レナード・コーエン「オールド・アイディア」(12年)
2012年7月12日 CD評など
ここ数日ちょっと心身ともに疲れてしまったようだ。一から何か考えて書く元気もないので、書きかけだったCD評を手直ししたものを載せようと思う。
この文章を書き始めたのは今年の3月上旬あたりだった。その頃の私はTwitterで流れた「キース・リチャーズ死去」というデマを周囲に流して迷惑をかけてしまった。
「デマに振り回された夜」(2012年3月6日に投稿)
http://30771.diarynote.jp/201203070904399096/
キースが亡くなった、と思った時にパッと思い浮かんだのがレナード・コーエンのこのアルバムだった。そして数日後にこのアルバムを手に入れる。1934年生まれのコーエンは現在77歳だ。もうカンオケに片足が入っているような年齢だが、ここにきて新作を出すという事実にまず驚かされてしまう。
たとえばデヴィッド・ボウイやロバート・フリップ(キング・クリムゾン)など壮年のミュージシャンには引退もしくは引退同然の生活を送っている人も出てきている。もはや私も、ずっと現役で活動してくれ!などと好きなミュージシャンに願うような依存心は持っていない。余生を大事するというのは人間として当然だと思うからだ。しかし一方、ヴァン・モリソンやニール・ヤングなど自分が本当に敬愛している人はいつまで活動してくれるのかと不安な気持ちがないわけでもない。前述のデマを聞いた時にそんなことが頭の中をグルグルと回った。
この「オールド・アイディア」(Old Ideas)はコーエンのオリジナル・アルバムとしては12枚目の作品となる。最初に出した「レナードコーエンの唄」(Songs of Leonard Cohen)が1968年のことだ。40年以上のキャリアを持ちながらこれだけしか作品を出していないのだから実に寡作な人である。ちなみに前作「ディア・ヘザー」(Dear Heather)が出たのは04年、実に8年もの月日が流れている。
彼の新作を待ち望んでいた人は世界にたくさんいるようだ。私はコーエンを勝手にカルト・ミュージシャンというかミュージシャンズ・ミュージシャン(ミュージシャンから高い評価を受けているミュージシャン)と思っていたけれど、本作は世界16ヶ国で1位、本国カナダではプラチナ(100万枚、かと思ったら8万枚らしい)認定、アメリカでもビルボードで初登場3位を記録するなど、CDが売れていない昨今ということを差し引いても実に素晴らしい結果を残している。
年齢ばかり強調してしまったような気がするが、実際のところは別にこの歳で作品を出したから支持を受けているわけではない。単純に作品が素晴らしく、しかも彼にしか構築できない独自の世界があるからだ。1曲目の”Going Home”の賛美歌を連想させるイントロからもうコーエンの土俵に引き込まれてしまう。好きか嫌いかはともかくとして、もはや誰も辿り着けないような境地まで彼が到達しているのがパッと聴いただけでも実感できるだろう。
コーエンはミュージシャンであると同時に詩人や小説家でもあり、歌詞の評価も高い。しかし英語がよくわからない自分にとってはやはり彼の魅力といえば声である。初期のベスト・アルバムで彼の歌を聴いた時は正直あまりピンとこなかったけれど、ライブ盤「コーエン・ライブ」(94年)においてでその思いはひっくり返った。低音でささやくような彼の歌い方は一本調子でありいわゆる「うまい」というものとは違うかもしれないが、この声の響きはちょっと他に例える人が見つからない。
そしてその声は年齢を重ねるごとにその深みを増しているようだ。ためしに01年の「テン・ニュー・ソングス」を聴いて比較する。11年前のコーエンの方が元気で力があるだろうなと最初は予測したがとんでもない思い違いで、内容は甲乙つけがたかった。コーエンの声、そしてヴァイオリンやホルンや女性コーラスなどの静謐な演奏との絡みは、地味といえば地味かもしれないが、コーエンの世界観もここに極まった感もある。最高傑作などとは恐れ多くて言えないけれど、そういってもいいくらい堂々たる風格をもった作品である。
しかも恐ろしいことに、この8月から新作をともなった世界ツアーもおこなうという。ヴァン・モリソンもそうだが、来日公演が夢となる可能性が非常に高い人であり一度は観てみたいなあと思うものの、具体的な展望は私に何一つない。だが、あくまで生涯現役を貫こうとしているよコーエンの動く姿を見るだけでも胸に迫るものがあるだろうなあ、などと想像してしまう。それはこのアルバムを聴いても一端は感じてもらえると信じている。
この文章を書き始めたのは今年の3月上旬あたりだった。その頃の私はTwitterで流れた「キース・リチャーズ死去」というデマを周囲に流して迷惑をかけてしまった。
「デマに振り回された夜」(2012年3月6日に投稿)
http://30771.diarynote.jp/201203070904399096/
キースが亡くなった、と思った時にパッと思い浮かんだのがレナード・コーエンのこのアルバムだった。そして数日後にこのアルバムを手に入れる。1934年生まれのコーエンは現在77歳だ。もうカンオケに片足が入っているような年齢だが、ここにきて新作を出すという事実にまず驚かされてしまう。
たとえばデヴィッド・ボウイやロバート・フリップ(キング・クリムゾン)など壮年のミュージシャンには引退もしくは引退同然の生活を送っている人も出てきている。もはや私も、ずっと現役で活動してくれ!などと好きなミュージシャンに願うような依存心は持っていない。余生を大事するというのは人間として当然だと思うからだ。しかし一方、ヴァン・モリソンやニール・ヤングなど自分が本当に敬愛している人はいつまで活動してくれるのかと不安な気持ちがないわけでもない。前述のデマを聞いた時にそんなことが頭の中をグルグルと回った。
この「オールド・アイディア」(Old Ideas)はコーエンのオリジナル・アルバムとしては12枚目の作品となる。最初に出した「レナードコーエンの唄」(Songs of Leonard Cohen)が1968年のことだ。40年以上のキャリアを持ちながらこれだけしか作品を出していないのだから実に寡作な人である。ちなみに前作「ディア・ヘザー」(Dear Heather)が出たのは04年、実に8年もの月日が流れている。
彼の新作を待ち望んでいた人は世界にたくさんいるようだ。私はコーエンを勝手にカルト・ミュージシャンというかミュージシャンズ・ミュージシャン(ミュージシャンから高い評価を受けているミュージシャン)と思っていたけれど、本作は世界16ヶ国で1位、本国カナダではプラチナ(100万枚、かと思ったら8万枚らしい)認定、アメリカでもビルボードで初登場3位を記録するなど、CDが売れていない昨今ということを差し引いても実に素晴らしい結果を残している。
年齢ばかり強調してしまったような気がするが、実際のところは別にこの歳で作品を出したから支持を受けているわけではない。単純に作品が素晴らしく、しかも彼にしか構築できない独自の世界があるからだ。1曲目の”Going Home”の賛美歌を連想させるイントロからもうコーエンの土俵に引き込まれてしまう。好きか嫌いかはともかくとして、もはや誰も辿り着けないような境地まで彼が到達しているのがパッと聴いただけでも実感できるだろう。
コーエンはミュージシャンであると同時に詩人や小説家でもあり、歌詞の評価も高い。しかし英語がよくわからない自分にとってはやはり彼の魅力といえば声である。初期のベスト・アルバムで彼の歌を聴いた時は正直あまりピンとこなかったけれど、ライブ盤「コーエン・ライブ」(94年)においてでその思いはひっくり返った。低音でささやくような彼の歌い方は一本調子でありいわゆる「うまい」というものとは違うかもしれないが、この声の響きはちょっと他に例える人が見つからない。
そしてその声は年齢を重ねるごとにその深みを増しているようだ。ためしに01年の「テン・ニュー・ソングス」を聴いて比較する。11年前のコーエンの方が元気で力があるだろうなと最初は予測したがとんでもない思い違いで、内容は甲乙つけがたかった。コーエンの声、そしてヴァイオリンやホルンや女性コーラスなどの静謐な演奏との絡みは、地味といえば地味かもしれないが、コーエンの世界観もここに極まった感もある。最高傑作などとは恐れ多くて言えないけれど、そういってもいいくらい堂々たる風格をもった作品である。
しかも恐ろしいことに、この8月から新作をともなった世界ツアーもおこなうという。ヴァン・モリソンもそうだが、来日公演が夢となる可能性が非常に高い人であり一度は観てみたいなあと思うものの、具体的な展望は私に何一つない。だが、あくまで生涯現役を貫こうとしているよコーエンの動く姿を見るだけでも胸に迫るものがあるだろうなあ、などと想像してしまう。それはこのアルバムを聴いても一端は感じてもらえると信じている。
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