京都市下京区の商業施設「COCON烏丸」(京都市下京区)3階にある「京都シネマ」にて、ルー・リードのライブを収めた映画「ルー・リード/ベルリン」が上映されると知り、仕事を終えた後で観に行った。会場はこじんまりした劇場で1日1回のみの上映である。この日のお客は私を含めて6人しかいない。あとで知ったことだが、今年の1月には既にこのDVDが発売されている。熱心なファンはすでにそれを買っているのかもしれない。

映画「ルー・リード/ベルリン」は、ルーのソロとしては3枚目のアルバム「ベルリン」(73年)を全曲演奏したライブの模様を題材にしたものである。ルー・リードの紹介は不要だと思うので割愛するけれど、アルバムについては私なりに内容をまとめておきたい。デヴィッド・ボウイとミック・ロンソンがプロデューサーした前作「トランスフォーマー」(72年)の中から“ワイルドサイドを歩け(Walk On The WildSide)”がヒットし(これは現在まで彼の最大ヒット曲となっている)、調子が上向きだった彼が次に組んだプロデューサーは、同時期にアリス・クーパーの「スクールズ・アウト」(72年)をヒットさせたばかりのボブ・エズリンだった。彼の代表作には「コンセプト・アルバム」の傑作と言われるピンク・フロイドの「ザ・ウォール」(79年)もあり、そうした演劇性の高い音作りが得意なようだ。

「コンセプト・アルバム」という言葉の定義はあまりはっきりしないけれど、全体を通して一貫した雰囲気やテーマが流れている作品、といえば良いだろうか。ロックならばビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」(66年)、ビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」(66年)、そして前述したピンク・フロイドをはじめとする「プログレッシブ・ロック」と称されたバンドの作品が主なものといえる。

「ベルリン」はスティーヴ・ウィンウッドやジャック・ブルースなど名うてのミュージシャンをバックに、まだ東西を分断していたベルリン(壁が崩壊したのは89年)を舞台にした10曲で構成されている。この説明だけでもなんだかコンセプト・アルバムのように思えてくるけれど、ルー自身はそれを否定している。しかしながら、バックに子どもの泣き声やバースデイ・ソングのコーラスなど効果音を随所に挿入するなど、かなり劇的というか視覚化しやすくなることを狙った音作りになっているのは間違いない。ちなみにアルバムを作った時点でルーはベルリンに足を踏み入れていなかったという。よって、この物語は純粋に彼の想像をつなぎあわせて作った作品ともいえる。

本作を最高傑作に挙げる人も多いらしい。しかしアレンジがちょっと過剰ぎみなのが個人的にはいつも気になってしまう。私が最も好きなのはほぼ一発で録音された「ブルーマスク」(82年)である。おそらくあまり派手なアレンジは性に合わないのだろう。そういうわけで、けっこう前からアルバムは所持をしていたものの、たいして聴かずに現在まで至っている。

商業的に失敗したせいか、長い間ライブでも「ベルリン」の曲を演奏することがなかった。しかしこのアルバムを「人生のサウンド・トラック」とまで称しているジュリアン・シュナベール監督の全面バックアップにより、発売から33年経った06年12月のニューヨークにて「ベルリン」を全曲演奏するライブが5夜にわたって実現する。ルー・リード、64歳の冬であった。

特別なライブだけあって、編成も通常では考えられない大所帯となっている。通常のロック・バンドに加え、ストリングス、ホーン・セクション、そして女の子が10人くらいコーラスで参加しているのが目を引く。音楽プロデューサーにはボブ・エズリン、そしてルーの現時点での最新作「ザ・レイヴン」(03年)を手がけたハル・ウィルナーの2人が担当した。彼らが一丸となって「ベルリン」の世界を見事に演出している。

映画は基本的にライブの模様が中心であるけれど、随所に他の映像を交差させた作りになっている。ライブ中にもバックに色々な映像が流れており、それらが複雑に入り混じるという具合だ。しかしそれが見づらくなるわけではなく、絶妙なバランスで映画が成立しているのはシュナーベル監督の手腕とか言いようがない。「ベルリン」に対する彼の愛情が伝わってくる。

余談になるが、英語のわからない人間にとって字幕スーパーの対訳はとてもありがたかった。映像と同時に歌詞をたどることにより、1曲の内容がこれまで以上にわかりやすく伝わってくる。思った以上に退廃的な内容でやたらと「ドラッグ」という言葉が出てくるが気になったけれど、アルバムの雰囲気はよくつかめたと思っている。

しかし何よりもライブ自体が素晴らしい。過去にルー・リードのライブは2回観ているけれど、それよりも良いとまで感じるほどだった。実際で会場に展開されたステージも破格の内容だったに違いない。

良かったばかりでまとまりのない感想になってしまったけれど、私の心境をズバリ表した文章が映画のパンフレットに書いてあった。これを最後に示したい。

「コンサート映画を観て、曲が終わったところで立ち上がって
拍手をせずにはいられない気持ちになったとしたら、それはたぶん最良の作品の証といえるだろう。
私はルー・リードのそれほどのファンではないが、本作を観たとき、まさにそんな感情に駆られた。
CHUD.com」

実際にライブを体験したような、充実した1時間25分だった。

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