日本経済新聞がいよいよ明日から有料ニュースサイト「日本経済新聞 電子版」を開始する。これまではニュースを「NIKKEI.NET」で無料配信したものを、これからは有料購読者しか読めなくするわけだ。これまでのマス・メディアの流れを考えるとかなりの英断といえる。

この日経の姿勢に対し、「NIKKEI.NET」3月8日11時54分配信の、「『フリー』に挑む日経電子版の勇気ある社会実験」というコラムが掲載された。書いたのは慶応義塾大学大学院教授の岸博幸さんという人だ。岸さんは日経電子版を、「マスメディアが無料モデル(広告モデル)のネット事業でなかなか収益を上げられないなか、最適なビジネスモデルを探求しようとする重要な実験的取り組み」と位置づける。

岸さんはまず、「マスメディアがネット上で広告モデルを続けていても、絶対に儲からない」と指摘する。

ネット広告は大きく分けて、

・検索連動広告
・ディスプレー広告(バナー、動画など)
・その他(携帯広告など)

の3種類になるが、高い収益を上げているのはグーグルに代表される検索連動広告である。その一方、「ディスプレー広告の単価は世界中で下がり続けている」。無料サイトを作って広告で収益を上げるという方法はもはや頭打ちの状態というわけだ。だからマスメディアは新たな収益モデルを探さなければならないし、日経電子版はその一つとして岸さんは高い評価をしている。

しかしながら一方、日経電子版が成功するためには解決しなければならない課題も挙げている。

「無料に慣れ、デフレ下で生き抜く術を身に付けたユーザーは本当にシビアだからだ。『NHKオンデマンド』の失敗からも明らかなように、他の方法で無料で見られるものにお金を払う人は少ない。(中略)特にニュースは大変である。他のマスメディアが提供するコンテンツとの差別化が困難だからである。自社の紙の新聞と差別化し、かつ他のメディアとも十分に違いのあるコンテンツを提供しなければ、ユーザーは納得しないだろう」

多くの人も感じることだろうが、これまではタダで見ていたものに果たして金を払うかどうかという話だ。日経電子版はネット購読のみの「電子版月ぎめプラン」で料金が月額4000円かかる。これを受け入れられる人がそれほどいるかどうか。これは切実な問題だ。

これに対して岸さんは一つの方向性を示している。

「いろいろなコンテンツの世界に接してつくづく感じるのだが、どんなコンテンツでもユーザーは1対9に分かれる。前者はヘビーユーザーで、そのコンテンツが大好きあるいは不可欠だからいくらでもお金を払う。後者はライトユーザーで、そのコンテンツは好きだがお金を払う気はなく、無料で楽しめればそれでオーケーという層である。」

これは、こないだ私が買ったクリス・アンダーソン「フリー <無料>からお金を生み出す新戦略」(NHK出版、09年)に載っていた「フリーミアム(Freemium)」の考えに通じる。フリーミアムとはウェブの世界では一般的なビジネス・モデルである。例えばある会社の無料ソフトを利用した人の一部が、それを気に入ってもっと機能の豊富な有料ソフトを買うようになるというのがそれだ。

このビジネス・モデルの特徴的なことは、利用者全体のうちで有料ユーザーの占める割合が5%ほどしかいないという点だ。デジタルの世界ではサービスを提供するためのコストが限りなく低いので、有料ユーザーが20人に1人しかいなくても十分にやっていけるのである。

こうしたことを念頭におくと、日経電子版が生き抜くための方法はおぼろげながら見えてくるだろう。まず大量の無料ユーザーを囲い込み、そこから例えば5%の有料ユーザーを獲得して採算ラインにもっていく。これしかない。

さきほど指摘した「他のマスメディアが提供するコンテンツとの差別化」というのも、日経にはそれほど困難なこととは思えない。例えば勝間和代(経済評論家)さんはその著書「無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法」(07年、ディスカバー)で、

「ビジネスマンはなぜ日経新聞を読むのか?それは、記事の良し悪しはともかく、『みんなが読んでいるから』です。だからもちろん、あなたも読まなければなりません」(P.180)

と述べている。こうした人も世の中に結構いるような気がするからだ。

ちなみに日経電子版は無料登録ユーザーでも特ダネ記事を20本読むことができる。これを目当てに登録する人は多いだろうが、果たしてそこから有料ユーザーがどれくらい出てきてくれるか。その辺りを含めて、今後の日経の動きに注目してみたい。

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