、さあ帰ろうと思ったら、

「ビッグ・ベンは観なくて良いんですか?」

とKさんに言われたのでウェストミンスター(Westminster)駅を降りて、ビッグ・ベンおよびウェストミンスター宮殿の前をざっと通る。ようやくホテルに戻ったのは午後6時ごろだった。

その時にホテルの人から何やら言われる。意味がわからないで困っていると、隣のKさんが、「部屋を変われ」と言っていると教えてくれる。そういえば私の部屋はベッドが2つある。急に2人連れの客でも入ったのだろうか。なんかわからないが、もっと大きい部屋に移れるとかなんとか言ってるようなので「O.K」と軽く答えてしまった。それからすぐ身支度をしてホテルを出る。いよいよライブに出発だ。

まずウィンブルドン( Wimbledon)駅まで地下鉄で行き、そこから鉄道に乗り換える。そして15分ほどしてからハンプトン・コート・パレス(Hampton Court Palace)駅に着く。テムズ川を渡ると、会場のハンプトン・コート・パレスに着く。今回観るライブはホールやライブ・ハウスではなく、この宮殿(Palace)の中で行われる。フェスティバルは「ハンプトン・コート・フェスティバル(Hampton Court Festival)」という名前で、ヴァン・モリソンは今日と明日ここでステージをおこなう。

公式サイトもある。
http://www.hamptoncourtfestival.com/

宮殿はカメラにすっぽり収まらないくらい大きい。入口でフェスティバルのパンフレットを買い、チケットを提示して中に入るとすぐステージが見えてくる。さきほどまで雨が降っていたので座席は濡れている。しかし雨は上がってライブの時には問題ないだろう。宮殿の中にはグッズ売り場があり、会場限定販売のCD(去年におこなわれたライブ1日分がまるまる入っている)、Tシャツと帽子をあわせて30ポンドで買った。

ステージを抜けると大きな庭に出る。この辺りがフェスティバルの不思議なところで、お客はみんな芝生で酒など飲んでくつろいでいるのだ。音楽を聴くのが目的なのか、それともピクニックをしたいのか。彼らの意図がはっきりしない。食べ物も売っているがなんだかよくわからないものも多く、サンドイッチを買ってベンチに座って食べていた。外はまだまだ明るく、開演時間になっても昼間と変わらないだろう。

合間にさっきのTシャツ(ヴァンの顔をプリントされている)をトイレで着替えたりしたが、周囲を見回してもこれを着ているのは会場で私だけのようである。ここにはヴァン・モリソンの熱心なファンはいないのか?また、東洋人らしき姿も見つからない。どうやら日本人はわれわれ2人だけである。

午後8時20分、開演まであと20分というところで席に座る。しかしこの時点で席はほとんど埋まっていない。5分前くらいになってようやく人も入り始めたが、開演時間までには収まりきらないだろう。だが、そんな状態で8時40分ちょうど、アナウンスとともにバンドがステージに現れてしまった。始めてしまうのか?とこっちの気持ちは落ち着かないまま、ついにヴァン・モリソンがステージに登場する。

繰り返すが、私はこの人を観るだけのためにイギリスにやって来た。だから実物が出てくると感動のあまり涙が・・・と自分でも思っていたが、横からまたゾロゾロと人が入ってくるような慌ただしい状態でそんな気持ちにはとてもなれなかった(隣に知人がいる、という面も多分にあったかもしれない)

黒ずくめにサングラスの格好で出てくると予想していたが、今日は眼鏡と白い帽子という出で立ちだった。ファンが心配するほどには太っていなかったので少し安心する。まずハーモニカを手にしながら”Wonderful Remark”、そして最も聴きたかった曲の1つである”Enlightenment ”を歌う。歌う姿にはさすがに感動するかと思ったが、正直いって、いまいち声が出ていないような気もする。

続いてサックスを抱えて”Stranded”、オリジナルと全く違うアレンジの”Have I Told You Lately ”(この曲は原曲に近い形で聴きたかった)を演奏してから「Thank You」と言う。これがこの日、最初で最後のMCとなってしまった。

バンドは9人編成とけっこう大所帯だ。ギター、ベース、ドラムス、キーボード、フィドル(バイオリン)、そしてコーラス隊が3人(男性1人、女性2人)もいる。この男性が達者な人で、曲によってはアコースティック・ギターやトランペットも手にする。さらに女性プレイヤーが1人いて、彼女はスライド・ギターやバンジョーを演奏していた。

ステージでのヴァン・モリソンは噂に聞いている通りだった。マイク・スタンドの前で仁王立ちになり、派手な動きは全く見せない。ただ、ハーモニカ、サックス、ピアノ、アコースティック・ギターをとっかえひっかえ持ちながら演奏をしてくる。レイ・チャールズの”I Can’t Stop Loving You”の途中では客席に背中を向けてピアノを弾いていたが、その姿はなんともいえない哀愁がただよう。

お客の反応は概しておとなしいものだった。ライブ・アルバム「ア・ナイト・イン・サンフランシスコ」(94年)で聴けるような盛り上がりはなく、1曲終わってから拍手が起きる程度である。ホールでのライブとはやはり勝手が違う。”Have I Told You Lately””Moondance””Bright Side Of The Road””The Beauty Of The Days Gone By”くらいで客席が少しだけ歓声がわいた。「ダウン・ザ・ロード」(02年)に入っている”The Beauty Of The Days Gone By”への反応は意外な気がするけれど、好きな人が多いのだろうか。

選曲については、
http://db.etree.org/bs_d.php?year=2007&;;;;;;;artist_key=94

で過去半年くらいの演奏曲目を調べていたので、驚くようなものは1つもなかった。試しに楽曲を過去10年(98〜07年)とそれ以前(〜97年)に分けてみると、ちょうど半々くらいである。そこにアルバムに入っていないカバ−曲も時おり混ざるという具合だ。

アルバム未収録の曲を調べてみると、”Be Bop A Lula”はジーン・ヴィンセントの曲で、昔からヴァンのレパートリーである。”Boppin’ The Blues ”はカール・パーキンス、”Brand New Cadillac”はヴィンス・テイラーという人がオリジナルらしいが、私にはクラッシュのカバーで親しみのある曲だ。この日に演奏したカバー曲は他にいくつかあるけれど、いちおう何らかのアルバムには入っている。しかし、過去の曲だろうが最近の曲だろうがアルバム未収録だろうが、初めてのヴァン・モリソンである私にとってはいずれも貴重なものである。

ときどき双眼鏡でヴァンの表情を確認したが、笑った顔は一度も見られない。途中で、私の右に座っていた子ども連れの男性から「双眼鏡を貸してくれ」と言われ2回ほど貸してあげるような場面もあった。

MCも無いのでステージはどんどん進んでいき、気がつけば本編最後の”Brown Eyed Girl ”である。ここでようやく立ち上がったり踊ったりする人が出てくる。”Brown Eyed Girl ”を終えてヴァンが舞台右へ消えていったと思ったら、すぐさま”Gloria”の演奏が始まり会場は総立ちとなる。それもつかの間で、この短い曲を歌い終えると、バックの演奏を横にハーモニカを吹きながらヴァンはまた舞台から消えてしまった。時計を見れば10時10分ごろで、ほぼ1時間半のステージだった。さすがに周囲は暗くなっている。

隣で観ていたKさんは、

「あっという間だった。気持ちよく聴けた」
「バンドがやたらうまかった」

と感想を述べていた。それは同意できるのだが、長年ずっとヴァン・モリソンを観たがっていた私には釈然としない気持ちも残る。強烈な印象も残らぬままスーッと終わってしまったという感じだったからだ。「感動した。涙が出た」とか感傷的なこと書きつらねても良いのだが、それではたいした意味はないだろう。ヴァン・モリソンを観た数少ない日本人の1人という立場なのだから、それなりに生身の彼の姿をなるべく正確に述べたいと思う。

気分屋で有名な彼の調子の悪いライブだっただろうか。いや、特にヴァン・モリソンの熱心なファンでもないKさんでも「良かった」という感想があったのだから、手抜きのライブではなかっただろう。それならば、初めての海外渡航などで疲れていた自分の心境のせいだろうか。はたまた、お客がやたら動き回って落ち着かない会場の雰囲気のためか。いずれにしても、初めて観たヴァン・モリソンのライブを位置づけるのは今日は不可能である。明日のライブを観るとまた考えが変わってくるのだろうか。

宮殿を後にして駅に向かうも、臨時電車は11時24分まで来ないという。寒い中をホームで1時間ほど待ってその電車に乗り、ウィンブルドンで地下鉄で乗り換えてアールズ・コートに戻ったのは日付の変わる0時過ぎだった。この日も部屋についたらすぐに眠る。

【演奏曲目】(カッコ内はヴァンの演奏した楽器)
(1)Wonderful Remark(ハーモニカ)
(2)Enlightenment (ハーモニカ)
(3)Stranded(サックス)
(4)Have I Told You Lately (サックス)
(5)There Stands The Glass
(6)Back On Top(ハーモニカ)
(7)Playhouse
(8)I Can’t Stop Loving You(ピアノ)
(9)Moondance(サックス)
(10)Saint. James Infirmary (サックス)
(11)That’s Life(サックス)
(12)Stop Drinking Wine(ハーモニカ)
(13)Bright Side Of The Road
(14)Cleaning Windows/Boppin’ The Blues /Be Bop A Lula
(15)The Beauty Of The Days Gone By(アコースティック・ギター)
(16)Precious Time
(17)Goin’ Down Geneva /Brand New Cadillac(ハーモニカ)
(18)Help Me/(サックス、ハーモニカ)
(19)Brown Eyed Girl
<アンコール>
(20)Gloria(ハーモニカ)

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