ライブの日は休みたい。いや、休まないまでも時間に十分な余裕をもって出発したい。本日の感想について書こうとする時、まず頭に浮かんだのはそのことだった。

普段通りに仕事をして定時に職場を出たら17時30分である。開演時間の19時までに難波の会場へ果たして辿り着けるかどうか。それはいままでやったことのないしけれど、かなり危ない線である。だから今月の早い段階から「なんとか休めないでしょうか・・・」と上司に相談を持ちかけていたけれど、諸般の事情で叶わなかった。

そこで17時30分から出発する場合の経路をYahoo!の「路線情報」をもとにしミュレーションをしてみる。そして一番可能性が高いのは、17時53分に阪急「西京極」駅の普通列車に間に合えば開演10分前に最寄り駅の難波に到着できるというものだった。自転車やバスでは絶対にその時間に西京極へは行けない。そこで昼休みにタクシーを予約しておいた。午後5時を過ぎる頃からソワソワして落ち着かなくなってくる。

「いま職場を出れば確実に間に合うんだけどなあ・・・」

ちなみに本日は上司が既に外を出てしまったので、抜け駆けできないわけでもなかった。しかし、終業5分前に電話がかかってきたらどうしよう?という不安もあったし小心で小物の私にはできそうにない。そうして17時30分になったら、バッと職場の扉にカギをかけて入口までダッシュした。が、なぜかこの時点でくるはずのタクシー会社から連絡がこない。まさか時間を勘違いしたのか?とまずここから不安になった。が、職場の門まで走ると1台のタクシーがスーッと入ってくる。これだ。飛び込むようにそこに乗り間髪入れずの出発である。この時点で17時31分だったか。

「しかし時間通りきっちりに来るってどういうことだ?せめて3分前とか5分前に待機ておいてもいいのでは・・・」

とこの辺りですでに私は柄にもなくかなりイライラしていた。しかし乗ってしまったからには、もう仕方ない。あとは運転手に身をゆだねる、というか運を天にまかせるほかないだろう。だが、予想通りのことだが、夕方の道はけっこう混んでいた。普段なら気にしない目の前の車やバイク、赤信号や歩行者に対してもかなり憎悪が湧いてくる。

「邪魔なんだよ!ここが日本でなくてシエラレオネだったら、てめえら全員ケチャップまみれになってるぞ!」

例えが古いが、今は亡き横山やすしのような心境になっていたのではないか。しかし、それもこれもスレスレの時間だったのが一番の問題なのだ。これがもう10分遅れとか20分遅れだったら簡単に諦めがつく。しかし、この赤信号1つが点灯しなければ間に合っていた、というような微妙な線が続くから穏やかな心境になれるはずがない。

そうして17時48分、五条通を抜ければ駅前に着く、と思った時点で何度目かの赤信号である。

この時点で、

「ああ・・・駄目だったか・・・」

と一度だけ観念した。信号を抜けて右折をし西京極駅前に着いたのは17時50分である。

「走ろう!」

思ったのはそれだけだった。確かタクシー代は1600円くらいだったが、2000円出してすぐ外を出て行った。タクシーに乗っておつりを受け取らなかったのは、これが生まれて初めてのことである。

券売機でパッと梅田行きの券を買い、ダーッと階段を走る。ようやくホームに着いた時は17時51分、発車時刻のわずか2分前だった。間に合ったのである。そして17時59分には桂駅で通勤特急に乗り換える。これで開演20分前には梅田に着けるだろう。

とりあえずイライラした気持ちを押さえるために、携帯でBONNIEの「Chasing Hope」を聴きながら次の手を考えた。まだ安心できない。

「地下鉄に乗って難波に行ったら18時51分に到着だが、そこからスッとなんばHatchに行けるだろうか?地下道はゴチャゴチャした構造になってるし・・・」

と考えているうちに18時35分、やっと大阪の梅田に到着である。電車を降りたら、また走る走る。そしてタクシーをつかまえて飛び乗った。

「なんばHatch・・・湊町リバープレイスに行きたいんですが、わかりますか?」

と訊ねたら、

「わかりますよ」

運転手は淡々と言って走り出した。この時点で18時40分、開演まであと20分だ。

「道に迷ってバタバタするくらいなら、タクシーの方が確実だろう」

そう判断したのである。しかしご多分に漏れず、大阪の道もまた混雑していた。そうした渋滞のないだけ地下鉄の方が有利だったかもしれない。赤信号にも何度かぶつかる。これもまた賭けであった。5分、10分、15分、時間だけが残酷に流れていくが車はスムーズに進まない。ようやく道頓堀のそばに来てなんばHatchの姿が見えてきたのは18時50分だった。しかしここにきてまた信号は赤になる。あー、もう!

そこから右折してまた信号が2つ3つあった。いずれも赤信号である。しかし思いのほかパッと切り替わり、やっとやっとなんばHatchの前に辿り着く。タクシーのメータは1700円だった。

ここでも1000円札を2枚出して、

「これで!助かりました!」

と言い残してすぐに車を飛び出して走った。タクシーに乗っておつりを出さなかったは、これが生まれて二度目のことである。しかし、行きのタクシー代だけで400円か・・・。

ここまで来てやっと落ち着いてきたが、まだ走る。会場前にある階段が憎たらしい。そうしてやっとなんばHatchに入る。チケットをドリンク代500円を払い、エスカレーターもまた走る。ここでいったんトイレに入りドリンクを交換して、チケットを取ってくればBさんと合流する。やっとやっと座席に辿り着いた。この時点で18時57分、開演3分前であった。本当にギリギリの線であったが、職場から90分でなんばHatchに行けることを身をもって証明することができたわけだ(だからといって何も意味はないけどね)。

チケットでと引き換えたビールを飲みBさんとしばし談笑をして、ようやく気持ちも落ち着いてきた。正直いってこんな体験、ライブそのものよりもずっとスリリングだった。やはり私は開場1時間くらい前には大阪に着いて、周辺をフラフラしたり食事を済ませながら会場入りするというのが似合っている。もうこんな思いはしたくない。

さて今回のツアーであるが、会場は全て前方がイス席で後方が立ち見という形式になっている。そうなると必然的に収容人数も減ってしまうが、それでも当日券が出ていなのは少し寂しかった。ちなみに私は前から4列目の中央よりやや左よりという良席である。それもこれもFC枠を持っているBさんの計らいであるが。

ライブが始まったのは19時2分ごろだったろうか。アンデスの民族衣装のような格好をしたBONNIEが登場して”Stand Up!”の演奏が起きたらイス席のお客も立ち上がる。こちらはもう開演前から疲れているという感じだが、座っているとステージが見えなくなるし一緒に立つことにした。前回はアコースティック主体の演奏だったのでずっと座っていたのだが。

そこから”Animal Rendezvous”、”Mountain High”と新作アルバムから立て続けに演奏されるのは予想通りとして、それ以外の曲はけっこう意表を突かれた。「Just A Girl」(01年)より”コイン”、そして「Even So」(04年)から”The Answer -ひとつになる時-”と、アルバム発売寺のツアーしか歌っていないであろう曲も出てきたし、また赤髪だった頃の”Fallen Sun”と”He”については、当時のライブを観てない自分としては嬉しかった部分もある。

色々と考えた選曲だったなとは感じる。感じるんだけど、この内容で初日から千秋楽まで貫き通すというのもどうかなあ、と疑問も消えることはない。また、19曲の演奏のなかで新作は10曲と半分以上を占めるのだが、ライブ映えしそうな2曲(”ナツガレ”と”Baby Baby Baby”)を歌わなかったのかがどうにも不思議だ。個人的にはこの2曲は聴けるかなあと思っていたのだが。Bさんが初日の感想をブログで書いていて、

「予想の斜め上を行くセットリスト」

書かれているけれど、そう言われても仕方ない内容ではあるだろう。そんなわけで、楽しく観ていた部分もあるのが、なんともやり切れないような不完全燃焼という感じで終始ライブを観ていた。

印象的な場面を挙げると、”Bad Bad Boy”の時にバンド・メンバーの男性4人(Bad Bad Boys)のうちドラムスの白根賢一とギターの八橋義幸が上半身裸になって演奏していたこと、そしてそれが終わったらまた何事もなかったようにシャツを着直していたのがなんとも可笑しかった。それからアンコールの”Forget Me Not”ではメンバー全員がギターを持って(八橋だけ弦が8本あるマンドリンのような楽器を持っていた)演奏をするというジャム・セッションのようなことをしていた。あとは、”Animal Rendezvous” でのBONNIEが猫の手のようなポーズをとった(「Animal」だからだろう)のが可愛らしかったなあというところか。ずっと評判悪かった音響については、やはり去年から改善されたか、一つ一つの楽器が前よりクッキリと聴こえていたような気がする。

実際に自分がライブを観るまでセット・リストは知らないでおいているが、今回はあの”Heaven’s Kitchen”をしなかった、という情報だけは入っていた(というか、某所をクリックしたら目に飛び込んできた、というのが正確な話なのだが)。しかし今夜は最終日ということもあって、2回目のアンコールの際に飛び出してしまったのである。この曲で締められると俄然、いつもと内容は変わらなかったかなあ、という印象が強くなる気がする。こうして2時間ほどのライブは終了した。

終わってからしばらく会場前にいると、15人くらいのファンが入口に記念写真を撮っていて驚く。いつもはそんな人たちはいなかった気がするが、どうしたことだろう(Bさんは、最終日だからじゃないの、と言っていたが)。私の横では、いままで観た中で一番良かったですよ、と実に満足そうな表情をして話している男性もいる。こうした人たちをなんとか繋ぎ止めるようなライブもしないといけないが、果たして彼らは2度、3度とこれからも足を運んでくれるのだろうか。そんなことを心配する立場でもないのだけど、彼女のパフォーマンスが悪いとかそういう話ではないので問題は余計根深い。

そこからBさんやMさんを含めて5人で打ち上げをし、12時近くまで飲んだ。もはや京都まで帰ることもできなくなった私は今回、鶴橋にあるBさんの部屋に転がり込んでしまった。そこBONNIEのシングル”オレンジ”(95年)のプロモ盤などを見せてもらったり、Bさんの大好きなバケットヘッドの動画を一緒に観たりしているうちに午後3時となり、そこで就寝となった。最後に本日の曲目を記す。
※他の会場も曲目は一緒だそうです。ただ、東京2日目は2回目のアンコールで”Rumble Fish”を、大阪では”Heaven’s Kitchen”がありました。

【演奏曲目】
(1)Stand Up!

(2)Animal Rendezvous

(3)Mountain High

(4)コイン

(5)The Answer -ひとつになる時-

(6)My Angel

(7)Fallen Sun

(8)Passive-Progressivism

(9)He

(10)A Perfect Sky

(11)Bad Bad Boy

(12)Tiger Lily

(13)街の名前

(14)冷たい雨

(15)Don’t Cry For Me Anymore


<アンコール1>

(16)Forget Me Not

(17)Happy Ending

(18)Change

<アンコール2>
(19)Heaven’s Kitchen

【収録曲】
(1)Stand Up!
(2)ナツガレ
(3)Mountain High
(4)Bad Bad Boy
(5)街の名前
(6)Animal Rendezvous
(7)My Angel
(8)Tiger Lily
(9)Baby Baby Baby
(10)Don’t Cry For Me Anymore
(11)冷たい雨
(12)Change

BONNIE PINKのライブまであと2日と迫った。たぶんこれを逃したら本作の感想を述べる機会も失うのでなんとか書いて仕上げてみた。ちなみに前作「Back Room」はライブ当日に載せたのだから、それよりはちょっと早くなっている(何の自慢にもならないか)。

作品の感想を言う前に、このアルバムの発売前におこなわれたことについて少し触れておきたい。7月18日から発売日前日(7月24日)まで、iTunes Storeにてこのアルバム全編を無料配信をしていた。発売前の1週間はタダで聴くことができたのである。こうした例は海外ではレッド・ホット・チリ・ペッパーズやリンキン・パークなどの例はあるものの日本では彼女が初めてであった。

作品全てを無料で公開するとは大盤振る舞いだが、しかしちょっとした制限も施されていた。アルバム1曲1曲を聴くことができず通して聴くことしかできないのだ。また、彼女自身もアルバムの流れにはかなりこだわりを持っているようで、アルバムは「アタマから聴いて!」と「Gyao」で放映されたインタビューで強調していた。こうした彼女の意図もあって無料公開に踏み切ったのだろう。

集中力があまりない私は50分という長さのアルバムをずっと付き合うのはよほど気に入らないと無理なのだが、今回の無料配信はこうした形でしか聴けないこともありなんだかんだで10回くらいは買う前に通して聴いてしまった。1枚のアルバムを短期間にこれだけ繰り返し聴いたのも久しぶりな気がする。

そうしているうちに、

「確かに今回のアルバムの流れはいいかもしれないな」

と思うようになっていく。彼女の策略にまんまとハメられてしまったようだ。別にファンだからそれはそれで嬉しい話なのだが。

ただ正直に言うと、これを聴いた時の最初の印象はそれほど芳しいものではなかった。はっきりした説明はできないけれど、音質がなんだか気に入らなかったのである。抑えめというか控えめというかハッキリしないというか、とにかく自分にとって求心力が弱かったのだ。また、1曲目の”Stand Up!”もそれほどピンとこなかった(現在でも同じような印象である)。しかしそれでも3回、5回と聴いていくうちにだんだんと耳に馴染んでいき、楽曲などの特徴や魅力も見えてきた。そういう具合だった。これがもし無料配信をしてなかったとしたら、ほとんど聴かずにライブ当日を迎えていたかもしれない。

本作を聴くにあたり念頭に入れたいことは、やはり「3・11」の震災以後に彼女が初めて作った「オリジナル・アルバム」だということだろう。去年に出た「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」(11年)は、新曲が1曲入ってはいたものの、過去の作品を再録したいわゆる「リメイク・アルバム」であり企画ものである。また、あの時期の彼女はあまり新曲を作る気分にもなれなかった、とアルバム発売時におこなわれた各種インタビューでも語っていた。

例えば「ナタリー」のインタビューが参考になるだろう。
http://natalie.mu/music/pp/bonniepink

ここでインタビュアーに「全体的に外に向いている印象を受けました。」とアルバムの感想を言われて、

<テレビを観てても明るいニュースが少ないし、景気も全然良くならないし……どないすんねん!みたいな気持ちが強くて(笑)。じゃあせめて音楽で明るい要素を提供できればなと思って、なるべく明るい曲を書くようにはしていました。>

<私自身、希望を感じられる出来事がそろそろ欲しいっていう気持ちだったんです。震災以降というメンタリティもかなり反映されている1枚なので、被災された方々に向けても、次の一歩が踏み出しやすくなるような1枚を届けたかった。そうすると自然に「Chasing Hope」っていうタイトルが一番しっくりくるなと思って、こうなりましたね。>

などと語っている通り、震災以降の彼女の思いがあちらこちらに込められている。実際、””My Angel”や”Don’t Cry For Me Anymore”や”街の名前”といった曲が震災がきっかけで作られたものだそうだ。

希望とかなんとかいうともっと勢いのあるキラキラした音作りが想像されるが、先ほども指摘したように音質については割と控えめな感じである。そこが良い意味で彼女らしい。楽曲自体は今までなかったタイプの”ナツガレ”などライブ映えしそうだなと思う一方、ピアノのみで朗々と歌われる”My Angel”には、過去の作品に通じる懐かしさを感じた。彼女の代表曲になるような突出したものはないかもしれないが、全体的にバランスの良い充実した作品になっている。

このアルバムは7月の終わりに出たわけだが、夏の時期は職場への行き帰りの途上で、自転車に乗りながらこのアルバムを聴いていた。その時はよく、

「なんだか今の時代の空気に合ってる気がするなあ」

と意味も無く感じることがあった。そりゃあ今年出たアルバムだからいまの時代のものに決まっているだろうが、と思う方もいるかもしれない。しかし私は鈍感なこともあって、ラジオで昨今の曲を聴いてもほとんど同時代性を感じるような場面はほとんどない。また今年買ったアルバムにしてもリチャード・トンプソンとかレナード・コーエンとかヴァン・モリソンとか、時代とは無縁の創作活動をしているような人ばかりだ。そんな自分にとって2012年現在を伝えてくれるということでも彼女は貴重な存在である。今年を代表する作品といったら、私は間違いなくこの作品を挙げる(というほどもはやCDを買ってないけれど)。

さあ、それでは問題の(?)ライブがまもなく大阪でも行われる。果たして奇跡的なほど良かった前回に迫るものになるだろうか。

前回の感想はこちら。

BONNIE PINK京都公演「BONNIE PINK Acoustic Live Tour 2011 ”@thebackroom”」(2011年10月28日、磔磔)
http://30771.diarynote.jp/201110301051347144

ライブ前はさすがに期待と不安が入り交じってるが、とりあえず開演時間に間に合えることだけを今は願おう。

昨日(7月18日)の夜は無料動画配信サイト「GyaO!」にてBONNIE PINKの生ライブトークを視聴していた。彼女がこうした場に登場したのは理由があり、1週間後の7月25日に新作アルバム「Chasing Hope」が発売されるからだ。その宣伝のためである。

部屋のパソコンが動画を観るための適切な設定がされてなかったため最初の10分ほどは観ることができなかったものの、貴重な話(去年買った5匹のバッタがみんな死んだ、とか)もいくつかを聴けてとりあえず良かった。

冗談はさておき、昨夜の話題の中心はもちろん「Chasing Hope」についてだ。私はもう買いに行くのも面倒なのでネットで注文をした。よって出荷日に手を取ることはなく、早くて発売日当日になるだろう。別に急ぐ必要もないし個人的にはそれで十分と思っていた。だが、思いもよらぬ形でアルバム全編を聴くことになる。
「iTunes Store」にて「Chasing Hope」をまるまる無料で視聴できるというのだ。

アルバムの全編を無料配信するという試みは日本人のミュージシャンでは史上初だそうだ。海外ではどの程度おこなわれているのか知らないけれど、ルー・リードとメタリカの共演盤「Lulu」(11年)を偶然何かでまるまる聴いたことがある。プロのミュージシャンが自身の作品を無料で流すということはこれまでは考えられなかったことだが、このご時世にお金を出してまでCDを買う人も少ないし、ひとまずは聴いてもらって関心を引くということでこうした手法は日本でもおそらく増えていくだろう(他に有効そうな宣伝方法もないだろうし)。

無料配信については彼女の公式サイトがわかりやすいのでリンクを張っておく。
http://bonniepink.jp/

配信はアルバム発売日の前日(7月24日)までおこなわれる。その間はタダでいくらでも聴くことができるわけだ。が、この配信にはちょっとした制約がある。アルバムに収録されている曲を1曲ずつは聴くことができないのだ。いや実際は曲と曲の間の時間を調べれば聴くことができるのだけど、それでも時間を測るために1度は通して聴かなければいけない(そのあたりは実際に確認願う)。

こうした配信の仕方に対してBONNIE自身は、このアルバムの曲順には自信があるのでぜひ通して聴いてほしい、というようなことを番組で語っていた。発言内容についてはうろ覚えで申し訳ないが、自分はまずアルバムありきで作曲をするというようなことを受けてのものである。だからシングルについても、アルバムのために作った曲の中から「さて、どれをシングルにしようか?」と考える場面が多い、とかなんとか。彼女の創作活動を垣間みれる発言でなかなか興味深いが、信憑性は高いと感じた。確かに彼女のこれまでのシングルを見てると質はともかく、シングルらしくないなあ、という曲もけっこうある気がするし。

それにしても、MP3プレーヤーで音楽が聴いて音楽を1曲単位で買うようになった昨今に敢えて「アルバム」という形式にこだわるというのは、時代に抗っているようで個人的には彼女の姿勢を頼もしく感じてしまう。別にBONNIE PINKについて興味が無い方も、日本人ミュージシャンとして史上初という試みを見るためiTunes Storeに立ち寄ってみてはいかがだろうか。
(1)カイト
(2)Busy-Busy-Bee
(3)カイト (Instrumental)
(4)Busy-Busy-Bee (Instrumental)

今日はまた一段と寒さが厳しくなった気がする。外の風がひどく冷たく感じた。セラミックヒーターしか暖房設備のないこの部屋はヒーターの周辺しか暖かくならないため、手もガチガチに冷えきってしまいキーボードを打つのも億劫になってくる。

そんな状態でひとり部屋にいると、1年前の冬を思い出す。あの時の私はまだかつての会社に在籍していた。

「果たして一年前と現在とではどっちが悲惨な状況だったのだろう?」

そんなことをふと考えてしまった。現状の私の答えは、どちらとも言えない、である。今は今で辛い状態に陥っているけれど、だからといって以前の方が良かったというような気持ちにもなれない。

実際、去年の10月から半年ほどは本当に厳しい時期だった。この間ほとんど仕事を休んでいない。表向きには土日や祝日は休みしていたけれど、どこかの時間にで職場へ訪れ何らかの作業をしていた。平日も午前7時ごろ、提示の2時間半くらい前、に出社して雑用をこなす。昨年は大晦日まで会社にいた。さすがに元日は休んだものの(渡辺美里のライブを観るため渋谷へ行っていたため)、翌日2日から既に会社へは来て仕事をする。そんな私を無能だと思う方もいるだろうが、そうしなければ回らないほど仕事を抱えていたのである。

もし会社を辞めていなければ、今年の今頃もそんな状況に陥っていたのは間違いない。そう考えるだけでもゾッとしてくる。

その頃の私が最もよく聴いていた曲がBONNIE PINKのシングル曲”カイト”(10年)だった。いや、この1年ほどで一番聴いているのもこの曲に間違いない。

まだ日も昇ってもいない時間に部屋を出て、寒空の下で自転車をこぎながら、

<答えなんてないさ くそくらえ
これが僕だけの生き方さ
自由なんてない この社会で
心だけは僕のものさ>

とこの曲のサビを何度となく歌っていたことを今でも生々しく思い出す。
”カイト”の歌詞はこちらで確認できる。
http://listen.jp/store/artword_1000773_109415.htm

当時の私は厄介な仕事を担当することになる。しかし上司は仕事の内容など認識もぜず作業を私一人に押しつけ、前任者はまともな引き継ぎもしないまま逃げていき、そんな中で業務に臨まなければならないという四面楚歌な状態だった。誰を責めることもできずやり場がなくなって精神状態はこのうえもなく悪化していた。そんな気持ちを発散しようとしてこの曲を歌っていたのだろう。

ちなみにこの時期に私が平日に休んだのは「半日」、0.5日だけである。その半日も何のために休んだのかといえば、BONNIE PINKのライブを大阪で観るためであった(笑)。もちろんこの時は”カイト”も披露されている。なんだか偶然といえないような話だな。そういえば渡辺美里が京都でライブがあった時も仕事に潰されていチケットを無駄にしたのも去年の11月だった。そんなこんながあったおかげで、

「自分の人生にとって何が大事なんだろう?」

などということを34歳(当時)にして初めて真剣に考えるようになったのかもしれない。こんなバカバカしい仕事のために自分の何もかもを犠牲にするのは愚かだ。もっといえば、会社の業績も右肩下がりで自分が定年まで残っている見込みはない。また自分など子会社の社員が働いたおかげで得をするのはバカな経営者一族や本社の社員である。

「資本主義に生きるうえでお金も大事だが、私はもっと自由な生き方を模索したい」

端から見れば実に青臭い想いに見えるだろうが、そんな気持ちが膨らんでいき私はついに職場を去る決意をかためていったのである。

季節がめぐりまた冬の寒さが辛くなってくると、自然と”カイト”のサビが頭に浮かんできてしまう。あまり良い行為ではないが、今も朝早く部屋を出る時にはiPodでこの曲を聴きながら自転車を走っていることもある。

ということは、私の心境は一年前とそれほど変わっていないということなのだろうか。それはそれで悲しいこと。果たして私にこの曲のカイト(凧)のような生き方のできる日が訪れるのだろうか。
BONNIE PINKが秋にアコースティックのツアーをおこなう。ファンクラブ会員のBさんからメールが送られてきたのは6月29日のことだった。そこには京都公演も含まれており、会場はなんと磔磔であった。ここはオール・スタンディングでも300人しか入らない小さな会場だ。当時の私は会社を辞めてまだ働ける状態ではなかったけれど、あまり考えずに「1枚確保しておいてください」と頼んでしまう。

7月16日にBさんから再び連絡がくる。Bさんは京都公演の2日間のうち一方はなんと外れてしまったのとのこと。彼女のライブで完売が出るということは久しくなかったので、今回のライブはプレミアムライブになるのか、と少なからぬショックを受ける。ともかくもう私の分の席は確保できたことは嬉しかった。こういうツテがなければオークションはお世話になるしかなかっただろう。しかも整理番号は「10番」である。私はつくづく幸運だった。

そして当日の午後6時20分ごろ、会場10分前くらいに会場に着いてすぐBさん、そしてBONNIEファン歴がBさんと同じくらいのMさんと合流する。Bさんは既に香川県の高松で既にライブを観ていたが、

「別に悪くはないんだけど・・・」

と微妙なことを口にしていた。今回もライブは「相変わらず」の調子なのだろうか。私も入場する前までは期待値ほぼゼロという状態ではあった。

しかしながら、いざ磔磔の中に入ると気分が一変する。ただでさえ小さな会場に椅子がズラッと敷き詰められているではないか。席数を正確に数えていないけれど、どう見ても120席くらいしかない。私が予想するよりも遥かに今夜はプレミアムなライブとなりそうだ。

しかも10番という整理番号だったため前から2列目のど真ん中に座ることができた。磔磔はステージが低いのが特徴だ。そのおかげでミュージシャンとの距離が以上に近い。またスタンディングではステージ前に柵がこしらえているのが常であるものの、それも今日は設置されてず視野もすっきりと開けている。BONNIEとは1.5mくらいの近さである。ここまで接近できたのはそれこそ02年11月4日に徳島大学でおこなわれた学園祭ライブ以来だ。なんか自分らしくなくテンションがやたらと高くなってきた。そうした心境の中でも開演である。

BONNIEの格好はロングのワンピースであった。至近距離で見る彼女は目が潤んでいて、奇麗だなあ、としばらく見とれていた。私より3歳年上だから38歳とそこそこの年齢なのだが実に可愛らしいというしかない。あわよくば今夜の衣装が薄着で肌の露出が多いものだったらもっと良かったのだが。なんだか完全にミーハーとなっているけれど、今日は特別なことが起こるかもしれない、という不思議な予感が私の頭をよぎる。

1曲目は”Ring A Bell”、そして2曲目は”A Perfect Sky”と先日に出た「Back Room」(11年)から立て続けに歌われる。こういう流れはかつてのツアーと変わりはないが、なんだか今夜の彼女は自分を引き込んでしまうような力を出していた。驚いたのが3曲目で、髪が赤かった頃の「evil and flowers」(98年)から”Hickey Hickey”が飛び出したことである。この曲は初めて聴くことができたのでテンションがさらに一段と上がってしまった。

続くも大好きな曲の一つである”So Wonderful”で、これもなんだかんだいって何年も聴いてなかった気がする(シングルで発売されたのは05年)。去年の「Dear Diary Tour」ではその前に出したアルバム「ONE」(09年)の曲を一切しなかったような人だから、過去の曲はどんどん貴重な存在になっていく一方である。

実際、今回も「Back Room」に収録されている10曲を全て演奏してしまうという具体だった。それだけを見れば「相変わらず」のライブといって良いはずだ。しかし、なぜか今日のライブは近年にないほど素晴らしく感じられたのである。アンコール最後の”Look Me In The Eyes”まで終始ステージを見とれているうちにあっという間の2時間、全16曲であった。とにかく良かった。

しかしなが、ら良かった良かったを言うだけでは感想にならない。いつもは不平不満をぶつぶつと言っていたくせに、いざこうしたライブに接するとそういう言葉しか出てこないから厄介だ(観てる側の人間って勝手なもんですねえ)。しかしそれではあんまりだし、行きたくてもチケットを取るこのできなかった方が読んでいるかもしれないので、良かったと思われる要因を列挙してみる。

・BONNIEではなく単に聴き手である私のテンションが高かっただけ
確かにテンションは高めだったが、横で観ていたMさんも、ここ数年(いつ以来?)ではかなりの出来、と珍しく褒めていたのでこれが理由でもないだろう。ちなみMさんはこの日のライブでBONNIEのライブ参加は100回目!それがこの内容だったのは良かったですねえ。

・音響が良かった
これはMさんの指摘である。といっても磔磔が別に音響の良い会場とかいうのではなく(もともと酒蔵だった建物なので根本的にライブハウスには向いていないだろう)、エンジニアの技術についてを言っている。BONNIEのライブでの音の悪さについては厳しい意見をよく耳にしたが、今回はその辺りが解決されていたようである(私はこの辺りが鈍感なのでよくわからない)。エンジニアが変わったのではとMさんは推測していた。

・バンドの編成が良かった
今回は「Back Room」に参加した鈴木正人(ベース、キーボードなど)、八ツ橋義幸(ギター)、坂田学(ドラムス)との4人編成だった。アコースティックとは言っていたけれど、エレキ・ギターもエレキ・ベースも活躍していたし、オープン・リールで多重コーラスを加えるという場面(”Paradiddle-free”の時)があったりという感じである。それはともかく、今回のバンドも通常より締まっているというか彼女との絡みも良かった気がする。

・会場の雰囲気
通常よりこじんまりとした会場だったので、アットホームというほどでもないけれど、お客は静かに観ているという感じでライブは進んでいった。去年のツアーではやたら「めっちゃかわいい!」とか終始叫んでいるイタい女性がいたけれど、今夜はそうした存在も皆無であった。そのあたりもよい方向に作用したかもしれない。

色々あげてみたけれど、これがライブの良かった一番の要因だと確信できるものは私の中では出てこない。BONNIE自身の調子がどうかというのも大事な話だろうが、アルバム全編をするところを彼女の根本が変わったとは思えない。だから、今回はたまたま良かったけれど次回のライブはまた逆戻り、ということも大いにあり得る。というかその時までに気持ちの切り替えはしておいたほうが良い。しかし個人的な問題があり本日をもってライブはしばらく行けないであろう自分にこうしたライブを見せてくれた彼女には感謝するほかない。

今度はもういつ会えるか、それはよくわからない。そんな想いをこめて最後の最後はスタンディング・オベーションを送った。しかし立ち上がっていたのは私一人だけである。なんだかイタい客になってしまったな。下に演奏曲目を記す。

【演奏曲目】
(1)Ring A Bell
(2)A Perfect Sky
(3)Hickey Hickey
(4)So Wonderful
(5)Paradiddle-free
(6)Last Kiss
(7)Present
(8)Burning Inside
(9)Grow
(10)日々草
(11)金魚
(12)The Sun Will Rise Again
(13)Heaven’s Kitchen
(14)Fish
(15)Tonight, the Night
(16)do you crash?

(アンコール)
(17)流れ星
(18)Look Me In The Eyes






BONNIE PINK「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」(11年)
(1)Heaven’s Kitchen (from 02nd album "Heaven’s Kitchen")
(2) Ring A Bell (from 10th album "ONE")
(3)A Perfect Sky (from best album "Every Single Day -Complete BONNIE PINK(1995-2006)")
(4) Burning Inside (from 09th album "Thinking Out Loud")
(5)Paradiddle-free (from 08th album "Golden Tears")
(6) Present (from 06th album "Present")
(7) Last Kiss (from 07th album "Even So")
(8) Look Me In The Eyes (*new song)
(9) Tonight, the Night (from 06th album "Present")
(10) Do You Crash? (from 02nd album "Heaven’s Kitchen")

この作品の感想を書こう書こうと思っているうちに京都でのライブが当日に迫ってしまった。もう今日を逃せば時機を完全に逃してしまうので無理して書こうと思う。

今回出た「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」は純粋なオリジナルの楽曲で構成された作品ではない。彼女がこれまで作った過去の楽曲を再演した「リメイク・アルバム」と言われるものである。プロデュースはここしばらく一緒にツアーをしてる鈴木正人(リトルクリーチャーズ)が担当した。

選曲についてはライブはほぼ必ず演奏される”Heaven’s Kitchen”を筆頭に、”A Perfect Sky”、”Last Kiss”、”Tonight, the Night”、”Do You Crash?”と彼女のライブの定番といっていい曲が並ぶ。その中に、渋いというか「どうしてこの曲を選曲したの?」とその理由は本人しかわからないような曲がちらほら入っているという具合だ。そして”Look Me In The Eyes”という新曲が1曲入っている。

以前の日記でも書いたけれど、私は「リメイク・アルバム」というものに特別な意味を見出せると思っていない。昔の作品を再演する以上のものはできないというのが一番の理由だ。だいたいremake(作り直す,再製する,修正する)という言葉そのものに前向きな要素が感じられないではないか。皆さん、そう思いません?

しかし出てしまったものはもう仕方ないし、ライブのチケットは買っておいて予習しないわけもいかないし、とかなり低いテンションの中でこのアルバムを買った。いつもは出荷日に手にいれているCDも今回は発売して数日後まで手に入れていなかったことも自分の心情が出ている。

このアルバムを聴くに際して、自分に課したことが1点ある。

それは、

「純然たる新作で聴く。オリジナルの楽曲との比較をするような真似はしない」

ということであった。

この3年くらいの間に好きなミュージシャンがセルフ・カバーを出すことが立て続けにあり、その内容に少なからず失望をするという経験をしたからである。ガッカリした理由はやはり、オリジナルのほうがずっと良い、という思いが頭に渦巻いたためだ。また。過去の作品との比較でその人の衰えのような部分も見えてくるのもまた辛い。そんなこともあってBONNIE PINKに対しても、そういう作品を作ってもらいたくなかったのだが、と最初はそう思った。聴く前の私の心境はそんなところである。

だが実際に作品に接してみると、私が抱いた不安はおおよそ消え去った。アレンジはアコースティックを基調とした穏やかなものであり、楽曲を滅茶苦茶にするようなことはしていない。無謀な冒険や中途半端な挑戦を排した実に手堅い仕上がりとなっている。

歌声も、以前に比べると力が落ちたなあ、というように感じることもなかった。もともと私は穏やかでシンプルなアレンジの方が彼女の歌声に合っていると思っていたのでこういう音作りは歓迎してしまう。事前の予想に反して気持ちよく全編を聴き終える。また、オリジナルの作品と比較してどうということも自分の頭には一切浮かばなかった。正直ホッとした。

それでは、自分にとって今回の「Back Room」の何が良かったのだろう。しかし突き詰めて考えてみると文章がなかなか書けないので何かとっかかりがないかと公式サイトを調べてみると、アルバムの特設ページに内田順一という人が作品の感想を載っていて、

「BONNIE PINK の"シンガーとしての" 魅力を十二分に感じることのできるアルバムだ。」

と書いているではないか。俺が言おうしようとしたことが既に出ている、と苦笑した。

リメイク・アルバム自体には基本的に何も求めてはいないが、個人的にはこのアルバムを聴いて大きな収穫が一つあった。それは、自分はこの人の声が好きなんだ、ということを再認識できたことである。そしてそれはオリジナル・アルバムを聴く時とは違う作品の接し方ができたことによりBONNIE PINKの魅力の核のようなところを改めて触れることができたのだろう。これは自分でも意外であった。

聴くまでは逡巡していたけれど、過去との比較などはせずに新しい作品として接すれば実に気持ちよく聴ける秀作である。少し前に私のように、リメイク・アルバムなんて・・・と思っている人にも安心して薦められる内容にはなっていると聴いたん人間から言いたい。

さあ、次は彼女にとって一番問題である(笑)ライブの内容はどう展開されるか。開演まであと6時間ほどである。
この秋にアコースティックでのライブ・ツアーが決まっているBONNIE PINKが9月21日にアルバムを発売するというニュースが入った。ツアーをするなら何らかの作品を出すのかなとは思っていたけれど、「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」と題されたその中身は「リメイクアルバム」だという。

リメイクアルバムなんて言葉は初めて聞いたぞと最初は思ってけれど、言葉の響きだけでだいたい内容の想像はついてしまう。これまで出した楽曲を録音した「セルフ・カバー・アルバム」の名前をリメイクなどと名前を変えただけだ。

収録曲は、

・Heaven’s Kitchen (from 02nd album "Heaven’s Kitchen")
・Last Kiss (from 07th album "Even So")
・Do You Crash? (from 02nd album "Heaven’s Kitchen")
・A Perfect Sky (from best album "Every Single Day -Complete BONNIE PINK(1995-2006)")
・Tonight, the Night (from 06th album "Present")
・Present (from 06th album "Present")
・Ring A Bell (from 10th album "ONE")
・Paradiddle-free (from 08th album "Golden Tears")
・Burning Inside (from 09th album "Thinking Out Loud")
+新曲1曲

という構成になっている。彼女がブレイクしたきっかけとなる”Heaven’s Kitchen”や、紅白歌合戦で披露した”A Perfect Sky”は妥当な線であるものの、それ以外はなかなか微妙な選曲であり、どういう意図をもって選んだのかは興味深い。

しかしセルフ・カバー、いやリメイクアルバムと聞いただけでテンションがガックリと下がったことは否定できない。これまで自分の好きなミュージシャンも同様の趣向でアルバムを出しているけれど、渡辺美里の「Dear My Songs」(08
年)にしろ、佐野元春の「月と専制君主」(11年)にしろ、繰り返し聴くのはなかなか厳しい内容ばかりであったのことが脳裏によぎる。

カバーを出す時は行き詰まっている時、などと大滝詠一がどこかの文章で書いていたことがある。確かに他人の楽曲を歌うカバーという行為は創作意欲が高まっている時にするものではないだろう。ましてや、自分の曲を採録するというのは・・・。

別に出したからといって非難や批判をするつもりもないけれど、そういうことを念頭において、期待値ゼロの気持ちで9月のアルバムを待ってみることにしたい。

別に意地悪を言いたいのではなくて、セルフカバーなんてそんなものなんですよ。
BONNIE PINK@100万人のキャンドル・ナイト(2011年6月8日、西梅田公園)
「夏至・冬至、夜の8時から10時の2時間、みんなでいっせいにでんきを消しましょう」

こんな呼びかけのもと、街中にたくさんのローソクをともすイベント「100万人のキャンドル・ナイト」は今年で12回目を迎えるという。大阪だけのものかと思ったら、全国の津々浦々でおこなわれている。

公式サイトはこちら。
http://www.candle-night.org/jp/

個人的にはあまり興味をひかない内容ではあるが、関連イベントの一つ「Twinkl Love Live」でBONNIE PINKが出演するというので、阪急電車に乗って大阪へ向かった。会場の西梅田公園には6時前には着いたが、開演の7時までまだ時間がある。すでにステージ前に陣取っている人が20人くらいいたけれど、地べたに座って待つのもキツい。そこで少し時間をつぶして開演20分前くらいに場所を確保した。コンクリートの地面に座るとお尻が痛い。長時間続けていると痔になりそうだ。

することもないので会場の様子を撮影してツイッターで投稿などしていると、BONNIE PINKの公式アカウントからこんな情報が飛び込んでくる。

<今夜のTwinle Love Liveスケジュール、再度発表!
19:00〜タテタカコさん/
19:40〜カジヒデキさん/
20:20〜リクオさん/
21:00〜ボニーピンクさん。です。お楽しみに!#candle_o>

うそお。BONNIEの最後は登場なの?彼女を観たらスッと帰ろうと思ったのに完全に予定が狂ってしまった。近所で酒でも飲んで9時前に会場に戻ろうかとも一瞬は思ったけれど、後ろを観るとけっこうな人が集まっている(2000人くらいはいただろうか)。これはもう、イボ痔になろうが切れ痔になろうが、BONNIEのライブが終るまで離れるわけにもいかない。そうして午後7時を迎える。

上のタイムテーブルを見て、正味の演奏時間は30分と舞台転換が10分という割り振りかなと予想をした。しかし1組目のタテタカコは40分みっちり歌ってしまった。続くカジヒデキも同様だった。失礼ながら、最初の2組はまるっきり興味がなかったので、コンクリートの上での鑑賞はなかなか辛いものがあった(特にお尻が)。さらに失礼ながら、カジヒデキは今年で44歳という年齢だが、あの短パンなどの格好はどうなんだろう、と思った。

続くリクオについては、今はなき梅田バナナホールで観たことがある(BONIIEがゲストで出たのがライブに行った理由だが)。あの時は非常に楽しいライブだったけれど、今夜も一見の観客も飲み込んでしまうステージを展開した。年間に150から200本も色々な場所(寺とか教会や公民館など)でライブをしているという経験がなせる業だろう。

この日も演奏していた”パラダイス”の動画がyou tubeに存在するので、ぜひ観ていただきたい。彼の凄さの一端を感じることができると思う。
http://www.youtube.com/watch?v=nST25qq4ImE&feature=feedf

リクオの演奏が終って午後9時15分を回ったころ、目当てのBONNIE PINKが登場する。さあ何か歌うのかと思ったら、リクオとウダウダ話し出してなかなか始まらない。2人でスタンダードの”Over The Rainbow”を共演してからも終始同じテンションでこのイベントや震災について自分の思いをグダグダと述べていた。喋らなかったらもう1曲くらいできただろう。こっちはお尻がもう限界だぜ。

奥野真哉のキーボードをバックに演奏したのは、

(1)Many Moons Ago
(2)Wildflowers
(3)ナミナミ
(4)The Sun Will Rise Again
(5)流れ星

というものだった。去年出たアルバム「Dear Diary」(10年)から3曲と、震災後に作った”The Sun Will Rise Again”という、想定内の構成ではある。ただ、”Wildflower”はけっこう久しぶりに聴いた。以前は執拗なくらいにステージで演奏していた気もするが・・・。”Heaven’s Kitchen”をやらなかったことは、評価するべきか(笑)

歌についていえば、それなりに声が出ていたかなという印象。ただキーボードだけの”ナミナミ”は少し無理があったか。こういうアレンジで演奏することはもうないと思うので貴重かもしれないけれど。内容自体は悪くなかったと思う。

しかしながら、見上げれば国道に車が走り、演奏中に救急車や消防車のサイレンが聴こえてくるという環境は果たして良いものなのだろうか。個人的にはあまり好みではないけれど、キャンドルだらけのステージと合間って不思議な空間を演出していたのは間違いない。

最後はリクオの演奏でザ・タイマーズの”デイドリーム・ドリーマー”を出演者全員で歌い終了。予定終了時間の10時を大幅に回っていた。

座り続けて約3時間半以上。もしこれから痔にでもなったら、原因は確実にこのライブである。
(1)Is This Love?
(2)Morning Glory
(3)Cookie Flavor
(4)スキKILLER
(5)Hurricane
(6)Find A Way
(7)Home Sweet Home
(8)Many Moons Ago
(9)World Peace
(10)Birthday Girl
(11)Here I am
(12)カイト
(13)Grow
(14)流れ星
(15)ナミナミ

これは運命だったのだろうか、と何年かして振り返ってみて思う出会いがある。BONNIE PINKという人は自分にとってそんな存在の一人だ。

私が初めて買った彼女のアルバムは4枚目の「Let go」(00年)だった。この作品についてここでは詳しく書かないけれど、久しぶりに素晴らしいアーティストやアルバムに出会えたなと思った瞬間だった。ただその時は、好きなミュージシャンの一人、という程度の認識だったと思う。そんな彼女が自分にとって特別な人となったのは、アルバムが出てからしばらくして起きたある出来事がきっかけだった。

宝島社が出している「別冊宝島516号 音楽誌が書かないJポップ批評7」(00年)という雑誌で、自称ジャーナリストの某ライター(もはや名前を出す価値も感じないので固有名は伏せておくことにする)に彼女は泥水をかけられるような仕打ちを受ける。BONNIEは英語でも作詩をする人であるが、その文法や発音がデタラメだと誌上で難癖をつけられたのだ。

10年も時間が経った現在から見れば、こんなどうでもいい輩を相手にするのは意味のないことかな、という冷静な判断もとれるかもしれないが、当時は彼女に相当熱心だったためもの凄く腹が立ったことを今でも生々しく思い出す。

しかしながら、私がこの一連の騒動について最も心に残っているのは、続いて出た「別冊宝島527号 音楽誌が書かないJポップ批評8」(00年)において掲載されたBONNIE本人の反論文だった。

まずBONNIEは自身の英語をデタラメと言われたことに対してこう反論する。

<語彙の少なさや文法の誤り、発音の不完全さは認めます。でも、たくさん言葉を知っているからといって必ずいい詞が書けるでしょうか?発音に関していえば、私のアクセントは私の日本人のオリジナリティであり、アイデンティティなのです。アメリカ人はそこがチャームだといって、訂正したがりません。そして、文法がおかしいという理由で私の作品を「粗悪な代物」と呼ぶくらいなら、私の音楽なんて聴かなければいいわけです。>(P.154)

要するに、嫌なら聴くな、ということである。全くその通りである。こうした理路整然とした指摘は本来アーティスト側から発せられるのではなく「批評」(あくまでカッコつき)する側から出てきてしかるべきと思うのだが、現実は全くそうなっていないのが残念でならない。

それはともかく、本当に重要なのはそれから続く部分だ。

<そもそも、私は新聞記者でなければ政治家でもなく、英語のエキスパートになることが私の目的ではありません。大事なのは、私の中にあるものを吐き出すことで、誤解を恐れている暇はないのです>(P.154)

この「誤解を恐れている暇はない」という一言は、アーティストはどのような姿勢で表現活動に臨むべきか、ということを見事に要約しているように思えてならない。音楽でも小説でも、世の中に広まったとたん思わぬところから罵詈雑言や誹謗中傷を受けるのは必然である。そしてその大部分は実に理不尽なものに違いない。しかしそんなことを気にしていては、そもそも表現などできないのだ。

スタイルも歌声もいかにも柔和な感じなこのアーティストの中にこれほど強い意志が秘められていたということに私は心を震わされ、

「このミュージシャンの姿をずっと追いかけていこう」

とそのとき決めたのである。話は長くなったけれど、私が彼女のファンになった経緯はそんな流れだ。

あれからほぼ10年が経過してしまった。BONNIEも今年でデビュー15周年という。そしてオリジナルとしては11枚目となる新作アルバム「Dear Diary」が届けられた。正直いって、特に何か期待をしたわけではない。ネット配信した先行シングル”Is This Love?”に至っては購入すらしていなかった。もっと正直に言えば、この5年くらいの彼女の作品もそれほど熱心に聴いてないような気もする。別に作品の質が下がったなどという否定的な印象を持っていたわけではない。ただ同じミュージシャンと10年も付き合っていると自然とそんな心境になっていくのではないだろうか。また、私はかつて上のような理由で彼女のファンになった経緯もあるため、アルバムとツアーは欠かさず観に行くのは義務のように思っているフシもあるかもしれない。

しかしながら実際にこのアルバムを聴いてみて、その内容に本当に驚かされた。15年ということで15曲も詰め込まれているが、ダレることなく全編を聴き通すことができたのである。そんな風通しの良さがある作品だ。最近はCD自体を買う機会が減っているが、これほど1枚をスッと聴けるアルバムに出会ったのは久しぶりだ。

何が素晴らしいかといえば、やはり彼女の歌声などの充実ぶりがものすごく伝わってくることであろう。試しに前作「ONE」(09年)と聴き比べてみた。「ONE」も素晴らしい作品であるが、今回はさらに調子が上向きになっているBONNIE PINKがいる。楽曲については型が決まってきたかなと思う部分もないわけではないけれど、自分好みなものが揃っている(私が好きになるようなものだから世間受けするかどうかは不安だが)。新しいことに挑戦するとかいったことよりも、アーティスト自身がどれだけエネルギーを出しているかどうかを重要視している私にとって、今回のような作品に接してしまうと嬉しくて仕方ないのだ。

同じことばかり書いているけれど、ここ最近は自分の周囲の環境がめまぐるしく変化してしまった。しかしそんな時期だからこそ自分の時間を大切にしたい、などと考えるようにもなっている。美味しいものを食べたり、好きな音楽を聴いたりする時間がたまらなく貴重に思えてくる今日この頃だ。そしてそんな最中にBONNIEがこれほど素晴らしいアルバムを届けてくれたことが、私には偶然に思えないのである。なんだか彼女から手を差し出されたような・・・こういう経験に出会うと、やはり私のこの人と何か因縁あるのかな、と感じてしまう。

これだけのアルバムを完成させたのだから、あとはライブだけだろう。ぜひ新しいファンも、いまだに会場に足を運んでいる私のような往年のファンも泣かせるような内容でデビュー15周年を飾ってほしいと願う。
「GSGP PROJECT 」は聞き慣れないが、江崎グリコとFM802とぴあ関西版が応援するアーティストを集めて、関西の音楽ファンに向けて紹介するという趣旨のイベントである。03年から続いており公式サイトもあった。

http://www.pia-kansai.ne.jp/gsgp/

新しいミュージシャンに食指が動くことはめったにない。その私がなぜチケットを取ったかといえば、単純に話でBONNIE PINKが出演するためだ。しかし、先日には日本武道館でライブをした人が新人発掘のようなイベントに参加していても良いのだろうか。なんとも釈然としない。今日の出演者は、

ROCK’A’TRENCH
orange pekoe
PERIDOTS
BONNIE PINK

の4組である。

会場に入ってショックだったのは、いつもはオールスタンディングの1階席に椅子がズラッと並べられていたことである。なんばHatchに椅子が出ているのを初めてみた。つまり、それくらい今日のお客が少ないということである。今日の入りは多く見積もっても500人くらいだったと思われる。繰り返すが、武道館でライブをした人間も入っているのだが、こんな状態は寂しくて仕方がない。

個々のアーティストについては詳しく述べない。BONNIEは黒で統一した衣装で、ミニスカートをはいていた。髪は珍しく(私が初めて観たか?)肩まで下ろしていた。髪型については彼女の公式サイトの「Diary」に写真が載っていて確認できる。

公式サイトからのメールでは、

「ツアーで演奏しなかった曲も演奏するかも?!」

とか書いてあったが、それは1曲目の「Love Is Bubble」のことだった。確かにツアーでは無かった曲だが、観られて得したなどという気持ちになれないな。ライブの内容は、いつも通り、と言ってしまったらおしまいかもしれないが特に思い当たらない。あえていえば今日のバックが、

八ッ橋義幸(ギター)
阿部光一郎(ベース)
奥野真哉(キーボード)
白根賢一(ドラムス)
Nana(パーカッション)

とアイゴンもアンソニーもいない面子だったことくらいだろうか。

全てのライブが終わった後、グリコの詰め合わせ商品の抽選会があった。出口ではポッキーが1箱ずつもらえたのは正直ちょっと嬉しかった。最後に曲目を記す。

【演奏曲目】
(1)Love Is Bubble
(2)Anything For You
(3)Gimme A Beat
(4)Chances Are
(5)Water Me
(6)A Perfect Sky
(7)Heaven’s Kitchen
(8)Tonight,The Night
BONNIE PINK東京公演(07年10月26日、日本武道館)
今日は東京まで仕事へ行く。最近は年に一度この時期に出張するのが通例だ。そんな日にBONNIE PINKが日本武道館で初めてライブをするというのは因縁というしかない。ライブがあるのを知ってからしばらく考えた末、チケットと宿を手配する。

午後5時に仕事にけりをつけ、重い荷物を背負ったまま地下鉄で銀座から九段下まで向かう。メトロの路線がさっぱりわからないため無駄にグルグルと歩き回る。事情通によれば30分ほどで会場に着くという話であった。しかし結局1時間は費やし、午後6時を少し回ったころになんとか日本武道館に到着する。歩き過ぎて、ライブが始まる前に体はもうガタガタだ。

外の物販テントでプログラムを1冊買って会場へ急ぐ。入口前に献花がたくさん飾っているところで、京都公演や今日のチケットを取ってくれたBさんと合流して中に入った。座席はアリーナのA7ブロックの中央という良い席だ。

それにしても、昨日から風邪の症状は一向に改善しない。開演直前までずっと座席でうずくまっていた。せっかくの、もしかしたら最初で最後の、晴れ舞台である武道館ライブをしっかりと見届けられそうにない。本当に体がぶっ壊れていたという感じである。そんな状態のままライブの始まりだ。服装は京都公演と同じ真っ白のスーツで、途中で真っ黒の衣装に着替えていた。

せっかくの武道館ライブということで、これまでのツアーといくつか変更点があった。まず今回のアルバムを一緒に作ったスウェーデンのプロデューサー・チーム「バーニング・チキン」の2人、さらにホーン隊やストリングスが時おりライブに加わる。“A Perfect Sky”がアルバムに近いアレンジだったのは貴重といえば貴重かもしれない。

それから、最後の“do you crash?”の演奏の終盤でステージ左右にあった銃のようなものがバーンと鳴って、金色のリボンが会場に飛び散る演出もあった。

ただ選曲については京都公演の内容に2曲が加わり24曲となった。しかし、それが唯一アルバムから演奏されなかった“慰みブルー”と、“do you crash?”なのには閉口してしまう。“慰みブルー”を入れて新作「Thinking Out Loud」に入っている12曲をついに全て披露してしまった。これを喜ぶファンは果たしてどれほどいるというのか。

“do you crash?”については、かつてのツアーでずっと最後に演奏した曲である。それこそ定番中の定番曲だ。00年からライブを観ている身としてはそれこそ飽きるほど聴いている。2回目のアンコールでいまにも“do you crash?”を演奏しそうな雰囲気になった時、隣で観ていたBさん(95年からBONNIEを観ている人)は「最後は“do you crash?”か・・・嫌だなあ」とボソッと言ったのが忘れられない。

動員はライブ直前まで心配だったけれど、結果として客席のてっぺんまで人が詰まっていた。ライブ中に人が席を立った時はほぼ満員に見える。ちなみにBONNIEはMCで7000人と人数を伝えていた。全体的に会場はそれなりに盛り上がってはいたと思う。それが唯一の救いだろうか。ちなみに私は体調が相変わらずのため、途中から座ってライブを観ていた。

終わった後、BさんのほかBONNIEファンとお花(画像。今回は私も共同出資した)の前で記念撮影し、新宿の中華料理屋で打ち上げをする。

その中の一人が、

「15周年ももうすぐですね」

となんとはなしに言った。BONNIEのデビューが95年だから、2010年まであと3年ほどか。確かに近いといえば近い。だが、

「15年まで持つかな・・・」

と私の隣にいた人が独り言のようにつぶやいていたのを聞き逃さなかった。

12時過ぎに解散しJRで池袋まで向かい、そこから10分ほど歩いて予約したホテルに着く。雨はやまないし体の調子も一向によくならない。明日も東京で遊ぶ予定だが、果たして楽しめるだろうか。

最後に今日の演奏曲目を記す。

【演奏曲目】
(1)Broken hearts, citylights and me just thinking out loud
(2)Burning Inside
(3) 坂道
(4) Ocean
(5) 日々草
(6) 5 more minutes
(7) Chances Are
(8)Just A Girl
(9) Lulabby
(10) 慰みブルー
(11) Rope Dancer
(12) 再生
(13) Imagination
(14)Heaven’s Kitchen
(15) Water Me
(16) Thinking Of You
(17) Catch The Sun
(18) Private Laughter
(19) Gimme A Beat
(20)Anything For You

〈アンコール1〉
(21) Bedtime Story
(22) A Perfect Sky
(23) Tonight, The Night

〈アンコール2〉
(24)do you crash?
ここしばらく仕事でバタバタする日が続いている。ライブのある日はたとえ忙しくても半休して部屋に戻り、私服に着替えてから会場へ臨んでいたが、今日はそうはいかない。午後6時のギリギリまで会社で仕事をして、それから地下鉄に乗って京都会館に着いたのは6時40分ごろである。ライブ前にグッズを観る暇もなかった。背広でライブに行くのも久しぶりだ。

今夜はBONNIE PINKの1年ぶりの京都公演である。京都会館第一ホールの収容人数は2015人(車いすスペースを含む)で、前回(06年)の京都公演は250人収容のKYOTO MUSEだから、10倍ちかくの規模になっている。しかし2階席には空席が目立つ。京都で一番大きな会場とはいえ、これが昨年ベスト・アルバムを70万セットも売ったアーティストなのだろうか。平日とはいえライブ会場がこんな状態なのは寂しい。

ファンクラブに加入している人のはからいで、3列目の中央よりという良い席を確保する。おかげで表情などがはっきりとわかる場所だ。午後7時7分ごろ、照明が消えて開演である。バックバンドは、

會田茂一(ギター)
八ッ橋義幸(ギター)
高桑圭(ベース)
奥野真哉(キーボード)
Anthony Johnson(ドラムス)
Nana(パーカッション)

の6人である。前のツアーのメンバーに八ッ橋義幸が加わった。

BONNIEの服装は全身が真っ白のスーツだ。MCでは、キョンキョン(小泉今日子)を観るために京都会館に来たことがあると言っていた。26日の日本武道館で共演するバーニング・チキンの二人が客席に混じっている。また、地元なので親戚もたくさん来ていたようだ。

とはいえライブの内容が相変わらずなのはいただけない。特に選曲は、予想していたとはいえ、あまりにヒドかった。

曲目は下に記すので、ここでは参考までにこの日に演奏された全22曲の内訳をアルバムごとに出してみる。

「Heaven’s Kitchen」(97年):1曲
「Just A Girl」(01年):3曲
「Present」(03年):2曲
「Even So」(04年):4曲
「Golden Tears」(05年):1曲
「Thinking Out Loud 」(07年):11曲

新作「Thinking Out Loud」から11曲とほとんど全て演奏するのはいつものことではある。しかし、20世紀に出した曲が“Heaven’s Kitchen”だけとは極端すぎる。こうやって調べてみるとバランスの悪さは一目瞭然だ。

MCで、

「今日がBONNIE PINKのライブ初めてという人、手を上げて!」

と言うと、会場のかなりの人が手を上げていた。半分くらいは初めてだったと思う。これは何を意味するのか。繰り返しライブに通ってる人間はほとんどいないということである。今日ここに来たのは昨年のベスト・アルバムを聴いて彼女に興味を持った新しい聴き手ばかりなのだろう。

では、昔のファンはどこに行ってしまったのか。ライブの中身がたいしたことがないとわかっているから足を運ばないのである。今回もそうだと思ったかつてのファンの皆さん、残念ながらその通りになりました。

ネットで他の会場の様子を調べたところ、“Just A Girl”が“Wildflower”に変わるとか、最後の“Tonight,The Night”が“do you crash?”になったとか、その程度である。毎度ライブを観ている立場からいえば、これらの曲がどれになろうと何の感慨も湧かない。別に嫌いな曲ではないが、もう飽きましたという感じである。他に演奏する曲がないわけでもないのに。

大半の曲が新作からで、あとは決まった曲しか演奏しない。どの会場に言っても変わりばえのない、この表情の乏しい演奏曲目はどうだろう。そして、ただ淡々とライブをこなしているだけという姿は、予想はできていてもやはり辛いものがある。端的にいって、彼女のライブは印象に残るものがないのだ。

別に歌や演奏が悪いとかいうわけではない。“Chances Are”の歌いっぷりなど、見るべき点も確かにある。しかし、そこそこのライブにしている分、余計にタチが悪い気がする。なかなか改善点がはっきりと見えてこないからだ。これはもう本人の意識が変わらない限りはどうしようもない。

あと、もう一つ付け加えておきたいことがある。今回の京都公演ではベスト・アルバムくらいしか聴いたことのない人を連れていった。その人のライブの感想は、

「知ってる曲が少なかった」

である。あまり印象は残っていないようだった。

会場にいた新しいファンは次回もライブに訪れてくれるのであろうか。そうあってほしいのだが、その可能性は極めて低いという暗い見通ししかでてこない。このままだと金曜日の日本武道館はどうなるのか。今から足取りが重たくなってくる。

久しぶりに彼女のライブについて感想を書いたので、不平不満がドッと出てしまった。しかしアルバムはそれなりのものを作っているというのにライブではこんな状態が何年も続いているから仕方ない。たとえベスト・アルバムがあれだけ売れても危機感が強まる一方である。

最後に演奏曲目を記す。ライブは午後9時前に終わったので、長さは1時間50分というところか。

【演奏曲目】
(1)Broken hearts, citylights and me just thinking out loud
(2) Burning Inside
(3) 坂道
(4)Ocean
(5)日々草
(6) 5 more minutes
(7) Chances Are
(8) Just A Girl
(9) lulabby
(10)Rope Dancer
(11) 再生
(12) Imagination
(13)Heaven’s Kitchen
(14) Water Me
(15) Thinking Of You
(16) Catch The Sun
(17)Private Laughter
(18) Gimme A Beat
(19) Anything For You

〈アンコール〉
(20) Bedtime Story
(21) A Perfect Sky
(22)Tonight,The Night
7月7日(土)、七夕の日に京都は東寺でライブ・イベント「Live Earth」がおこなわれる。直前まで仕事が入っているのでどうしようかと迷っているうちに完売となってしまった。14年ぶりに復活するイエロー・マジック・オーケストラの人気を見くびっていたようである。

BONNIE PINKも出ると後になって発表されたので、余計に観たい気持ちが強くなっていた。オークションも考えてみたが、チケットの競争率は高そうな気配だった。

そんな時に、あるルートからチケットを1枚譲ってもらえることになった。正確には私の分も申し込んでもらったのだが、ともなくチケット(S席9000円)が手に入って一安心である。あとは開場時間までに東寺に行けるどうか。それだけが不安である。
今年もBONNIE PINKが全国ツアーをおこなう。関西は大阪と京都でライブがあるが、大阪は仕事のため京都公演にしか行けそうにない。

これで話は終わるはずだった。しかし、遅れて発表された東京公演の内容には少し心が揺れている。

まず、会場はなんと日本武道館なのだ。1万人収容のアリーナ級の会場で単独ライブをするのは初めての試みである。BONNIE本人もいろいろ考えているようで、”A Perfect Sky”をプロデュースしたバーニング・チキンをスウェーデンから参加してもらう予定だという。かのヒット曲”A Perfect Sky”がオリジナルに近い形で聴くことができるのかと想像してしまう。

また、東京の公演日も曲者だった。10月26日(金)はちょうど私も仕事で上京しているのだ。開演時間は午後7時だし会場入りは問題ないだろう。そのまま一泊して翌日に帰れば良い。

「せっかく上京しているのだから、多くのファンとともに彼女の晴れ舞台を観ろ」という天の声が聞こえたような気がする。

ただ、武道館が果たして満員になるかは大いに不安である。
今日はNHK大阪ホールに行った。BONNIE PINKの今年3度目のライブである。今回は追加公演ということで、8月に京都と大阪で観たものとは内容が若干違っていた。

ライブが終わった後、チケットを取ってくれた方たちと一緒に谷町で食事をしているうちに電車が無くなってしまう。そのまま千日前のカラオケボックスに入り、始発電車が来るまでそこにいようということになる。最初は4人いたけれど、午前2時を過ぎるころには2人が帰り、私ともう1人だけになる。そこからは交互に何曲も何曲も歌ってみるも、時間はまったく過ぎない。午前4時半を過ぎる頃にはもう二人とも歌う気力は失っていた。カプセルホテルに泊まるよりは安くあがったけれど、なかなかきつい一夜であった。
ベスト・アルバムが非常に売れている中、BONNIE PINKのツアーが今日から始まる。しかも、ここ京都からだ。明日は大阪公演ということで、2日間の休みを取ることにした。ライブの中身については、別のところで記したい。ここで書くのは終わった後の話である。

ライブ終了後に夕食を済ませて帰ろうとしたら、かつて同じ職場にいた人に四条通で偶然に出会う。こんなところで何をしているですかと訊かれたので、BONNIE PINKのライブを観たんですよ、と答えたら、

「いやー、ものすごく活躍してるじゃない!テレビで(BONNIE)観ると、渡部さんを思い出しちゃった」

と言われた。いや、別に私が活躍してるわけじゃないだけどね・・・。
「新・堂本兄弟」(フジテレビ系列)にBONNIE PINKが出るというので番組を観ることにした。

テレビのバラエティは初出演という触れ込みだったけれど、周囲の出演者と彼女はうまく溶け込んでいたように見える。いや、それどころかしゃべり過ぎなくらい色々なことを話していた。初デートが「ひらかたパーク」だったとか、いつも家族で麻雀をしていたとか、飲み屋のトイレでカギをかけるのを忘れて見知らぬ人に入られたとか・・・。

長年のファンでも初めて聞いた話も多かったので、それ自体は有意義かもしれない。しかし、別にそんなこと話す必要もないのでは、と言いたくなる場面も多かった。初めて彼女の話す姿を見た方はどのように見えたのかが気になる。面白い女性と思っただろうか。
午後9時からyahoo!japanにておこなわれる「yahooトーク」にBONNIE PINKが登場した。30分の予定となってはいたものの、テレビやラジオのようにきっちりとした番組でもないので、話は延びて延びて結局は45分もしゃべりっぱなしだった。

語られた内容は、映画の出演や本の出版、沖縄のライブ、”A Perfect Sky”を作曲していたころの自分の状態など、短い時間のわりには内容は多岐にわたる。おかげで視聴者からの質問などはほとんど取り上げられなかった。

印象に残ったのは、8月8日におこなわれた沖縄ライブの話で、ライブの途中に真っ赤なペンライトが会場を埋め尽くしてBONNIEはいたく感激したという。何年も前から「ペンライトを見たい」と口にしていたが、スタッフから「それはお金がかかるから・・・」といって断られていたそうだ。確かに何百本もペンライトを用意するとなるとお金がかかるには違いないが、経費という現実的な話が出てきたのはなんだかおかしかった。
BONNIE PINKのベスト・アルバム「Every Single Day」の売れ行きは停滞するどころか、さらに加速しているようだ。7月30日付けの「オリコン」におけるデイリー・チャートではスマップの「Pop Up! SMAP」を押しのけてなんと1位になってしまったのである。

これにはちょっと驚いた。確かに優れた中身だが、いままでの彼女の売り上げを思えばここまでの売れ行きなど想像がつかない。蛯原友里の出た資生堂CMがいかに効果があったを改めて実感する。

今年の5月13日に東京都内でおこなわれた映画「嫌われ松子の一生」試写会があった時に、BONNIE PINKがライブをおこなった。その時に、

「エビちゃんの着た服が数分で売れることを“エビ売れ”というけど、CDも“エビ売れ”して欲しい」

などとステージで話していたそうだが、実際にシングル”A Perfect Sky”もアルバムも「エビ売れ」が起こってしまったのだから凄い。
BONNIE PINK CD ワーナーミュージック・ジャパン 2006/07/26 ¥3,300
〔Disk1〕
Heaven’s Kitchen
Forget Me Not
泡になった
かなわないこと
オレンジ
犬と月
Suprise!
Lie Lie Lie
金魚
It’s gonna rain!
Do you crush?
The Last Thing I Can Do
Evil and Flowers
〔Disk2〕
So Wonderful
Daisy
You Are Blue, So Am I
過去と現実
Sleeping Child
Tonight,The Night
Take Me In
眠れない夜
Thinking Of You
New York
LOVE IS BUBBLE
Private Laughter
Souldiers
A Perfect Sky
Last Kiss

BONNIE PINKの実質的に初めてのベスト・アルバムである。「実質的」にというのは、彼女の意志がそれなりに反映している作品、という意味で使ってみた。

熱心なファンだったら「Bonnie’s Kitchen#1」(99年)と「Bonnie’s Kitchen#2」(00年)という2種類の編集盤が存在することは知っているだろう。しかしこれらはポニーキャニオンからワーナーへとレコード会社を移籍した時、ポニーキャニオンが出したものである。移籍した後に会社のしたことだから、彼女の意見なり要望なりが十分に反映されたかどうかは疑わしい代物だ。一方的に会社が出したかどうかは断定できないけれど、アルバム2枚の編集方針などをみれば察しがつくと思う。

そんな「Bonnie’s Kitchen」シリーズと比べると、今回の「Every Single Day -Complete BONNIE PINK (1995-2006)-」は、ポニーキャニオンとワーナーの両方からの作品が収録され、まさに彼女の10年の歴史を網羅した素晴らしい編集となっている。彼女を初めて聴きたいと思う人にとってはこれ以上の作品はない。

アルバム名に「Single」という言葉が使われているように、本作はいままでに出したシングル曲がすべて入っている(細かいことをいえば、アナログで出た”Fish”は入っていないが)。しかしこのベストがさらに優れているのは、いままでアルバムに入っていなかった曲が何曲も含まれていることである。シングルのカップリング曲”泡になった””かなわないこと””The Last Thing I Can Do””New York”、そしてライブ盤「Pink in Red」(03年)の最後に入っていた”Souldier”など、隠れた名曲が再び日の目を見たのは嬉しい。

このアルバムで彼女を歴史を辿ってみると、ライブの中身などは色々と言われてはいるものの、作品については高いレベルでずっと活動していた人だとつくづく感じる。売り上げもデイリーチャートで2位などと良い結果も出ているし、この作品を機会にBONNIE PINKの存在を多くの人に知ってもらえればと願う。

また、夏から秋にかけてのツアーはここからどのような選曲がなされるのか。それも非常に楽しみである。

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