Twitterのタイムラインを眺めていたら、

<ワタミに初の労働組合 経営陣「ブラック」批判受け容認>

という一文が目に飛び込んできた。発信していたのは朝日新聞デジタルである。

http://www.asahi.com/articles/ASJ6J4WTSJ6JULFA016.html

日本のブラック企業の代表となって久しいワタミが、創業してから存在していなかった労働組合の結成を容認したというのである。ブラック企業に労働組合ができたというのはニュース性は高くパッと見は面白いかもしれない。しかし個人的には「はあ、そうですか」という程度でここから何かが生まれるような期待感は全く抱かなかった。なぜかといえば、私自身が新聞社の子会社の労働組合で活動していた苦い経験が心の底にあるからだ。朝日新聞のごく短い文章の中でも、ワタミ労組の先行きが見えてきて暗澹たる思いに駆られてしまう。おそらくこの労組は何もできないまま終えるに違いない。

いちおうネットで確認すると、ワタミの賃金制度は「職務給」となっている。これを見た時に、組合なんてあっても無駄だな、と瞬間的に思ってしまった。職務給とは要するに、仕事の度合いによって給料に差が出てくるということである。働きが良ければ給料は上がり悪ければ下がる、というものだ。なんだ。そんなの当たり前じゃないか、と思う人はもう現代に生きる人である。しかし、こうした制度は前時代的な労働組合の精神とは真っ向から対立するのである。働き具合によって給料が異なるとなってしまえば、「春闘」だの「ベア(ベースアップ。意味は個々で調べてください)」だのといった理屈が企業に通じるわけがないのだ。働き具合で差をつけている会社が、どうして全社員に一律でベースアップをするというのか?そんなのはおかしいではないか。無論、今でもベアとかいった死語を振り回しているのは、メーデーで真昼間から仕事もせずに街中で騒いでいる輩くらいだろうけど。

長々と書いてしまったが、労働組合が活動するためには全員で共闘できるような「目標」がなくてはならない(団結するわけだからね)。それがつまるところ、命の次に大事な「金(賃金)」である。しかし、その金の額が個々人でバラバラだったら団結する要素などもはや無いだろう。そんな状況で組合活動をして何をするというのか?もしあるとしたら教えていただきたい。私は成果給に会社にいたので骨身にしみるほどそのあたりのことがわかっているから、断言できる。

給料がバラバラな労働者同士が団結する要素など、どこにもない。

もう一つだけ、根本的で大事なことを書いておきたい。

当の朝日新聞デジタルの記事は冒頭でこのように書いている。

<居酒屋チェーン大手のワタミで初めて労働組合が結成された。グループの正社員約2千人と、アルバイト約1万5千人の大半が入った。>

多くの人はボーッと読み流したに違いないが、これはワタミの労働者は正社員とアルバイトとに分かれているということである。「そんなこと当たり前だろう。馬鹿かお前は」とほとんどの人は思うだろう。しかし、考えてみてほしい。正社員とアルバイトとでは賃金を始めとした待遇は全く異なるのだ(ゆえに正社員とアルバイトの比率がこれほど違う)。

だから、こういう疑問が出てきてしまう。

「待遇が全く違う正社員とアルバイトとが共闘できるのか?」

と。

記事を読む限りでは詳細はわからないが、ワタミの労働組合は「ユニオンショップ協定」を会社に組んでいるという。これはつまり、入社したら自動的に組合員になる、というものだ。もし自分の思想や信条を理由で組合に加盟したくないと思っても、それは許されない(組合を止める=退社する、という流れになる)。これは労働組合では多数派の制度ではなく、多くは入るか入らないかは社員の自主判断にまかされる。ワタミの場合は色々な面で有名になった企業だからこのようなことになったのだろうが。

何が言いたいかといえば、組合の加入を非正規社員に勧めても「まず入らない」という事実を書きたかったのだ。

たいていの契約社員やアルバイトは、

「組合になんて入ったら会社側から不利益があるから・・・」

と怖がって入ることはない。組合員が「それは絶対ない!組合活動は法律で認められている!」とわめいたところで、有期雇用の立場である人たちはそんなリスクの大きくなる選択はしないだろう。もっといえば、私みたいな派遣社員はそもそも会社から直接雇われているわけでもないから、組合員になる資格も持っていない。

こういう話をすると、昔の嫌な思い出が蘇ってきて色々なことが書きたくなるのだが、簡単にまとめれば、

・賃金制度がのあり方が変わってしまった現在、組合活動をする意味はない。
・正規/非正規と労働者の「身分差別」がされている前提では、労働者全員が共闘などできない。

と2行で済ませられる。

これからワタミの労働組合と企業側との間で、会社のあり方や賃金をめぐって論じられるだろう。しかし正規/非正規という身分差別がある限りは、正社員の方に重きがおかれるのは力学的に間違いない。そうなると1万人以上もいるアルバイトはどのような思いになるか。そしてそれでも一緒に闘おうなどという気持ちになるのだろうか。

現時点でワタミ労組はもう終わっているのではないだろうか。というよりも、そんなものを結成する意義はあったのか。弱小組合の活動のために貴重な時間を奪われた身としては、そんなことを思わざるをえないのである。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索