「3 Great American Voices」

本国アメリカでもこのようなメンツでライブがおこなわれたことはないだろう。このイベントの主旨を私なりに理解すれば、アメリカの音楽をザッとたどっていくということか。ファーギーはヒップ・ホップ寄りのロック、メアリー・J・ブライジはR&B、そしてキャロル・キングだからバラエティが富んでいるとはいえる。

しかし、1と1を足すと2になるような単純な話は現実にそう起きるものではない。結果を先にいえば、個々のライブが独立している印象で統一感らしいものは正直いって見られなかった。

こんな組み合わせの悪いイベントを以前にも観たことがあるなあと古い記憶をたどっていたら、04年の「ロック・オデッセイ」を思い出した。かのザ・フーが初来日を果たしたこのライブは矢沢永吉、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ポール・ウェラーなど、豪華だが何故か観る気が起きなくなるようなメンツであった。実際、会場(当時の大阪ドーム)がガラガラだったことをよく覚えている。

ところで、本日の私の目当てはキャロル・キングしかない。他の2人についてたいした知識もないので、イベント全体の感想はこれくらいにして以降は彼女を中心にした感想を書いていく。

私の席はS席(1万5000円)で「アリーナ25列23番」と、アリーナのど真ん中より少し前というなかなか良い位置ではあった。しかし、予想した通りではあるが、お客の入りは良くない。よく見ても6割くらいがせいぜいだろう。スタンドはガラガラで特にヒドい。しかしそんなスタンド席で、いかにも観づらそうな席に不思議と人が集まっている。おそらくあの辺りがA席だったのだろう。

座ったとたん、ステージにある大きなグランドピアノが目に入ってきてイヤな気持ちになる。どう考えてもこれはキャロル・キングのものだろう。最後の出演であって欲しかったのだが、と思いながら開演を待っていると午後7時10分ごろ、照明が静かに落ちる。

スポット・ライトを浴びて一人の女性が現れる。やはり最初はキャロル・キングだった(翌日6日の大阪公演はメアリー、ファーギー、キャロルの出演順だったという)会場に手を振ってからピアノに座る。ステージには彼女しかいない。そしてしばらく間をおいて演奏されたのは、かの名盤「つづれおり」(71年)からBeautiful”だった。場内から拍手が起きる。

左右のスクリーンに映し出されるキャロルはもう年期の入った顔になっているし、声もずいぶんしゃがれてはいる。しかし、ポピュラー・ミュージックの歴史に永遠と残るであろう楽曲、数多くの聴き手に愛されてきた彼女の音楽の普遍性は揺らぐことはなかった。もちろん私はそんな確信を持って会場に臨んだけれど、目の前で聴かれる名曲は予想を遥かに上回る力で胸に迫ってくる。もはやステージの様子もまともに観れないほどに。

続いて、

「Welcome To My Living Room。ワタシノ リビング・ルームヘ ヨウコソ」

と片言の日本語で“Welcome To My Living Room”を歌われた時にはすっかり彼女の世界にどっぷりと浸かっていた。ピアノだけで大阪城ホールの大きなステージがもつのかと最初は不安だったが、それは全くの杞憂に終わる。

「オーサカニ コラレテ ウレシイデス」

こんなことを話すキャロルの言葉は暖かみがあるというか、彼女の音楽と同じような魅力を持っていた。それに会場は拍手で答える。

“Where You Lead”“So Far Away”“Smackwater Jack”と、「つづれおり」からたて続けに披露される。3組もミュージシャンが出るイベントなのでどれだけ演奏されるか誰しも気になっていただろうが、キャロル本人もそれを考えての選曲をしてくれたのだろうか。

“Smackwater Jack”で彼女がギターを持ったのには驚いた。私の勉強不足かもしれないがギターを抱えるキャロルを想像はできなかった。サポートの二人のミュージシャンもそれぞれギターを手にして並んで演奏をする。イーグルスがどうのとか話していたが、「イーグルスみたいでしょ?」とでも言っていたのだろうか。

個人的なクライマックスは、ゲリー・ゴフィンの名前を出してピアノのみで歌われた“Will You Love Me Tommorow”だ。

「これさえ聴けたら思い残すことはないかな」

と思っていたのでその願いはかなえられた。

“You’ve Got a Friend ”でひときわ大きな拍手が起きる。多くのお客はこの曲が出てくるのを待っていたようだ。演奏が終わっても鳴り止まぬ拍手に応え、人差し指を1本突き上げると歓声がもっと大きくなる。最後は“I Feel the Earth Move”であった。全11曲およそ50分のステージだったが、不満など何一つなかった。これ以上のものは思いつかないといえるほど素晴らしいパフォーマンスである。ここまで感激したのは、それこそ同じ大阪城ホールで観たニール・ヤング&ザ・クレイジーホース以来だった。

それから20分ほど舞台替えがあってファーギーのライブ、そしてまた舞台を替えてメアリー・J・ブライジのライブがあって、気づけばもう10時を過ぎていた。周囲も空席が目立つ。帰る気は起きないものの、私も疲れて途中から席に座っていた。

しかし、今回のイベントは3人それぞれが単にライブをするだけで終わりではなかった。会場が明るくなって、なんとキャロルとファーギーが再びステージに出てくる。そして全員で“Dancing in the Street ”(マーヴィン・ゲイが作曲で、オリジナルはマーサ&ザ・ヴァンデラスで知られてる)と“ナチュラル・ウーマン”を歌ってしまったのだ。とんでもない光景である。その時、キャロルは終始ステージを動き回っていた。全てのライブが終わったのは10時20分ごろである。

最初のステージでキャロルが“I Feel the Earth Move”を歌い終えた時、

「マタ アイマショウ」

と言って去っていった。その時はリップサービスだと思っていたが、あの元気ではもう2回くらい再来日があるのかもしれない。

できるならば明日の大阪公演や関東のステージも観たい。金銭的な問題でそれは不可能だが。そして、まだ全てのイベントも終わっていないけれど、いまから再来日を強く望む。これがキャロルに対する私が考えうる限りの讃辞だ。

最後に演奏曲目を載せる。

【演奏曲目】
(1)Beautiful
(2)Welcome To My Living Room
(3)Up On The Roof
(4)Where You Lead
(5)So Far Away
(6)Smackwater Jack
(7)Will You Love Me Tomorrow?
(8)Love Makes The World
(9)Sweet Seasons
(10)You’ve Got a Friend
(11)I Feel the Earth Move

〈全員がステージに出て来て〉
Dancing in the Street
(You Make Me Feel Like) A Natural Woman

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