衆議院選挙がおこなわれる。世間では「争点のわからない」というような声をよく耳にするし、私自身もどうしていいのか最近まで悩んでいた。

そもそも政治への関心は薄いし、政党や政治家というのが私たち国民の生活にどのような影響を与えているのかも今ひとつピンとこない。そんな人間が選挙演説やビラを見たところで何を判断できるというのか。それが正直な感想である。

しかしながら、今回の選挙は自民・公明あわせて約300議席を占めるという予測には少なからず違和感を抱いていることも確かだ。現政権の進めている政策が具体的にどうかという以前に、この国のあり方が一部の人たちの意見にドッと傾いていることに対して不安なのだ。保守や革新などというようなイデオロギーの区分けはあまり意味がない。どんな思想にせよ極端な方向に偏って進んでいくことが危険なのだ。

橘玲さんが著書「不愉快なことには理由がある」(12年。集英社)の中で、

<政策的に重要で、専門家のあいだで合意が成立しない問題は、民主制(デモクラシー)社会では最後は素人が選択するしかありません。
 幸いなことに、いまでは素人の集合知が少数の専門家よりも正しいことがわかっています。>
(P.5)

と述べている。そして「素人の集合知」が正しく機能するためには「たくさんの風変りな意見」(P.6)が必要になると結論づけている。本書はこうした考え方をもとに政治や経済などを述べているが、選挙についてはこういう箇所がある。

<混迷する日本の政治を担う人物を、私たちはどう選べばいいのでしょうか。
じつはこれは、科学的にはすでに答えが出ています。
ひとつは、候補者の演説など聞かずに直感で決めればいい、というものです。>
(P.73)

これは、人間はわずか数秒間の印象によって全てを判断してしまうという実験結果をもとにした意見だが、一方で私たちは容姿や風貌といった外見の要素に引きずられるため直感に頼るのも危険であるという指摘もされている。

ならば、そうした歪みをなるべく矯正して投票することができないか。そんなことを考えているうちにこんな方法を思い付いた。
まず小選挙区の候補者の選び方だが、自民および公明(つまり現政権)を除いた候補者のクジを作りそこで引き当てた人に投票する。比例代表については、小選挙区に入れた候補者の党を排除してまたクジ引きをして決めるのである。こうすれば、候補者を見た目で選ぶようなことは絶対にない。

これを見て、ふざけるな、と激怒した方もいるだろう。

「お前はこの国の行方について何か真剣に考えていないのか?」

という疑問を持ったかもしれない。確かに私も日本国民としてそれなりに思いはあるし「こんな国になってほしい」という考えもなくはない。しかし、現政権が進めている政策に比べて自分の考えの方が優っているなどと言える自信が、私には全くないのだ。

各種メディアで、今回の選挙はこういう選択をするべきだ、など主張する有識者と私との決定的な違いはここである。彼らは自分の考えに絶対の自信を持っているのだろう。だが私は、選挙や政治に限らず、おおよそ「自信」や「確信」といったものは抱いていないのである。それは私が歩んだ38年半ほどの人生が物語っている。

もし私に素晴らしい思想や行動力があったとしたら、現在こんな状態になっていなかっただろう。別にニヒリズムとかそういうことではなく、自分の半生を冷静に振り返ったらそんな結論に至っただけのことだ。

また、あらゆるイデオロギーからなるべく自由になって選挙に臨むことができないかという思いもあった。それをするとしたら上のような方法が一番なのではないか。

「でも、もしこれで社民党とか共産党とか引いたら・・・なんか嫌だなあ」

などと思うとしたら、それは貴方もまたある種のイデオロギーにしっかりと染まっていることの証だろう。国粋主義とか共産主義といったものには否定的な人でも、自分の中にあるイデオロギーの執着についてはなかなか自覚できないものだ。

「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があるように、昔の富も権力もない平民たちはどんな悲惨なことが起きても空に向かってひたすら祈るしかなかった。そしてその結果を黙って受け入れて人生を終えてきたのである。ただ、彼らは選挙権という権利すら持ってなかったわけだが。

少し前に起きた民主党の大勝、そして現在の自民党政権の揺れ戻しも、原因は人為的なものではないのか?そして、その不自然な人為に勝てるものがあるとすればそれは自然な成り行き、つまり「偶然性」ではないだろうか。

そういうわけで、今回の選挙はクジで決めて、その結果については何も言うまいと思っている。いやそもそも、たかが内閣の顔ぶれが変わったくらいで自分の人生の全てが決まるとも考えていない人間だからこんな真似ができたのかもしれない。

いちおう自分なりに説明したつもりだが、これで納得のいかない人もいるかもしれない。しかし、文句を言われる前に、かつてこの国の首相だった人の言葉をまず切り出しておこう。

「私は、あなたとは違うんです」

と。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索