いま派遣で働いている勤務先は、主に着物類の卸しをしている会社だ。もはや大きく成長できる分野ではないだろうが、それでも勤務先は割と手広く仕事をしていて毎週のように全国各地で展示即売会を開催している。

展示即売会といわれてもピンとこない人が大半だろうが、具体的な流れはこんな感じだ。まず、現場担当の人が必要な商品や備品(POP類など)を私のいる部署(商品の出荷をおこなっている)へ持ってくる。それらを梱包して発送業者(クロネコヤマトや福山通運など)へ渡し即売会の会場へ運んでもらう。それから担当者は現地へ向かい、そこで荷物を受け取って会場準備および即売会の運営もこなす。それが終われば売れ残った商品などを会社へ返送する。そのサイクルのくり返しだ。ちなみに売れ残った商品やPOP類には、また次の即売会で再利用されることになる。

この流れを端から見ていて気になっていたことがある。商品は会社の人が直接運ぶのではなく民間の発送業者にさせている点だ。私たちが日常生活で利用している宅急便や飛脚便と変わらないのである。いきおい、時間指定で頼んだのに届かない、とか、午前中に指定したのにもう正午になる、といった担当者からのクレームが私のボスのところにかかってくるわけだ。ボスはそのたびに業者に電話をかけて発送状況を確認し、時にはドライバーの携帯に直接電話をして「なんとも間に合わせてくれ」と催促することもある。

そうした光景を見て、なかなかの綱渡りだなと思う一方、

「こんなにしょっちゅう発送していたら、事故も起きるのでは・・・」

と心配になってくる。そして先日、その不安が現実化してしまった。

それはある日の昼休みを終えてすぐのことだった。東京で翌日から即売会をする担当者からボスに電話がかかってくる。

商品を発送する手配の段取りを間違えてしまい届かなかった。どうしても必要なものなので「いくらかかってもいいから」今日中になんとか持ってきてほしい。

要件はこんなところだった。非常にヤバい展開である。

「今日中に東京というのは、佐川やヤマトなら無理やろうなあ」

というのがまずボスの発した言葉だった。それは誰もが思うところだろう。即日配達の宅急便なんて聞いたこともない。

時計はまもなく2時を回ろうとしていた。しかし、ボスはいたって冷静でいつも通りの調子でニヤニヤしているくらいだった。

「誰かが新幹線に乗って持ってってくれたら一番良いんだけど・・・。渡部君、行ってみるか?」

などといきなり言われた。まあ、私は先日も深夜バスに乗って0泊で広島へ行ってきたような人間なので新幹線(急用なので無論「のぞみ」である)に乗って上京して時給が稼げるならこれ以上のことはない。ないのだけど、

「行きたいところですけど、僕は派遣だし、労災とかややこしいことが絡んでくるのでは・・・(笑)」

と冗談まじりに答えた。

ボスは、

「そりゃ、そうやなあ(笑)」

と言って、問題の解決に乗り出した。彼が連絡を取ったのは、近所にある小規模の運送会社だった。

「前に(運送会社の人と)しゃべった時、できるとか言ってたから・・・」

とのことだった。そしてその結果、なんと行ってくれるという返事がきたのである。急いで伝票を書き換え、荷物を再梱包し、納品先までの地図を用意した。午後3時10分ごろに運送会社の人が一人ふらっとやって来て、2、3分ほどその場で打ち合わせをしてから荷物を持って東京へと向かってしまった。その結果は確認してないけど、たぶん無事に届いたのだろう。

値段を訊いてみたら、交通費込みで4万4500円とのことである。交通費を引いたら1万5000円ほどが会社に入るというとこだが、緊急の依頼と考えればそれほど高くもないだろう。

こちらの運送会社は即売会によってはまとめて荷物を運んでもらってもいる。その判断基準はわからないが、地方のはずれにある会場などだったら小さい会社の方が大手よりも小回りがきいて便利なのかもしれない。

それにしても、荷物が無事に出荷されるまでまったく平常でいたボスには感心した。私なら、荷物がまだ届いてないんだけど、と電話が入るだけで右往左往していただろう。この辺りは経験の違いなんだろうな。

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