職場のボスは「電波」の人
2015年5月31日 日常あれはゴールデン・ウイークに突入する直前のことだった。いつも通り仕事を終えて帰ろうとする時に、同じ部署の社員のBさんとすれ違った時に、
「近いうちに皆でメシに行かない?君の歓迎会もしてないし・・・」
と声をかけられた。
「え?なんで今頃・・・」
というのが正直な感想だった。私がこの派遣先に来てから1年半以上も経過しているわけである。ただ、周囲の人と全く交流をとっていなかったものまた事実だ。自称「病気」の元・営業社員と一度飲んだことがあるだけだ(この時の話は貴重なもので、また別の機会に書きたい)。この件については快諾し、平日の晩はたいてい空いてるのでお願いします、と答えた。
それから連休が明けてからしばらく経った頃、
「今度の金曜日にするから」
と耳元でBさんにささやかれた。なぜ小声かといえば、職場のボスにバレないようにするためである。私にいる部署は私を含めて9人いるが、金曜日に集まったのは男性4人だ。その中にボスは、含まれていない。会場もボスと帰り道が全く逆にある居酒屋「魚民」の一室であった。
テーブルに腰掛けると、4人で一番年配であるAさんが開口一番、
「ここは歓送迎会というものが無いんです。派遣だろうが契約だろうが、他の部署はあるんですが、この部署にはありません。また、みんなここに来てから2年経ってませんし、顔合わせのようなもので・・・」
と言われて「ええ?」と思った。去年の夏に入ってきた「自称病人」のC氏および1年7ヶ月目の私はともかく、AさんもBさんもまだこの部署に来て2年過ぎていなかったのはこの時初めて知ったのである。
そこから、
C「あの人(ボスのこと)、僕の送別会は要らないから、って今日言ってきたんですよ!」
B「本当か?あいつ、何を勘違いしてるんだ?」
というやり取りからボスに対する罵詈雑言が飛び出した。本日の会の目的が核心へと進んでいった。そう、我らが職場の長であるボスについてである。
奇しくも我々が集まる日の夕方に、突如ボスが豹変する瞬間が久しぶりにあった。それは偶然ではなかったのかもしれない。
ここで働き始めてしばらくしてから、突然Aさんがボスに怒鳴られている光景を何度か見かける。それに対してAさんは、
「誠に申し訳ありません!」
と言うばかりで、その原因や理由が端から見ていてもさっぱりわからなかった。意味がわからないことで殺すような勢いで怒鳴っている光景が実に気持ち悪かったのである。それからしばらして、その気色悪いものに私も巻き込まれることになる。
ある日の11時ごろだったろうか。その日はあまり出荷する商品もなく静かであった。なんとはなしで職場をウロウロしていたら、急にボスが私の方にゆっくりと近づいてきて、
「不信に思われるような行動は・・・取らんといてな・・・」
と言ってきたのである。メガネの奥にあるその目は泳いでいて、彼の精神状態がまともでないことは明白であった。
それにしても、この言葉は私が社会に出てから最も「恐ろしい」と感じたものである。これが例えば「不信な行動をとる」というのであれば、その意図はかなりはっきりしている。仕事をサボって携帯をいじったり、職場の片隅でお経を唱えたりすれば「不信な行動」である。これはある程度の人が共有できる認識だし、それなりに客観性もある。
しかしこれが「不信に思われるような行動」となると話は全く異なってくる。こちらがどれだけ真面目に働いたとしても、現場責任者であるボスが「あいつは不信な行動をとっている!もうアカン!」などと思ってしまえば、それで終わりなのである。この違いは大きいし、また「もう今月を持って契約を更新しません」という辞める「権利」しか持っていない派遣社員の立場からすれば余計にそうである。
「気持ち悪い・・・」
と内心では思いながらもボスの横で黙って作業をしていたら、しばらくすると体が震え出し、なんと私に商品を投げてつけてきて、
「だから言ったやろ!不純なことを考えるからや!週明けから怒鳴らせるな!殺すぞ!」
とブチ切れたのだ。それはボスがAさんに対してやってきたのと同じ光景であった。もちろん、その理由はわからない。ちなみに実際には「殺すぞ!」とまでは言われていないが、その時の雰囲気を出せるかもしれないと思いつけ加えてみた。それほどまでにボスの怒り具合は尋常ではなかったからだ。
ボスの異常行動については細かいことを挙げたらキリがないが、もう一つだけ紹介したい事例がある。それはある時期から私に対して、
「渡部君、悪魔のささやきに負けたらあかんで!」
などと「悪魔」という表現をやたらと持ち出すようになったことだ。「悪魔」とは何のことか。その時はさっぱりわからなかったが、どうもBさんが職場をうろうろしている時に口に出すことに気付いた。色々と話の断片をつなげてみると、悪魔(Bさん)が悪だくみをして、私もそれに巻き込もうとしているということなのだ。
もちろんBさんが職務上で悪いことをしている形跡はないし、私とBさんの間には何のつながりもない(電話番号もメール類も交わしたことはない)。それなのにボスはBさんを陰で「悪魔」よばわりして不信がっているのだ。赤の他人を「悪魔」などというのは、もうまともな感覚ではないだろう。
宴席では職場の昔話も出てきたが、ある社員の方がかつてボスとすれ違うたびに、
「お前、いま俺をにらみつけただろう!」
と食って掛かってきたという。それゆえあいつ(ボス)とは目を合わせたらいけない、ということになったらしいが、もはやこれはヤクザの所業である。
ここまで書いてきて自分でもわけがわからなくなっているが、ボスが異様な行動をとることだけはなんとなく感じてもらえたかとは思う。
なぜあの人は突然ぶち切れるのか?
なぜBさんを「悪魔」よばわりするのか?
ある時Aさんはボスに対して、
「おたく、何かの宗教でも入ってますのん?」
と訊ねたことがあるらしいが、違う、という答えだった。周囲の人間は理由がわからない。宗教でもない。それならば、と私がこう結論づけてみた。
それって「電波」でしょう?と。
これを聞いて、周囲の3人には大ウケだった。
しかし、もうここまできたら理由はそれしか考えられないだろう。原因は外部に無いとすれば、あとはボスの脳内にしか存在しない。どこからか飛んでくる「電波」をキャッチしたらブチ切れ出すということなのだ。
わ「で、Bさんはその電波を出す体質なんですよ(笑)」
と言ったら、
B「お前なあ・・・」
と苦笑していた。
ナンセンスといえばナンセンスな話である。しかし、世の中にはもう片付けられない問題というのが存在する。ボスの行動について秩序づけるものがないとすれば、無理矢理「電波」のような理由を作ってなんとか納得させるしか方法はあるまい。私は医者でも政治家でも宗教家でもないから、ボスのような人をどうすることもできないわけだし。
救いがあるとすれば、ボスは今年度いっぱいで定年となり、それ以降は残る意思が無いということだ。もっとも私は来年1月いっぱいなので、その前に去ることになるわけだが。
とにかく色々と理不尽なことを言われている4人が集まって飲めたのは楽しかった。ただ、ボスについてよく知ることになった私は、ますます職場にいるのが嫌になった次第である。もう、ここには未練は無い。
「近いうちに皆でメシに行かない?君の歓迎会もしてないし・・・」
と声をかけられた。
「え?なんで今頃・・・」
というのが正直な感想だった。私がこの派遣先に来てから1年半以上も経過しているわけである。ただ、周囲の人と全く交流をとっていなかったものまた事実だ。自称「病気」の元・営業社員と一度飲んだことがあるだけだ(この時の話は貴重なもので、また別の機会に書きたい)。この件については快諾し、平日の晩はたいてい空いてるのでお願いします、と答えた。
それから連休が明けてからしばらく経った頃、
「今度の金曜日にするから」
と耳元でBさんにささやかれた。なぜ小声かといえば、職場のボスにバレないようにするためである。私にいる部署は私を含めて9人いるが、金曜日に集まったのは男性4人だ。その中にボスは、含まれていない。会場もボスと帰り道が全く逆にある居酒屋「魚民」の一室であった。
テーブルに腰掛けると、4人で一番年配であるAさんが開口一番、
「ここは歓送迎会というものが無いんです。派遣だろうが契約だろうが、他の部署はあるんですが、この部署にはありません。また、みんなここに来てから2年経ってませんし、顔合わせのようなもので・・・」
と言われて「ええ?」と思った。去年の夏に入ってきた「自称病人」のC氏および1年7ヶ月目の私はともかく、AさんもBさんもまだこの部署に来て2年過ぎていなかったのはこの時初めて知ったのである。
そこから、
C「あの人(ボスのこと)、僕の送別会は要らないから、って今日言ってきたんですよ!」
B「本当か?あいつ、何を勘違いしてるんだ?」
というやり取りからボスに対する罵詈雑言が飛び出した。本日の会の目的が核心へと進んでいった。そう、我らが職場の長であるボスについてである。
奇しくも我々が集まる日の夕方に、突如ボスが豹変する瞬間が久しぶりにあった。それは偶然ではなかったのかもしれない。
ここで働き始めてしばらくしてから、突然Aさんがボスに怒鳴られている光景を何度か見かける。それに対してAさんは、
「誠に申し訳ありません!」
と言うばかりで、その原因や理由が端から見ていてもさっぱりわからなかった。意味がわからないことで殺すような勢いで怒鳴っている光景が実に気持ち悪かったのである。それからしばらして、その気色悪いものに私も巻き込まれることになる。
ある日の11時ごろだったろうか。その日はあまり出荷する商品もなく静かであった。なんとはなしで職場をウロウロしていたら、急にボスが私の方にゆっくりと近づいてきて、
「不信に思われるような行動は・・・取らんといてな・・・」
と言ってきたのである。メガネの奥にあるその目は泳いでいて、彼の精神状態がまともでないことは明白であった。
それにしても、この言葉は私が社会に出てから最も「恐ろしい」と感じたものである。これが例えば「不信な行動をとる」というのであれば、その意図はかなりはっきりしている。仕事をサボって携帯をいじったり、職場の片隅でお経を唱えたりすれば「不信な行動」である。これはある程度の人が共有できる認識だし、それなりに客観性もある。
しかしこれが「不信に思われるような行動」となると話は全く異なってくる。こちらがどれだけ真面目に働いたとしても、現場責任者であるボスが「あいつは不信な行動をとっている!もうアカン!」などと思ってしまえば、それで終わりなのである。この違いは大きいし、また「もう今月を持って契約を更新しません」という辞める「権利」しか持っていない派遣社員の立場からすれば余計にそうである。
「気持ち悪い・・・」
と内心では思いながらもボスの横で黙って作業をしていたら、しばらくすると体が震え出し、なんと私に商品を投げてつけてきて、
「だから言ったやろ!不純なことを考えるからや!週明けから怒鳴らせるな!殺すぞ!」
とブチ切れたのだ。それはボスがAさんに対してやってきたのと同じ光景であった。もちろん、その理由はわからない。ちなみに実際には「殺すぞ!」とまでは言われていないが、その時の雰囲気を出せるかもしれないと思いつけ加えてみた。それほどまでにボスの怒り具合は尋常ではなかったからだ。
ボスの異常行動については細かいことを挙げたらキリがないが、もう一つだけ紹介したい事例がある。それはある時期から私に対して、
「渡部君、悪魔のささやきに負けたらあかんで!」
などと「悪魔」という表現をやたらと持ち出すようになったことだ。「悪魔」とは何のことか。その時はさっぱりわからなかったが、どうもBさんが職場をうろうろしている時に口に出すことに気付いた。色々と話の断片をつなげてみると、悪魔(Bさん)が悪だくみをして、私もそれに巻き込もうとしているということなのだ。
もちろんBさんが職務上で悪いことをしている形跡はないし、私とBさんの間には何のつながりもない(電話番号もメール類も交わしたことはない)。それなのにボスはBさんを陰で「悪魔」よばわりして不信がっているのだ。赤の他人を「悪魔」などというのは、もうまともな感覚ではないだろう。
宴席では職場の昔話も出てきたが、ある社員の方がかつてボスとすれ違うたびに、
「お前、いま俺をにらみつけただろう!」
と食って掛かってきたという。それゆえあいつ(ボス)とは目を合わせたらいけない、ということになったらしいが、もはやこれはヤクザの所業である。
ここまで書いてきて自分でもわけがわからなくなっているが、ボスが異様な行動をとることだけはなんとなく感じてもらえたかとは思う。
なぜあの人は突然ぶち切れるのか?
なぜBさんを「悪魔」よばわりするのか?
ある時Aさんはボスに対して、
「おたく、何かの宗教でも入ってますのん?」
と訊ねたことがあるらしいが、違う、という答えだった。周囲の人間は理由がわからない。宗教でもない。それならば、と私がこう結論づけてみた。
それって「電波」でしょう?と。
これを聞いて、周囲の3人には大ウケだった。
しかし、もうここまできたら理由はそれしか考えられないだろう。原因は外部に無いとすれば、あとはボスの脳内にしか存在しない。どこからか飛んでくる「電波」をキャッチしたらブチ切れ出すということなのだ。
わ「で、Bさんはその電波を出す体質なんですよ(笑)」
と言ったら、
B「お前なあ・・・」
と苦笑していた。
ナンセンスといえばナンセンスな話である。しかし、世の中にはもう片付けられない問題というのが存在する。ボスの行動について秩序づけるものがないとすれば、無理矢理「電波」のような理由を作ってなんとか納得させるしか方法はあるまい。私は医者でも政治家でも宗教家でもないから、ボスのような人をどうすることもできないわけだし。
救いがあるとすれば、ボスは今年度いっぱいで定年となり、それ以降は残る意思が無いということだ。もっとも私は来年1月いっぱいなので、その前に去ることになるわけだが。
とにかく色々と理不尽なことを言われている4人が集まって飲めたのは楽しかった。ただ、ボスについてよく知ることになった私は、ますます職場にいるのが嫌になった次第である。もう、ここには未練は無い。
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