京都市中京区の御前三条に「こぶ志」というラーメン店があった。さまざまなタイプのラーメンが食べられる京都市においても極めて個性的な商品を出す店で、新メニューが出るたび熱心なファンがブログでそれを紹介をするなど人気店となっていた。

しかしこの2月、今の店を閉めて下京区で「拳(こぶし)ラーメン」と屋号を変えて営業再開するという話が出てくる。どうしてわざわざ「こぶ志」を「拳」などと半端な名前の変え方をするだろうと最初は怪訝に感じた。しかし京都ラーメンに関する掲示板で、雇われの立場だった店長が独立する云々の情報が書いてあったので、心機一転で頑張るためか縁起担ぎの意味で変えたのだろうとその時はそれで納得した。

はっきりとその理由がわかったのは、かつての御前三条の場所に「こぶ志」がカレーうどんの店として今月また始めるというニュースにおいてであった。情報元の某ラーメン・サイトの掲示板に書かれていた説明によれば、要するに「拳ラーメン」の店長は「こぶ志」という屋号を使う権利を持っていないということだ。名義を持っているのは経営母体の会社で、元・店長は「こぶ志」の名前でできるよう交渉したものの、それが叶わず今回の結果となったそうだ。「拳ラーメン」という名前はこうした妥協の末にできた産物といえる。

そういえば音楽界でも似たような話を見かける。アメリカのバンド、ガンズ・アンド・ローゼスはオリジナル・メンバーがアクセル・ローズただ一人だけになっていてもこのバンド名で活動をしている。日本のハウンドドッグも現在はボーカルの大友康平だけでライブをしている。バンド名の所有権を持っているからだ。一方、ガンズの元メンバー3人は03年に新たなバンド、ヴェルヴェット・リヴォルヴァーを結成してかなりの人気を得ている。ハウンドドッグにいた人たちは・・・今ひとつよくわからない。

お店にしろバンドにしろ、世間に広まった屋号(バンドにはこの表現は合わないかな?)というのは商売をするのに絶大な力となる。こうしたものを商業簿記2級の知識では「のれん」という。

国語辞典「大辞林」(三省堂)で「のれん」を調べてみると、

(1)商店で、屋号などを染め抜いて店先に掲げる布。また、部屋の入り口や仕切りにたらす短い布をもいう。

と実物の定義がまず出てくる。続いて、

(2)店の信用。店の格式。「ーにかかわる」「ーを守る」「ーを誇る老舗」

(3)営業活動から生まれる、得意先関係・仕入れ先関係・営業の秘訣・信用・名声など、無形の経済的財産。グッドウィル。

と実物から派生した概念についても記されている。

商業簿記における「のれん」は(3)の意味で使われる。企業が長いあいだ事業活動をすることにより獲得した知名度で、もっとわかりやすくいえば企業の「ブランド」のことだ。それは資産価値があるものと解釈されるが、現金や有価証券のようには目に見えるものではないので「無形固定資産」と分類される。さきのラーメン店やバンドの事例を見てみれば、「のれん」に商業的なメリットを持っていることがすんなりと理解できるに違いない。そして権利を持っている者がそれを行使することができる。

確かにブランド名の力は強い。しかし、名前だけで実体は伴っていないという場合はどうだろう。ラーメン店ならば、同じ屋号であっても作る人が違えば中身は必然的にまったく別のものでしかない。バンドにしても、ヴェルヴェット・アンダーグランドやゼムのように、主要なメンバーがいなくなっても同じ名前で続けることはある。しかしその中身といえば・・・。

本日営業を再開する新生「こぶ志」がどのような道をたどるのか、色々な意味で興味深い。

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