ジャクソン・ブラウンのライブを観る時は、けっこう色々な期待をして会場に臨むのが常だった。好きな曲がたくさんあるし、日によって内容もけっこう変えてくる。そして何より、ライブの内容が破格に素晴らしい。
かつて山下達郎が自身のラジオ番組の中でジャクソンの特集をした時、彼のライブには海外のアーティストに見られる「手抜き」のようなものが感じられない、というようなことを言っていたのを今でも覚えている。私にはミュージシャンの手抜き云々を指摘できる目や耳は無いけれど、ジャクソンのライブが素晴らしすぎることだけは確信をしている。
それほどまでに好きなジャクソンだが、今回はいつもほど熱心になれていない自分がいた。その理由は明らかで、シェリル・クロウとのジョイント・ライブという形式をとっているからだ。どう頑張っても、いつもの半分くらいの時間しか彼のライブを観ることができない。それが本当に辛い。またネットの情報によれば、ジャクソンが一番手だそうだ。それでもジャクソンが観たい私は1万3000円のチケット(これもジョイント・ライブの弊害だ)を買って大阪国際会議場へ向かう。
午前中は仕事をして、いったん部屋に戻って着替えて少し休憩してから京阪電車で中之島まで向かう。途中の京橋駅の中でエビ入りのたこ焼きというのを食べてしまったりしたので、自分の席に着いたのは6時58分ほどになってしまった。座って間もなく7時2分には客電が落ちて、事前情報通りまずジャクソンの登場である。
初めの2曲は最新アルバム「時の征者」(08年)から立て続けに演奏されたものの、ジョイント・ライブで曲数が少ないこともあってか、以降はファンの喜ぶような曲の連続だった。
ところで、ジャクソン・ブラウンは非常に愛されている、というか愛され過ぎているミュージシャンである。よって、イタい取り巻きもたくさん会場に来る。リクエストにも柔軟に応じる部分もあるので、
「ロージー!ロージー!」
と客席から大きな声で求められる。それに負けるように、予定にはなかったであろう”ロージー”を歌ってくれた。あの時のジャクソンは明らかに、苦笑に近い笑顔を浮かべていた。
しかしそういうイタい人たちの気持ちもわからなくはないかな、と思ってしまうほど今夜のジャクソンのライブは素晴らしかった。いままで4回ほど観た彼のステージはどれも破格の出来であったけれど、今夜は短時間で凝縮したような感じが特に良かった。個人的には”サムバディズ・ベイビー”をバンド演奏で初めて聴けたのが収穫だったか。ともかく、フル・ステージで観たい、と演奏時間の短さを呪うばかりだった。それが今回のジャクソンに対する私から言える精一杯の賛辞である。
いつもの半分ほどの時間とはいえ、本編最後を飾る曲はやはり”孤独なランナー”だった。そしていつもならばお客が総立ちになるけれど、今日は全体の半分くらいしか立ち上がらない。シェリル・クロウのファンの方が多かったか、と一瞬は思った。しかし徐々に10人20人と立ち上がり、後半はほとんどの人が立ち上がって拍手を贈るようになる。これはさすがに感動的な光景であった。
演奏が終わって会場が最高潮になっているところに、いきなりシェリル・クロウと彼女のバンドが現れて会場がどよめく。ものすごく華奢な人だなと思っているうちに、そのまま”テイク・イット・イージー”へなだれ込み、客席はさらなる盛り上がりを見せてしまった。ここまでで1時間20分ほどだっだけれど、もう何も言うことがない内容である。
だが、一つだけ不思議な点があった。いつもライブで必ず演奏される”プリテンダー
”(The Prretender)がついに出てこなかったのだ。もしかして”ロージー”を演奏した関係で無くなったとか。抜けることがまずあり得ない曲なので、最後までそれが疑問である。
そこから舞台替えで25分ほど費やした。ドラムセットから後の照明までいろいろ変えていたけれど、もう携帯の時計は8時45分を示している。これでは終演は10時を大きく回るかなと思っていると、照明が落ちて舞台袖にスポット・ライトが当たる。さきほど少しだけ出て来たシェリル・クロウがギターを弾きながら登場した。楽器を演奏しながら舞台に向かうミュージシャンは初めて見たような気がする。
私はシェリルについて1曲も知らないほどの人間なので、果たしてライブを楽しむことができるか不安だった。そして実際のところ、心から楽しむという境地には最後まで至らなかったといえる。マイケル・ジャクソンやエリック・クラプトンの作品に参加するなどのキャリアを経て30過ぎてからデビューしたこの遅咲きのミュージシャンのパフォーマンスは堂に入ったものと感じたものの、いまひとつ魅力はわからなかった。ライブを観て思ったのは、アメリカン・ロックの王道のような曲よりも、カントリー調もしくはヒップ・ホップっぽい空気のある曲の時が彼女の本領を発揮していたように個人的には感じたけれど、たぶん彼女のファンにとっては全くそんなことはないだろう。
決定的だったのは、途中でジャクソンが加わって共演をした時である。この時、オッ!と感じる曲が出てきた。
「一体何だ?この自分の琴線に触れる曲は・・・」
と最初は驚いたけれど、すぐその理由に気づくことになった。その曲はニック・ロウがブリンズリー・シュウォーツ時代に作った名曲”PEACE LOVE & UNDERSTANDING”のカバーだったのである。そして、私はニックの大ファンである。
これにはつくづく考えさせられた。簡単には表現できないものの、自分の中に音楽の趣味嗜好というのは確かに存在しているということを痛感してしまったのである。そして、シェリル・クロウという人についても、自分には縁にないアーティストだったと今更ながらに気づくこととなる。そうでなかったら、1枚くらい彼女のアルバムを持っていたことだろう。
そんな複雑な思いに駆られながら、アンコールでシェリルのみが2曲演奏して、10時20分ごろに全てのライブが終了した。ジャクソンはついに出てくることはなかった。
「なんでジャクソンが出てこないんや。早く帰れば良かった」
と私の後ろの客が怒りに近い声をあげていた。私もジャクソンの再々登場を期待していた一人ではある。しかしながら、この15年くらいの両者の活躍を比較すれば、この扱いも致し方ない気はする。ただ、ジョイント・ライブというのは絶対に中途半端になることが避けられない、ということだけはこの場に記しておきたい。
最後にこの日の演奏曲目を記す。
【演奏曲目】
(ジャクソン・ブラウン)
(1)Time The Conqueror
(2)Off Of Wonderland
(3)Rock Me On The Water
(4)Fountain Of Sorrow
(5)These days
(6)Somebody’s Baby
(7)Rosie
(8)Late For The Sky
(9)Lives In The balance
(11)Doctor My Eyes /About My Imagination
(12)Giving That Heaven Away
(13)Running On Empty
(14)Take It Easy (with Sheryl Crow & her band)
(シェリル・クロウ)
(1)HAPPY
(2)CAN’T CRY
(3)LOVE IS FREE
(4)MISTAKE
(5)IT’S ONLY LOVE
(6)STRONG ENOUGH
(7)DETOURS
(8)LOVE HURTS with Jackson Browne
(9)PEACE LOVE & UNDERSTANDING with Jackson Browne
(10)REAL GONE
(11)NEIGHBORHOOD
(12)GOOD IS GOOD
(13)ALL I WANNA DO
(14)SOAK
(15)OUT OF OUR HEADS
<アンコール>
(16)CHANGE
(17)WINDING ROAD
かつて山下達郎が自身のラジオ番組の中でジャクソンの特集をした時、彼のライブには海外のアーティストに見られる「手抜き」のようなものが感じられない、というようなことを言っていたのを今でも覚えている。私にはミュージシャンの手抜き云々を指摘できる目や耳は無いけれど、ジャクソンのライブが素晴らしすぎることだけは確信をしている。
それほどまでに好きなジャクソンだが、今回はいつもほど熱心になれていない自分がいた。その理由は明らかで、シェリル・クロウとのジョイント・ライブという形式をとっているからだ。どう頑張っても、いつもの半分くらいの時間しか彼のライブを観ることができない。それが本当に辛い。またネットの情報によれば、ジャクソンが一番手だそうだ。それでもジャクソンが観たい私は1万3000円のチケット(これもジョイント・ライブの弊害だ)を買って大阪国際会議場へ向かう。
午前中は仕事をして、いったん部屋に戻って着替えて少し休憩してから京阪電車で中之島まで向かう。途中の京橋駅の中でエビ入りのたこ焼きというのを食べてしまったりしたので、自分の席に着いたのは6時58分ほどになってしまった。座って間もなく7時2分には客電が落ちて、事前情報通りまずジャクソンの登場である。
初めの2曲は最新アルバム「時の征者」(08年)から立て続けに演奏されたものの、ジョイント・ライブで曲数が少ないこともあってか、以降はファンの喜ぶような曲の連続だった。
ところで、ジャクソン・ブラウンは非常に愛されている、というか愛され過ぎているミュージシャンである。よって、イタい取り巻きもたくさん会場に来る。リクエストにも柔軟に応じる部分もあるので、
「ロージー!ロージー!」
と客席から大きな声で求められる。それに負けるように、予定にはなかったであろう”ロージー”を歌ってくれた。あの時のジャクソンは明らかに、苦笑に近い笑顔を浮かべていた。
しかしそういうイタい人たちの気持ちもわからなくはないかな、と思ってしまうほど今夜のジャクソンのライブは素晴らしかった。いままで4回ほど観た彼のステージはどれも破格の出来であったけれど、今夜は短時間で凝縮したような感じが特に良かった。個人的には”サムバディズ・ベイビー”をバンド演奏で初めて聴けたのが収穫だったか。ともかく、フル・ステージで観たい、と演奏時間の短さを呪うばかりだった。それが今回のジャクソンに対する私から言える精一杯の賛辞である。
いつもの半分ほどの時間とはいえ、本編最後を飾る曲はやはり”孤独なランナー”だった。そしていつもならばお客が総立ちになるけれど、今日は全体の半分くらいしか立ち上がらない。シェリル・クロウのファンの方が多かったか、と一瞬は思った。しかし徐々に10人20人と立ち上がり、後半はほとんどの人が立ち上がって拍手を贈るようになる。これはさすがに感動的な光景であった。
演奏が終わって会場が最高潮になっているところに、いきなりシェリル・クロウと彼女のバンドが現れて会場がどよめく。ものすごく華奢な人だなと思っているうちに、そのまま”テイク・イット・イージー”へなだれ込み、客席はさらなる盛り上がりを見せてしまった。ここまでで1時間20分ほどだっだけれど、もう何も言うことがない内容である。
だが、一つだけ不思議な点があった。いつもライブで必ず演奏される”プリテンダー
”(The Prretender)がついに出てこなかったのだ。もしかして”ロージー”を演奏した関係で無くなったとか。抜けることがまずあり得ない曲なので、最後までそれが疑問である。
そこから舞台替えで25分ほど費やした。ドラムセットから後の照明までいろいろ変えていたけれど、もう携帯の時計は8時45分を示している。これでは終演は10時を大きく回るかなと思っていると、照明が落ちて舞台袖にスポット・ライトが当たる。さきほど少しだけ出て来たシェリル・クロウがギターを弾きながら登場した。楽器を演奏しながら舞台に向かうミュージシャンは初めて見たような気がする。
私はシェリルについて1曲も知らないほどの人間なので、果たしてライブを楽しむことができるか不安だった。そして実際のところ、心から楽しむという境地には最後まで至らなかったといえる。マイケル・ジャクソンやエリック・クラプトンの作品に参加するなどのキャリアを経て30過ぎてからデビューしたこの遅咲きのミュージシャンのパフォーマンスは堂に入ったものと感じたものの、いまひとつ魅力はわからなかった。ライブを観て思ったのは、アメリカン・ロックの王道のような曲よりも、カントリー調もしくはヒップ・ホップっぽい空気のある曲の時が彼女の本領を発揮していたように個人的には感じたけれど、たぶん彼女のファンにとっては全くそんなことはないだろう。
決定的だったのは、途中でジャクソンが加わって共演をした時である。この時、オッ!と感じる曲が出てきた。
「一体何だ?この自分の琴線に触れる曲は・・・」
と最初は驚いたけれど、すぐその理由に気づくことになった。その曲はニック・ロウがブリンズリー・シュウォーツ時代に作った名曲”PEACE LOVE & UNDERSTANDING”のカバーだったのである。そして、私はニックの大ファンである。
これにはつくづく考えさせられた。簡単には表現できないものの、自分の中に音楽の趣味嗜好というのは確かに存在しているということを痛感してしまったのである。そして、シェリル・クロウという人についても、自分には縁にないアーティストだったと今更ながらに気づくこととなる。そうでなかったら、1枚くらい彼女のアルバムを持っていたことだろう。
そんな複雑な思いに駆られながら、アンコールでシェリルのみが2曲演奏して、10時20分ごろに全てのライブが終了した。ジャクソンはついに出てくることはなかった。
「なんでジャクソンが出てこないんや。早く帰れば良かった」
と私の後ろの客が怒りに近い声をあげていた。私もジャクソンの再々登場を期待していた一人ではある。しかしながら、この15年くらいの両者の活躍を比較すれば、この扱いも致し方ない気はする。ただ、ジョイント・ライブというのは絶対に中途半端になることが避けられない、ということだけはこの場に記しておきたい。
最後にこの日の演奏曲目を記す。
【演奏曲目】
(ジャクソン・ブラウン)
(1)Time The Conqueror
(2)Off Of Wonderland
(3)Rock Me On The Water
(4)Fountain Of Sorrow
(5)These days
(6)Somebody’s Baby
(7)Rosie
(8)Late For The Sky
(9)Lives In The balance
(11)Doctor My Eyes /About My Imagination
(12)Giving That Heaven Away
(13)Running On Empty
(14)Take It Easy (with Sheryl Crow & her band)
(シェリル・クロウ)
(1)HAPPY
(2)CAN’T CRY
(3)LOVE IS FREE
(4)MISTAKE
(5)IT’S ONLY LOVE
(6)STRONG ENOUGH
(7)DETOURS
(8)LOVE HURTS with Jackson Browne
(9)PEACE LOVE & UNDERSTANDING with Jackson Browne
(10)REAL GONE
(11)NEIGHBORHOOD
(12)GOOD IS GOOD
(13)ALL I WANNA DO
(14)SOAK
(15)OUT OF OUR HEADS
<アンコール>
(16)CHANGE
(17)WINDING ROAD
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