(1)Whenever God Shines His Light ホエンエヴァー・ゴッド・シャインズ
(2)Contacting My Angel コンタクティング・マイ・エンジェル
(3)I’d Love To Write Another Song アイド・ラヴ・トゥ・ライト・アナザー・ソング
(4) Have I Told You Lately ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー
(5) Coney Island コニー・アイランド
(6) I’m Tired Joey Boy ジョーイ・ボーイ
(7) When Will I Ever Learn To Live In God ホエン・ウィル・アイ・エヴァー・ラーン
(8)Orangefield オレンジフィールド
(9)Daring Night デアリング・ナイト
(10)These Are The Days ジーズ・アー・ザ・デイズ
〔ボーナストラック〕
(11)Whenever God Shines His Light (Alternative Take) ホエンネヴァー・ゴッド・シャインズ(別バージョン)
(12)When the Saints Go Marching In 聖者が町にやって来る
このアルバムについて述べる前に、一つだけお断りしたいことがある。ヴァン・モリソンのキャリアはもう40年以上になり膨大な作品が出ているけれど、90年前後の作品が私にとって最も愛着が強いということだ。彼の代表作といえば「アストラル・ウイークス」(68年)や「ムーンダンス」(70年)、そして「テュペロ・ハニー」(71年)あたりがガイドブックの筆頭に挙がる。それはそれで良いけれど、自分の思いはまた別にあることも否定できない。
時々ふと考えることがある。私はどうしてヴァン・モリソンにここまで惹かれたのか、ということだ。彼のCDは数十枚所持しているわけだし、昨年(07年)はイギリスまで渡って彼のライブを体験した。それほど自分にとっては特別なミュージシャンである。ジャズ、ブルース、ソウル、アイリッシュ・ミュージックなどの種々の音楽を飲み込み、独自の音を作り上げた孤高のシンガーというのが彼の一般的なミュージシャン像で、そうした指摘も間違ってはいないだろう。しかし、私が彼に惹かれた部分はそうしたところにはないと思っている。
詳しいことは別のアルバムの感想でも触れるつもりだが、彼に夢中になったのは、一言でいえばその音楽から発せられる「美しさ」だった。これは他のミュージシャンでは味わえないものである。その「美しさ」は90年前後の作品において顕著な気がする。私がこの時期の彼にひときわ強い思い入れがあるのはそうしたことが理由だ。彼のファンを自認する方ならば私の言いたいことはなんとなく実感できると信じている。そして、この「美しさ」が前面に出ている1枚が89年に出たこの「アヴァロン・サンセット」(Avalon Sunset)である。
ご存知ない方のために本作の特徴をいくつか挙げておこう、まず、このアルバムには2人のゲスト・ミュージシャンがいる。クリフ・リチャード(Cliff Richard)、そしてジョージィ・フェイム(Georgie Fame)だ。
クリフの日本における知名度はそれほど高くないだろうが、50年代のロックンロールの時代から現在にいたるまで活躍する大スターであり、「イギリスのエルヴィス(プレスリー)」と言われたこともある人だ。1曲目の“ホエンエヴァー・ゴッド・シャインズ”で2人がデュエットをしている。ヴァンとは対照的な柔らかい声の持ち主のクリフとの絡みが絶妙な作品だ。ちなみに今回のボーナストラックはヴァンが一人で歌っているバージョンもあるので、それと比較するとかなり印象が違ってきて面白い。
そしてジョージィ・フェイムは60年代からオルガン奏者やシンガーとしてイギリスで活動している人で、“イエー・イエー”などのヒット曲もある。本作では“ホエン・ウィル・アイ・エヴァー・ラーン”ほか数曲にオルガン奏者で参加しているが、ここから90年代中盤までヴァンの作品に関わることになる。実は、ヴァンよりも以前に私はジョージィの存在を知っていた。なぜかといえば、佐野元春のアルバム「ザ・サークル」(93年)で彼がハモンド・オルガンやヴォーカルでゲスト参加していたからである。思えば、ヴァンへの興味が強くなったのもジョージィがきっかけだったかもしれない。
ところで、このアルバムは「宗教色が強い」と言われることが多い。そして、そうした解説が理由で聴く気がおきなくなってしまう人もいるのではないだろうか。しかし、それはおそらく歌詞の内容においてのみの指摘だろう。確かに「God」や「Angel」という言葉が随所に出てくるのは間違いない。だが、音にまで宗教や信仰が影響されているとは思えない(ただ、70年代後半から80年代前半の彼の作品のいくつかには宗教色が色濃くでていた部分もあるかもしれない)。
その肝心の音の特徴といえば、まずストリングスの多用だろう。ロッド・スチュワートがカバーしたことでも知られる“ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー”をはじめ、大半の曲で使われている。数多い彼の作品でもここまでストリングスが入っているものはない。そして、それが見事な効果を発揮して曲の美しさを際立たせている。ホーンのアレンジではロック界一と言われるヴァンだが、ストリングスの手腕もかなりのものではないだろうか。
一方、ホーン・セクションはほとんど使われていない。“アイド・ラヴ・トゥ・ライト・アナザー・ソング”でサックスを吹いているくらいだ。歌い方も力一杯に歌っているのは“デアリング・ナイト”くらいで、全体的に静かな調子の作品である。しかし完成度というか統一感は非常に高い。“コニー・アイランド”の演奏などハッとするような「美しさ」に包まれた音が満載のアルバムだ。
今回のボーナストラックについても触れておこう。さきほど述べた“ホエンネヴァー・ゴッド・シャインズ”の別ヴァージョン、そして“聖者が町にやって来る”(“聖者の行進”と訳することもある)の2曲が追加されている。“聖者が町にやって来る”はもともとアメリカの黒人霊歌で、ルイ・アームストロングがジャズとして取り上げたことでも知られる。ヴァンは何を手本にしたかわからないが、この音源でもサックスを中心にジャズっぽいアレンジになっている。
ヴァン・モリソンを何から聴けば良いか迷う方は、このアルバムから入るのはいかがだろうか。70年代前後のヴァンはロック史として重要かもしれない。しかし私としては彼の音楽の持つ「美しさ」に触れて楽しんでもらえたらと願う。
(2)Contacting My Angel コンタクティング・マイ・エンジェル
(3)I’d Love To Write Another Song アイド・ラヴ・トゥ・ライト・アナザー・ソング
(4) Have I Told You Lately ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー
(5) Coney Island コニー・アイランド
(6) I’m Tired Joey Boy ジョーイ・ボーイ
(7) When Will I Ever Learn To Live In God ホエン・ウィル・アイ・エヴァー・ラーン
(8)Orangefield オレンジフィールド
(9)Daring Night デアリング・ナイト
(10)These Are The Days ジーズ・アー・ザ・デイズ
〔ボーナストラック〕
(11)Whenever God Shines His Light (Alternative Take) ホエンネヴァー・ゴッド・シャインズ(別バージョン)
(12)When the Saints Go Marching In 聖者が町にやって来る
このアルバムについて述べる前に、一つだけお断りしたいことがある。ヴァン・モリソンのキャリアはもう40年以上になり膨大な作品が出ているけれど、90年前後の作品が私にとって最も愛着が強いということだ。彼の代表作といえば「アストラル・ウイークス」(68年)や「ムーンダンス」(70年)、そして「テュペロ・ハニー」(71年)あたりがガイドブックの筆頭に挙がる。それはそれで良いけれど、自分の思いはまた別にあることも否定できない。
時々ふと考えることがある。私はどうしてヴァン・モリソンにここまで惹かれたのか、ということだ。彼のCDは数十枚所持しているわけだし、昨年(07年)はイギリスまで渡って彼のライブを体験した。それほど自分にとっては特別なミュージシャンである。ジャズ、ブルース、ソウル、アイリッシュ・ミュージックなどの種々の音楽を飲み込み、独自の音を作り上げた孤高のシンガーというのが彼の一般的なミュージシャン像で、そうした指摘も間違ってはいないだろう。しかし、私が彼に惹かれた部分はそうしたところにはないと思っている。
詳しいことは別のアルバムの感想でも触れるつもりだが、彼に夢中になったのは、一言でいえばその音楽から発せられる「美しさ」だった。これは他のミュージシャンでは味わえないものである。その「美しさ」は90年前後の作品において顕著な気がする。私がこの時期の彼にひときわ強い思い入れがあるのはそうしたことが理由だ。彼のファンを自認する方ならば私の言いたいことはなんとなく実感できると信じている。そして、この「美しさ」が前面に出ている1枚が89年に出たこの「アヴァロン・サンセット」(Avalon Sunset)である。
ご存知ない方のために本作の特徴をいくつか挙げておこう、まず、このアルバムには2人のゲスト・ミュージシャンがいる。クリフ・リチャード(Cliff Richard)、そしてジョージィ・フェイム(Georgie Fame)だ。
クリフの日本における知名度はそれほど高くないだろうが、50年代のロックンロールの時代から現在にいたるまで活躍する大スターであり、「イギリスのエルヴィス(プレスリー)」と言われたこともある人だ。1曲目の“ホエンエヴァー・ゴッド・シャインズ”で2人がデュエットをしている。ヴァンとは対照的な柔らかい声の持ち主のクリフとの絡みが絶妙な作品だ。ちなみに今回のボーナストラックはヴァンが一人で歌っているバージョンもあるので、それと比較するとかなり印象が違ってきて面白い。
そしてジョージィ・フェイムは60年代からオルガン奏者やシンガーとしてイギリスで活動している人で、“イエー・イエー”などのヒット曲もある。本作では“ホエン・ウィル・アイ・エヴァー・ラーン”ほか数曲にオルガン奏者で参加しているが、ここから90年代中盤までヴァンの作品に関わることになる。実は、ヴァンよりも以前に私はジョージィの存在を知っていた。なぜかといえば、佐野元春のアルバム「ザ・サークル」(93年)で彼がハモンド・オルガンやヴォーカルでゲスト参加していたからである。思えば、ヴァンへの興味が強くなったのもジョージィがきっかけだったかもしれない。
ところで、このアルバムは「宗教色が強い」と言われることが多い。そして、そうした解説が理由で聴く気がおきなくなってしまう人もいるのではないだろうか。しかし、それはおそらく歌詞の内容においてのみの指摘だろう。確かに「God」や「Angel」という言葉が随所に出てくるのは間違いない。だが、音にまで宗教や信仰が影響されているとは思えない(ただ、70年代後半から80年代前半の彼の作品のいくつかには宗教色が色濃くでていた部分もあるかもしれない)。
その肝心の音の特徴といえば、まずストリングスの多用だろう。ロッド・スチュワートがカバーしたことでも知られる“ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー”をはじめ、大半の曲で使われている。数多い彼の作品でもここまでストリングスが入っているものはない。そして、それが見事な効果を発揮して曲の美しさを際立たせている。ホーンのアレンジではロック界一と言われるヴァンだが、ストリングスの手腕もかなりのものではないだろうか。
一方、ホーン・セクションはほとんど使われていない。“アイド・ラヴ・トゥ・ライト・アナザー・ソング”でサックスを吹いているくらいだ。歌い方も力一杯に歌っているのは“デアリング・ナイト”くらいで、全体的に静かな調子の作品である。しかし完成度というか統一感は非常に高い。“コニー・アイランド”の演奏などハッとするような「美しさ」に包まれた音が満載のアルバムだ。
今回のボーナストラックについても触れておこう。さきほど述べた“ホエンネヴァー・ゴッド・シャインズ”の別ヴァージョン、そして“聖者が町にやって来る”(“聖者の行進”と訳することもある)の2曲が追加されている。“聖者が町にやって来る”はもともとアメリカの黒人霊歌で、ルイ・アームストロングがジャズとして取り上げたことでも知られる。ヴァンは何を手本にしたかわからないが、この音源でもサックスを中心にジャズっぽいアレンジになっている。
ヴァン・モリソンを何から聴けば良いか迷う方は、このアルバムから入るのはいかがだろうか。70年代前後のヴァンはロック史として重要かもしれない。しかし私としては彼の音楽の持つ「美しさ」に触れて楽しんでもらえたらと願う。
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