(1)Wild Night ワイルド・ナイト
(2)(Straight To Your Heart)Like A Cannonball キャノン・ボールのように
(3)Old Old Woodstock オールド・オールド・ウッドストック
(4)Starting A New Life 光への出発
(5)You’re My Woman ユア・マイ・ウーマン
(6)Tupelo Honey テュペロ・ハニー
(7)I Wanna Roo You(Scottish Derivative)アイ・ワナ・ルー・ユー
(8)When That Evening Sun Goes Down 黄昏
(9)Moonshine Whiskey ムーンシャイン・ウイスキー
〔ボーナス・トラック〕
(10)Wild Night(Alternative Take)ワイルド・ナイト(別テイク)
(11)Down By The Rierside(Alternative Take)ダウン・バイ・ザ・リヴァーサイド

長らく廃盤状態だったヴァン・モリソンの作品が、デジタル・リマスタリング、紙ジャケット、そしてSHM-CD仕様になって国内盤が再発される運びとなった。1年にわたり29作品が順次発売される予定である。これほどの規模でヴァンのアルバムが出ることはもうないだろう。まず3月26日には6タイトルが発売された。この「テュペロ・ハニー」(Tupelo Honey)もその一枚である。

貴重な機会なので、再発されるCDを片っ端から取り上げようと思う。たいして音楽の知識はないけれど、彼の作品のほとんどは既に持っているのだから比較検討くらいはできる。また、こういうことをする人は他にいそうもないし、ヴァンの作品をブログで紹介するだけでもそれなりに価値はあるとは思っている。

「テュペロ・ハニー」は71年に発表された。このたび再発される作品の中で最も古いものである。ヴァン・モリソンというミュージシャンの個性が確立したという意味で実質的なデビュー・アルバムといえる「アストラル・ウイークス」(68年)、そして70年に「ムーンダンス」と「ストリート・クワイア」を2枚発表した後に出た作品である。チャートでは全米27位を記録している。

1曲目は“ワイルド・ナイト”で始まる。この曲はいつ聴いても素晴らしい。3分30分ほどの曲だが実に聴きごたえがあり、疾走感ある曲調やホーン・セクションのアレンジなど見事としかいいようがない。アルバムの中でもこの曲の雰囲気や緊張感は異色である。彼の伝記「ヴァン・モリソン 魂の道のり」(ジョニー・ローガン著、丸山京子訳)に興味深い箇所があり(173P)、このころのヴァンはレコード会社のワーナーからヒットするような曲を書くよう圧力をかけられていたというのである。そうした影響も良い方向に働いてこの名曲が誕生したのだろう。シングルでも全米28位まで上がった。

ご存じない方はぜひ知っておいてほしいのだが、「テュペロ・ハニー」が出る直前にヴァンは女優で歌手のジャネット・プラネットと結婚している。そうした状況が音にもしっかりと表れているのが本作の大きな特徴だ。アルバム・ジャケットには二人が並んだ写真が写っているし、歌詞は愛する人への讃辞、また新しい生活といった内容が目立つ。

そういえば、ボブ・ディランは「フリー・ホイーリン・ボブ・ディラン」(63年)のジャケットで恋人と2ショットで写っていたし、ジョン・レノンはアルバム「イマジン」(71年)でヨーコ、ヨーコと歌ってたし、ルー・リードはアルバム「ブルー・マスク」(82年)でシルヴィア、シルヴィアと歌っていた。優れた表現者というのは自分の恋愛事情についてもあっけらかんと歌えるようでないといけないのかもしれない。

ヴァンに限っていえば、95年のアルバム「デイズ・ライク・ディス」でも再婚した奥さんと2ショットの写真を載せている。個人的な生活が作品にも反映されるという点で彼の行動は一貫しているといえよう。

共同プロデューサーがテッド・テンプルマン(のちにリトル・フィート、ドゥービー・ブラザーズ、ヴァン・ヘイレンなどを手がけたことで知られるようになる)で、アメリカで制作されたことも音作りに決定的な影響を与えている。ヴァンの作品はどれも同じという意見をたまに見かけるけれど、90年代と比べたらこの時期の音は全く印象が違う。アコースティック・ギターのザクザクとした音やピアノが前面に出ているサウンドというのはこの時期にしか見られないものではないだろうか。

よく言われる「明るいアルバム」という指摘には異論がない。聴きようによっては浮ついていると感じるくらい幸福な雰囲気に包まれた作品だ。それが理由なのかはわからないが、このアルバムの評価はかなり高い。「アストラル・ウイークス」や「ムーンダンス」と並んで彼の代表作に挙げられることも多い。だが個人的には、良いアルバムとは思うものの、ものすごい名盤とまでは思うこともなかった。この文章を書くまでに何度も聴いたけれど印象はあまり変わらない。その理由をずっと考えていたが、収録曲で“ワイルド・ナイト”以外は馴染みない曲ばかりなのが大きい気がする。

現在でもライブで歌われているのはこの曲と“テュペロ・ハニー”くらいしかない。ヴァンはこの作品を発表してまもなくジャネットと離婚してしまうわけで、彼女との思い出がつまった楽曲を歌う気持ちにはなれないのではないだろうか。

また、アイリッシュやケルト的な要素はこの頃のヴァンにはまだ見られない。この辺が私の琴線に触れるようなので、たとえば90年前後と比べて70年代前半の作品はどうしても疎遠になってしまうきらいがある。70年代アメリカのポップ・ミュージック、またはシンガー・ソングライターなどが好きな方にはこの作品を気に入るかもしれない。

しかしながら、それほど思い入れがあるわけではないとは言いながらも、91年に出た国内盤、98年にマスタリングされた国内盤、そして今回のと合わせて3枚の「テュペロ・ハニー」を所持することとなった。我ながら呆れてしまう。

音質についても触れておこう。98年に再発された時にはずいぶん音が良くなったので、SHM-CDや最新デジタル・リマスタリングといっても見違えるほどに向上したようには感じられない。いくらかはクリアになったかな、と気づくくらいか。この辺りは立派なオーディオを所持している方の感想を待ちたい。

それから今回は2曲のボーナス・トラックが追加されている。1曲は“ワイルド・ナイト”の別テイクで、オリジナルの音源に比べると、間奏で「ドゥドゥドゥ・・・」などと歌ったりしてずいぶん緊張感が薄れたものとなっている。もう1曲は“ダウン・バイ・ザ・リヴァーサイド”で、ヴァンのオリジナルではなく「Traditional」と表記されている。演奏を聴く感じではカントリー色が強い気がする。ザッと検索するとアメリカの民謡もしくは黒人霊歌というものらしいが詳しいことはよくわからない。ただ、いまでもゴスペルやカントリーソングを好んで歌っているヴァンだが、そのような趣味嗜好は昔からあったということなのだろう。

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