もう一人の派遣社員について
2016年4月21日 日常前のボスが職場を去ることによる人員減の補充のため、私と同じ派遣会社から一人新たにやってきたのは3月20日を過ぎた頃だったと記憶している。
私の場合、前ボスの「事前に面接しても実際働いてみなければわからないから・・・」という方針により「社内見学」(と称した面接。労働者派遣法により登録型派遣は面接を禁じている)をせずにそのまま働く運びとなった。派遣会社の担当の方から、社内見学はありません、と言われたので今の場所に決めたのだが、もしもそれがあったら私は現在どうなっていたのか怪しいところである。
しかし来月から職場のボスになるTさんが、事前に確認をしたい、という意向もあって今回は面接をする運びとなった。面接の前日くらいに、45歳の男性だから、と前ボスから教えてもらった。
「45歳・・・あんまり若くないな」
などと、まもなく40歳になる立場の私も率直に思った。
そして職場見学の日は、面接した後でその男性も私のいる部署を訪れた。45歳という年齢相応の感じで、それなりに老けていてあまり生気のない風貌だなあ、と一目見て直感した。面接なのでスーツを着ていたが、その姿もなんだか似つかわく見えなかった。
それが彼に対する第一印象である。まあ私は同じ派遣社員の立場であり採用について何の影響もなかったけれど、彼が3日後に働き始めると聞いた時には、
「え?採用するんですか・・・」
と少し意外な気がした。
確かに仕事内容は時給労働の派遣社員がする程度の割と単純な内容ではある。しかし、個人的には「やめた方がいいのでは・・・」と彼を見た時に強く感じたのである。ただ、不採用にして次の人を紹介して、ということを繰り返して採用をズルズル先に伸びてしまうのも都合は悪い。ましてや10日も経たずに現在のボスは職場を去るわけだし。そのような状況を考えれば、とりあえず採用してみよう、という判断は妥当ではある。しかし、そんな方針ならば最初から面接なんて必要もなかったんだけどね。
そして、私の感じた不安は、また残念ながら当たってしまった。
私と彼はちょっと仕事の内容が異なって、ほとんど一緒にいることはない。ただ最後の1時間くらいは同じ作業をすることもあった。その時に横で彼の動きをチラチラ見ていたわけだが、
「なんか、あんまり作業ははかどっていないなあ・・・」
という感じしていた。
彼のなんだか生き生きしない風貌に比例するように、作業する動きもかなり鈍かったのである。物覚えも良くなく、Tさんが教えたこともすぐ忘れて彼をイライラさせるような場面も何度か近くで見ていた。
しかし、仕事が遅い、というだけが問題ならば「入ったばかりだし仕方ない」と納得できる面もある。が、話はこれだけでは終わらなかった。
その派遣社員が帰った後(始業時間は私より30分早い)で、
「あれは強烈だわ・・・鼻がもげそうや・・・」
というTさんの愚痴が聞こえてくるのである。
「ああ、あのことかな」とすぐに思い当たる節があった。
その派遣社員が近くにいると、なんともいえない「臭い」が漂ってくるのは私も気づいてはいた。つまり、彼の体から何やら体臭のようなものが発生しているのである。それでも私の場合、彼と接する時間は極めて短いのでそれほど気にならなかった(体臭に鈍感という面もあるが)。しかしTさんは彼を隣の席に乗せて京都市内で配送業務をしているので、そうした影響が露骨に出てくるのだ。
ただでさえ仕事ぶりが冴えないうえ、なんだか訳のわからない異臭を発する派遣社員に対してTさんは我慢の限界が超えたため、
「お前、臭い!」
とついに本人に面と向かって言ってしまった。
しかし当の派遣社員といえば、
「え・・・臭いですか?」
と怪訝そうな顔をしたというのである。よく聞く話だが、自分の体臭というのは自分では気づかないようであり、彼もその例外ではなかった。
「臭い!職場の女の子が気づく前になんとかしろ!ファブリーズしろ!」
と、なかなか言いづらい指示を出したようだ。
しかし、どうも彼の体臭の原因というのはよくわからないところがある。「(臭いの元は)服か?それとも体なのか?」とTさんが訊いたら「体です」と答えたので、体臭なのは間違いないようだ。しかし、どこから臭ってくるのかが判然としない。
実は、彼には体臭の原因らしきものが一つある。それは彼の過去の職歴なのだ。又聞きなので詳しいことはわからないが、ゴミ収集車の後ろを走って道路に置かれているゴミを投げ入れる作業をしていたらしい。
「そういう環境にいたら、体臭もついて取れないからなあ・・・」
とTさんは頭を抱えながら私にもこう漏らしていた。
それからしばらく経ったが、体臭について改善の方向には言ってなかったようだ。
「臭い・・・もうダメだ・・・・死ぬ・・・」
とTさんのボヤキは毎日ように聞くことになる。
こんな状況が続けば職場の環境も悪化する一方だ。何か私も考えなければなるない。
そういえば、私もずっと足の臭いで苦しんでいたが、先日買った「竹酢液(ちくさくえき)」という液体を吹きかけていたらかなりの改善が見られた。そこでそれを教えてみようと思った。
「竹酢液って知ってますか?体臭に効果はありますよ」
と言うと、
「あー・・・いや、アレはそんなものでは治らんよ」
と渋い顔をして、
「(自分の頭をツンツン指さしながら)それ以前に、基本的な仕事ができないしさあ・・・」
と、もう雇用を継続したくないような素振りを見せていた。もう彼も長くはないなあと直感した。
しかし、当の派遣社員といえば、相変わらずマイペースを貫いており、それ以後も独特な臭いを振りまきながら作業をこなしている。
私も端で彼を見るのは嫌だったのだが、廊下ですれ違った時にこう尋ねられた。
「渡部さん・・・有給ってどうしてますか?」
ああ、有給ね。派遣社員も半年続けて働けば発生するけど、ここの派遣先は平日になかなか休めないから20日以上も私は残してるがね。
でもさあ・・・あなた、半年先も雇ってもらえると自分で思っているのかい?
4月に入ってから疲れる日が続いているが、この質問はよりいっそう私の中の疲労をひどいものにさせていた。
私の場合、前ボスの「事前に面接しても実際働いてみなければわからないから・・・」という方針により「社内見学」(と称した面接。労働者派遣法により登録型派遣は面接を禁じている)をせずにそのまま働く運びとなった。派遣会社の担当の方から、社内見学はありません、と言われたので今の場所に決めたのだが、もしもそれがあったら私は現在どうなっていたのか怪しいところである。
しかし来月から職場のボスになるTさんが、事前に確認をしたい、という意向もあって今回は面接をする運びとなった。面接の前日くらいに、45歳の男性だから、と前ボスから教えてもらった。
「45歳・・・あんまり若くないな」
などと、まもなく40歳になる立場の私も率直に思った。
そして職場見学の日は、面接した後でその男性も私のいる部署を訪れた。45歳という年齢相応の感じで、それなりに老けていてあまり生気のない風貌だなあ、と一目見て直感した。面接なのでスーツを着ていたが、その姿もなんだか似つかわく見えなかった。
それが彼に対する第一印象である。まあ私は同じ派遣社員の立場であり採用について何の影響もなかったけれど、彼が3日後に働き始めると聞いた時には、
「え?採用するんですか・・・」
と少し意外な気がした。
確かに仕事内容は時給労働の派遣社員がする程度の割と単純な内容ではある。しかし、個人的には「やめた方がいいのでは・・・」と彼を見た時に強く感じたのである。ただ、不採用にして次の人を紹介して、ということを繰り返して採用をズルズル先に伸びてしまうのも都合は悪い。ましてや10日も経たずに現在のボスは職場を去るわけだし。そのような状況を考えれば、とりあえず採用してみよう、という判断は妥当ではある。しかし、そんな方針ならば最初から面接なんて必要もなかったんだけどね。
そして、私の感じた不安は、また残念ながら当たってしまった。
私と彼はちょっと仕事の内容が異なって、ほとんど一緒にいることはない。ただ最後の1時間くらいは同じ作業をすることもあった。その時に横で彼の動きをチラチラ見ていたわけだが、
「なんか、あんまり作業ははかどっていないなあ・・・」
という感じしていた。
彼のなんだか生き生きしない風貌に比例するように、作業する動きもかなり鈍かったのである。物覚えも良くなく、Tさんが教えたこともすぐ忘れて彼をイライラさせるような場面も何度か近くで見ていた。
しかし、仕事が遅い、というだけが問題ならば「入ったばかりだし仕方ない」と納得できる面もある。が、話はこれだけでは終わらなかった。
その派遣社員が帰った後(始業時間は私より30分早い)で、
「あれは強烈だわ・・・鼻がもげそうや・・・」
というTさんの愚痴が聞こえてくるのである。
「ああ、あのことかな」とすぐに思い当たる節があった。
その派遣社員が近くにいると、なんともいえない「臭い」が漂ってくるのは私も気づいてはいた。つまり、彼の体から何やら体臭のようなものが発生しているのである。それでも私の場合、彼と接する時間は極めて短いのでそれほど気にならなかった(体臭に鈍感という面もあるが)。しかしTさんは彼を隣の席に乗せて京都市内で配送業務をしているので、そうした影響が露骨に出てくるのだ。
ただでさえ仕事ぶりが冴えないうえ、なんだか訳のわからない異臭を発する派遣社員に対してTさんは我慢の限界が超えたため、
「お前、臭い!」
とついに本人に面と向かって言ってしまった。
しかし当の派遣社員といえば、
「え・・・臭いですか?」
と怪訝そうな顔をしたというのである。よく聞く話だが、自分の体臭というのは自分では気づかないようであり、彼もその例外ではなかった。
「臭い!職場の女の子が気づく前になんとかしろ!ファブリーズしろ!」
と、なかなか言いづらい指示を出したようだ。
しかし、どうも彼の体臭の原因というのはよくわからないところがある。「(臭いの元は)服か?それとも体なのか?」とTさんが訊いたら「体です」と答えたので、体臭なのは間違いないようだ。しかし、どこから臭ってくるのかが判然としない。
実は、彼には体臭の原因らしきものが一つある。それは彼の過去の職歴なのだ。又聞きなので詳しいことはわからないが、ゴミ収集車の後ろを走って道路に置かれているゴミを投げ入れる作業をしていたらしい。
「そういう環境にいたら、体臭もついて取れないからなあ・・・」
とTさんは頭を抱えながら私にもこう漏らしていた。
それからしばらく経ったが、体臭について改善の方向には言ってなかったようだ。
「臭い・・・もうダメだ・・・・死ぬ・・・」
とTさんのボヤキは毎日ように聞くことになる。
こんな状況が続けば職場の環境も悪化する一方だ。何か私も考えなければなるない。
そういえば、私もずっと足の臭いで苦しんでいたが、先日買った「竹酢液(ちくさくえき)」という液体を吹きかけていたらかなりの改善が見られた。そこでそれを教えてみようと思った。
「竹酢液って知ってますか?体臭に効果はありますよ」
と言うと、
「あー・・・いや、アレはそんなものでは治らんよ」
と渋い顔をして、
「(自分の頭をツンツン指さしながら)それ以前に、基本的な仕事ができないしさあ・・・」
と、もう雇用を継続したくないような素振りを見せていた。もう彼も長くはないなあと直感した。
しかし、当の派遣社員といえば、相変わらずマイペースを貫いており、それ以後も独特な臭いを振りまきながら作業をこなしている。
私も端で彼を見るのは嫌だったのだが、廊下ですれ違った時にこう尋ねられた。
「渡部さん・・・有給ってどうしてますか?」
ああ、有給ね。派遣社員も半年続けて働けば発生するけど、ここの派遣先は平日になかなか休めないから20日以上も私は残してるがね。
でもさあ・・・あなた、半年先も雇ってもらえると自分で思っているのかい?
4月に入ってから疲れる日が続いているが、この質問はよりいっそう私の中の疲労をひどいものにさせていた。
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