(1)How Can a Poor Boy? ハウ・キャン・ア・プア・ボーイ
(2)School of Hard Knocks スクール・オブ・ハード・ノックス
(3)That’s Entrainment ザッツ・エンターテインメント
(4) Don’t Go to Nightclubs Anymore ドント・ゴー・トゥ・ナイトクラブズ・エニーモア
(5) Lover Come Back ラヴァー・カム・バック
(6)Keep It Simple キープ・イット・シンプル
(7) End of the Land エンド・オブ・ザ・ランド
(8) Song of Home ソング・オブ・ホーム
(9) No Thing ノー・シング
(10)Soul ソウル
(11)Behind the Ritual ビハインド・ザ・リチュアル

過去の作品がドッと再発されるにもかかわらず、日本でまったく盛り上がる気配のないヴァン・モリソンであるが、アメリカでは人気が再燃しているらしい。この新作「キープ・イット・シンプル」もオリジナル・アルバムとしては過去最高の10位を記録したのは先日に述べた通りである。

ヴァン・モリソンは伝説の人ではなく、いまだに現役のミュージシャンだ。ブランクらしきものもないまま今日まで作品を作りつづけてきた創作力は、浮き沈みの激しい音楽業界の中で驚異的とさえいる。そして、この「キープ・イット・シンプル」も現在の彼が過去に流されていないことを証明する作品だ。この堂々たる新作の発売を機会に新しい聴き手が少しでも増えてくることを願いたい。

などと書いてみたが、このアルバムを聴いた瞬間、

「いつになく地味だなあ!」

と率直に思ってしまった。はっきり言わせてもらうが、ヴァン・モリソンをこれから聴こうと思う人はこのアルバムに手を出さない方が良いだろう。いや、別にお買い上げていただいても一向に構わないが、これでヴァンの魅力がパッと感じてもらえるかどうかは心もとない。これは彼の作品を何十枚も持っている私の感想だ。多少は参考にしてもらえればと思う。

一方、ここ数日の私といえばこのアルバムを繰り返す聴く日々を送っている。やはり今回のアルバムもいつも通りファンの期待を裏切らない作品であることは間違いない。というわけで、この「キープ・イット・シンプル」はどの部分が地味で、そしてどの部分が魅力的なのか。そのあたりを中心に述べてみようと思う。

さきほど「地味!」と書いたが、本作の大きな特徴はやはりその抑制された音作りであろう。試しに、前作「ペイ・ザ・デヴィル」(06年)でも、その前の「マジック・タイム」(05年)でも、過去の適当なアルバムと比較してみよう。ここまで少ない音でできた作品は見当たらないはずである。

また、曲調もおおむね平板というか淡々としたものばかりである。ブルース色の強い曲もあるけれど、基本的に起伏のある展開はまったく無い。熱心なファンに向けて解説すれば、本作は77年に出た「安息への旅」(A Period Of Transition)よりも地味なアルバムに位置づけられるだろう。すごいでしょ?

これだけ書くと、なんか1回聴いただけで忘れ去られてしまうような作品と思う人もいるかもしれない。しかし、そんなアルバムをなぜ私は繰り返し聴くのだろうか。こういう疑問は得てしてなかなか答えがでないものだが、自分の中でしっかりとした回答ができあがっている。

今回はバックがあまりにも地味な音のために、ヴァンのヴォーカルが不思議と前面に出ているからだ。そして、それがこのアルバムの一番の魅力になっている。

と言ってはみたものの、世間的に「うまい歌手」といえる人なのかどうかは怪しい。還暦を過ぎてもはや熱唱などするはすもないし、それどころかタイトル曲“キープ・イット・シンプル”など声が割れてよく聴き取れない箇所もある。よくこれで商品にできたな、と意地の悪い批判がおきても不思議ではない。しかし、アルバムを通して聴いているうちにジワジワと引き込まれてしまう。音楽とか歌というのは表面に出ているものだけではないのだ。たぶんそれは彼のファンならば感じてもらえると確信している。

それから、今回は全曲ヴァンのオリジナルで構成されていることも、私が繰り返し聴く要因の一つかもしれない。カバーが含まれていないアルバムは「バック・オン・トップ」(99年)以来だが、リアルタイムで彼のアルバムを繰り返し聴いていたのもその頃が最後だったような気もする。

やはり自分はヴァンの曲が好きなんだなあ、ということも再認識しながらこのアルバムに接している日々である。

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