この4月に入った会社が色々あって仕事ができなくなり、その代わりを探すためハローワークや複数の人材派遣会社に当たってみた。4月14日に某派遣会社へ行った時は、パッと探せるものは無いですねえ、と担当の方からは消極的な返事しかもらえなかった。いくら派遣だからといって都合よく仕事がある時代でもないかと落胆してその時は帰った。しかしその翌日に、こういう仕事がありますけどいかがですか、とすぐに連絡が入った。そして、ご希望でしたら「書類選考」の候補に入れさせてもらいます、とのことだった。もう何の望みもない私としては、お願いします、としかいえなかった。

書類選考とは何かといえば、派遣会社に登録している人の中から適当な候補者を選び出す段階である。そして顧客(派遣先)に対して「こんな人がいますが、どうですか?」と打診するわけだ。そして、では会ってみましょうか、ということになると「職場見学」へと進む。

お願いしますと頼んでから数時間後、では職場見学の日程を調整したいのですが、と電話がかかってくる。とりあえず派遣会社による選考を抜けることはできた。しかし本当の問題は次の職場見学である。

まとまった期間を派遣社員として働いた方ならご存知だろうが、こちらで働きたいという意志があるからといってパッと勤務できるというものではない。

「派遣の窓」というサイトにその辺りが詳しく説明されている。私も職場見学の直前にかなり参考にさせてもらった。

http://www.hakennomado.com/syokubakengakutoha.shtml

<職場見学とは、一言で言ってしまえば派遣採用時の『面接』です。
現在、労働者派遣法では特定行為にあたる事前面接を禁止しています。(労働者派遣法第26条7項、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」)
しかし、「打ち合わせ」「職場見学」などと称して『事前面接』が行われる場合が多いのが現状です。
2004年3月の派遣法改正に伴う指針で、厚生労働省は「本人が希望すれば職場訪問などを認める」と明示しましたし、また、正社員への登用の可能性を前提に派遣社員として採用する「紹介予定派遣」では『事前面接』が可能にもなりました。
派遣での『事前面接』は法の原則は今でも違法となっておりますが、解禁に向けて徐々に動いているようにもみえます。
(まぁ、すでに当たり前の状況ですが。。。)>

つまり、私がこの世で最も嫌いな儀式である面接をしなければならない。さすがに1日や2日しか働かない日雇いとは違い、雇用主も採用には当然慎重になるというわけだ。それにしても採用までの道のりは本当に険しい。

実際にどういう選考が行われているかというと、「派遣の窓」にはこう書かれている。

http://www.hakennomado.com/syokubakengakunogenjyou.shtml

<都心部でのお仕事の場合、感覚値ですが、80%が『職場見学』ありのお仕事だと思います。それはみなさんも肌で感じていると思います。しかも、その中の70%のお仕事が『競合』となっているのではないでしょうか(実際、営業活動をしているともっと多い気もしますが)
「競合って?」という人もいるかもしれませんが『競合』とは企業が複数社の派遣会社に発注を出し、各社1名ずつ紹介しその中から一人決定するというもの。。。まさに『面接』です。
ほとんどが2社から多くて5社くらいの競合となっています。という事は1つの仕事に2~5人のライバルがいるって事ですね。>

この話の通りだとすれば、職場見学は単なる顔合わせの出来レースでは決して無いということだ。他に候補がいる、と考えるだけでもう私は絶望的な気持ちになってしまう。これまでの内定率はもう1%すら満たない人間だからね。

とりあえず職場見学の日取りを決めないといけないけれど、その時はもう4月下旬に臨時の仕事を入れてしまったため、

「すいません。すぐに調整はできないんですが•••。連休直前ならいつでもOKです」

などという返事をしてしまった。電話口で、これで終わったかな、と思いながらしゃべった。候補者なんて他にいくらでもいるに違いない。

「そうですか。連休前だと先方も忙しいと思いますが•••調整してみます」

と向こうはそんな感じだった。

それから1週間くらい経ってまた派遣会社から電話がかかってくる。

「他の人に決まったという連絡かな。もう終わったな」

と思いながら出ると、

「先方が連休前までバタバタしてまして、時間が作れるとしたら休みが明けた5月15日でもよかったら職場見学をと言ってますが、いかがですか?」

というのである。5月の中旬とはちょっと遅い気もするがこちらの都合も聞いてもらった手前もあるしそれでお願いすることにした。派遣会社を登録してから職場見学までおよそ1ヶ月を要したことになる。

そして本日の午後、派遣会社の担当の方と一緒に見学へ向かった。その前に、私は自分の意志で職場見学をしました、という署名にハンコを押してもらうよう頼まれた。さきほど言ったとおり面接は禁止となっているので、その対策というわけだ(こちらが職場見学を希望するというのは一向に構わないのである)。

職場見学は、派遣先から3人、こちらは担当者と私の2人である。隣に誰かがいるということで、通常の面接ほどには緊張しなかったと思う。まず担当者が作ってきたA4で1枚ものの簡単な職務経歴書(会社などの個人情報は伏せられている)をもとに、私がこれまでの経歴を説明する。色々と突っ込まれるかと思ったが、先方は私のこれまでした業務にはそれほど関心がなかったようで経験に関する質問は皆無だった。

先方が訊ねてきたのは、

•仕事の内容はこういうことだが、どうだ
•住んでるところはどこか
•正社員ではないが大丈夫か

というくらいで、いま思えばこちらの働く意思を確認したかったような気がする。それからこれはお決まりなことだが、質問はありませんか?というのが出てきた。具体的な職場の雰囲気や人数などがつかめなかったので、その辺りを訊いてみた。そんな感じで職場見学は終わった。所要時間は20分くらいである。

職場を出たあと担当の方から

「どうでしたか?思っていた仕事内容と違ってましたか?」

と訊いてきたので、

「いや、別にありません」

と答えたら、

「では、これから最終選考に入ります。前向きに話をさせてもらってもよろしいですか?」

と言われた。「前向きに」とは派遣会社からは私を推してくれるということか?

「はい。ぜひお願いします」

と即答したら、担当の方はまた再び職場の中に入っていった。

「ここからが最終選考か•••どうなるのかなあ。あとは派遣先の意向だけか」

と不安に思いながら雨の中を歩く。

「上京区に住んでいると言ったら、ちょっと遠いですねえ、と先方は渋い顔をしたしなあ•••」

と相変わらず私は悪い方へ悪い方へとしか考えが至らない。しかし、これまでこれまでなんだから仕方ないではないか。

「合否は当日中にお返事できると思います。もし長引きそうならまた連絡します」

とのことだった。駅から歩いている間はずっとiPhoneを手に握っていた。それでボーっとしていたため、タクシーに引かれそうになる。危ない。

「駄目だったら、また他をあたらないといけないなあ」

そんなことを思うと、部屋で連絡を待つのが辛くなってきた。そこで進路を変更しハローワーク西陣へ行くことにする。天気が悪いせいか人はそんなにいなかった。また、求人も良いものがあまり無かった。20分ほど仕事を検索してもラチがあかないので帰ろうとしたら、ついに派遣会社から連絡がくる。職場見学終了から1時間20分ほど経ったころである。

「渡部さん、さきほどの職場見学ではありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ。お疲れさまでした」

「それで•••ぜひ働いていただきたいと思うのですが」

「•••はい、ぜひお願いします」

涙は出てこなかったけれど、胸の奥からグッとくるものを感じた。これでしばらく就職活動はしなくていいと思うと本当に気持ちが楽になった。

別にこれで何もかもが解決したわけではない。決まった仕事はひとまず最大3年間の契約であり、それ以降の予定は白紙の状態だ。また、私自身もちゃんと勤められるかどうかは正直わからない。

派遣の面接に行くんですと周囲の人に言うと、正社員の方が安定しているよ、と異口同音に答えが返ってくる。しかしこのご時世、正社員になれたからといって万事うまくいくとは限らない。勤務先の方にも、だから私は就業形態にはこだわりません、と強く主張した。これが良かったのかもしれないが。

いずれにしても明後日から新しい仕事の始まりとなる。背広を着て働くのもほぼ1年ぶりだ。この間は本当に辛いものがあった。ある友人は、面接に行きます、と私が言うたびに、受かったら飲みに行きましょう、といつもメールを送ってくれたがそれがもうずっと叶わなかった。しかし今日ようやく約束を果たしてもらえそうだ。

その方以外にも私がフラフラしているのを心配している人は多かっただろう。また、お前なんか早よ死んだらええねん(なぜか関西弁)と思っている人もいるだろう。こちらも正直いって、もう生きていて良いことなんかあるのかねえ、と思うばかりの今日この頃ではある。しかし死ぬほどの決意もない私は、それでもまだしばらくはこの世界で踏ん張ってみようと思う。

追い風か、向かい風か、それはわからない。

しかし風向きは、確実に変わった。

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