ヴァン・モリソン「ウェイヴレングス」(78年。08年に再発。SHM-CD仕様)
(1)Kingdom Hall 熱狂のキングダム・ホール
(2)Checkin’ It Out チェッキン・イット・アウト
(3)Natalia ナタリア
(4)Venice U.S.A ベニス U.S.A
(5)Lifetimes 俺達の生き様は
(6)Wavelength 魂の呼び声
(7)Santa Fe/Beautiful Obsession サンタフェ/魅せられし故郷
(8)Hungry For Your Love 愛の乾き
(9)Take It Where You Find It 全てはもとどおり
〔ボーナストラック〕
(10)Kingdom Hall(Live)熱狂のキングダム・ホール(ライヴ)
(11)Wavelength(Live)魂の呼び声(ライヴ)

まず最初に、初めて私がこのアルバムを手にした時のことを書きたい。といってもいつの頃だったかははっきりしない。しかし新京極にあった中古CDショップで買ったのだけは覚えている。この店で見つけた「Wavelength」という名前のアルバムについて予備知識がまったく無かった。ヴァンのアルバムだから買っておこうか、という程度の認識だったのである。ぼやけたジャケットもあまり良い印象が持てず、これは海賊版かな?などと思ったりもした。

なぜこんなことを書いたかといえば、ヴァン・モリソンのファンの中でもこの作品はそれほど認知されていないのではと思ったからだ。「ベスト・オブ・ヴァン・モリソン」(90年)や「ベスト・オブ・ヴァン・モリソン2」(91年)にはこのアルバムの曲は入ってもいないし、なかなか親しみのわかない感じがする。私としてもしばらくの間は、上で書いたような印象しかもってなかった。

しかしながら、ちゃんと聴いてみると中身についてはなかなか侮れないものがある。2年半の沈黙を破って発売された77年の前作「安息への旅」(A Period Of Transition)はドクター・ジョンと共同プロデュースしたものの地味な曲が多いためか音楽メディアからの評価は今ひとつだった。そんなあまりうまくいったとはいえないカムバックを受けて出したのが本作である。アルバムは全米28位、英国では27位を記録した。

この作品の特徴といえばキーボードの音色だろう。ヴァンのアルバムでキーボード類といえば「ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー」で聴けるピアノ、またジョージィ・フェイムのハモンド・オルガンなどがパッと思い浮かぶ。しかし「いかにもキーボード」という音やアコーディオンがちりばめられているのはこの作品くらいだけではないだろうか。ゼムの仲間だったピーター・バーデンスやザ・バンドのガース・ハドソンといったゲストの参加が大きいのかもしれない。

そんなバックで歌われるヴァンの歌声は、前作にはない勢いや軽やかさがあって心地よい。ヴァンの伝記「魂の道のり」のアルバム解説で大鷹俊一さんは「ふっきれた」という表現を使っているけれど、本作は上り調子になっていくヴァンの姿を捉えた佳作といえよう。歌詞も、彼が小さい頃から影響を受けたラジオ、ダンスホール、アメリカのことを歌ったものなど深刻なテーマはあまりない。

近年に出たライブ映像「ライヴ・アット・モントルー1947/1980」(06年)ではタイトル曲や“熱狂のキングダム・ホール”の素晴らしい演奏を観ることもできる。このDVDを観ればアルバムが身近に感じられるかもしれない。

70年代中盤から80年代半ばあたりまでのヴァンの作品はかなり内容の振幅が激しい。しかし、本作から次の「イントゥ・ザ・ミュージック」(79年)までは右肩あがりの調子を保っていく。

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