朝から外の仕事が入っているため今日は午前5時30分に目を覚ました。そのまま部屋を出て午後6時前くらいまで勤務するべし、のはずだったけれど職場の人に無理を言って2時には帰らせてもらった。そして部屋を戻って着替えをしてバスで京阪出町柳駅まで向かう。この時期は言うまでもなく桜の季節であり、鴨川近辺は多くの花見の客でごった返していた。駅のホームも明らかにいつもより人が多い。大阪に行ってもそれは同じようなもので、通行人が邪魔で走ることがままならない。

いま思えば、あの時の私は間違いなく苛立っていた。俺は別に観光に来たわけじゃない、大阪に行きたいだけだ、と。そんな感じで急いで向かったものの、仕事の電話が途中で2件入ったことなどもあり会場のZepp Osakaに着くころには、整理番号で200番近くの人が既に入場しているところだった。とはいえ、私は756番という最後の方の番号だからほとんど問題がなかったが。チケットの発売が決まった時に「ぴあ」の先行予約で申し込めばもっと良い番号だったには違いない。しかし色々な理由があってチケットを買うのを直前まで見送っていたからである。しかしながら11年ぶりに再結成したこのバンドを観たいという思いは消えることがなく、やっぱり私はこの会場へ来てしまったわけだ。

このバンドに対する私の思いを簡潔にまとめることはできない。大好きなジョイ・ディヴィジョンの影響を受けたということを知って彼らに興味を持ち、99年に2枚目のアルバム「クルーキッド・レイン」(94年)を初めて聴いた時はとてつもない衝撃を受けたのを今でも覚えている。それからしばらくして出た「テラー・トワイライト」(99年)が自身の生涯ベスト5のアルバムとなり、その流れのまま心斎橋クラブクアトロで来日公演を観る(99年8月22日)。しかしその半年後にバンドは活動停止してしまった。それからしばらくして中心人物のスティーヴ・マルクマスはソロ・アルバム「スティーブ・マルクマス」(01年)を発表して再出発したものの、それにともなう来日公演(01年5月13日、心斎橋クラブクアトロ)が期待と実際の落差があまりにも激しい内容で、私の「生涯最低のライブ」と位置づけるものとなる。あの時はあまりのショックで部屋に帰るのも苦痛だったのも忘れられない思い出だ。

それからはたまにアルバムを引っ張りだして聴いていたものの、もはやこのバンドの音を生で再び体験できるなどとは夢にも思っていなかった。しかし去年の終わり、この2010年限定で活動を再開されるというニュースが飛び出すのだから、世の中というのは全くよくわからない。

チケットを買えたのは良かったものの、お客の入りは残念ながらそれほどでもなかった。東京公演を観た人がmixiの感想で、若いファンもたくさん見かけたなどと書いていたけれど、私が観る限りお客の年齢は20代後半か30代前半というのが大多数だったと思う。前回の来日公演は高校生くらいの女の子もたくさんいたことを思えば、若い聴き手が増えているというのは事実と少し遠い気がする。彼らに対して再評価の動きなどの話も聞いたことがないし、それはそれで仕方ないだろうが。ここに集まったのはたぶん、再結成を願っていたまではいかなくても、ペイヴメントのことをずっと忘れずにいた人たちなのだろう。

私はやや前方のど真ん中に陣取って開演を待つ。楽器などをチェックする人はなぜか阪神タイガースのハッピを着ていた。始まる時間はすこし遅れるかなと予測したが、意外にも午後6時になったらすぐ照明が落ちる。会場からはもの凄い歓声が起きた。そしてついに、11年ぶりに、あのペイヴメントが私たちの目の前に現れた。スティーヴは相変わらず顔が見えないほど前髪をボサボサにして、その巨体をユラユラとギターを揺らしながら舞台左手で演奏している。その姿を観ていると、そういえば11年前もこんな感じのライブだったなあ、などと99年のことを思い出し感慨にふけってしまった。

バンドの出す音は実に素晴らしい。彼らに対してローファイだの脱力系だのと、いかにも無気力そうなイメージを与えかねない評価を時々見かけるけれど、それはとんでもない誤解である。無駄にテンポが速かったり、雑音のようなノイズを出したりするような真似を排して見事にコントロールされているだけのことである。そしてそれは、ペイヴメントの音、というしか形容しようがないものだ。

私が今日のライブで願っていたことがただ一つだけあった。あの「クルーキッド・レイン」の曲を聴きたい。細かいことは色々あるけれど、ひとまずそれだけだった。もはや遠い記憶であまり確信は持てないけれど、99年の大阪公演ではこのアルバムからの曲が1つも演奏されなかったはずだ。いや本当はされていたかもしれないけれど、「1曲も聴けなかった。そのままバンドが解散されて悔しい」と私が11年間もずっと思い続けたのはまぎれもない事実である。

しかしながら”Silence Kit”のイントロが出た時、私の悲願はついに達成された。その他にも、”Rage Life”,、"Unfair"、”Cut Your Hair”、”Stop Breathin’”、”Gold Soudz”、”5-4=unity”と計7曲も演奏されるのだから、もはや何も言うことがなかった。これらの曲を聴いた時には、この11年で失ってしまった何かを取り戻したようなそんな思いに駆られた。演奏曲目は彼らのキャリアから満遍なく選曲された感じだが、「テラー・トワイライト」からは”Spit On A Stranger”が唯一だった。この曲は11年ぶりに聴けたわけで、そういう点でも非常に嬉しかった。

さらに自分でも驚いたのは、”Fight This Generation”が演奏された時である。この曲では実にドライブの効いた間奏が長く続くのだがそれが本当に素晴らしいもので、

「こんなバンド、他に観たことも聴いたこともない・・・」

と思っているうちに、涙がボロボロと出てしまったのである。こんなしみったれたバンドの音に感激する自分は我ながらおかしいと思う。それはともかく最初から最後までステージに釘付けの状態で楽しんだ。

それから、一つ特筆したいことがある。それはこの日の観客の反応であった。ライブの最初から最後までモッシュやダイブのような光景は一度としてなかったのである。無駄に騒ぐわけでなく、しかし盛り上がるべき時はしっかり盛り上がる、という送り手のバンドと受け手のお客とのやり取りが見事であった。その理由は単純に、ペイヴメントのファンの大多数の人に「分別」とか「良識」というものが備わっていたということであろう。そういう面でも私の理想のライブであった。こういう人たちとこの日のライブを共有できたことを光栄に思う。

あまり自分らしい表現ではない気もするけれど、これを観れたらあと10年くらいはなんとかやっていけるかな。今日のこの日まで11年も待ったのだから、そう思えてくる。今年のベスト・ライブなどという域を超えて、我が生涯最高のライブの一つであった。最後に曲目を記す。

【演奏曲目】
(1)In The Mouth A Desert
(2)Shady Lane
(3)Father To A Sister of Thought
(4)Perfume-V
(5)Silence Kit
(6)Grounded
(7)Rattled By The Rush
(8)Kennel District
(9)Zurich Is Stained
(10)Range Life
(11)Loretta’s Scars
(12)Starlings of The Slipstream
(13)Two States
(14)Fight This Generation
(15)Stereo
(16)Summer Babe
(17)Unfair
(18)Cut Your Hair

<アンコール1>
(19)Date With Ikea
(20)Debris Slide
(21)Stop Breathin’
(22)Here

<アンコール2>
(23)Box Elder
(24)Trigger Cut
(25)Spit On A Stranger
(26)Gold Soundz
(27)5-4=Unity
(28)Conduit For Sale!

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