BONNIE PINK「Chasing Hope」(12年)
2012年10月17日 BONNIE PINK
【収録曲】
(1)Stand Up!
(2)ナツガレ
(3)Mountain High
(4)Bad Bad Boy
(5)街の名前
(6)Animal Rendezvous
(7)My Angel
(8)Tiger Lily
(9)Baby Baby Baby
(10)Don’t Cry For Me Anymore
(11)冷たい雨
(12)Change
BONNIE PINKのライブまであと2日と迫った。たぶんこれを逃したら本作の感想を述べる機会も失うのでなんとか書いて仕上げてみた。ちなみに前作「Back Room」はライブ当日に載せたのだから、それよりはちょっと早くなっている(何の自慢にもならないか)。
作品の感想を言う前に、このアルバムの発売前におこなわれたことについて少し触れておきたい。7月18日から発売日前日(7月24日)まで、iTunes Storeにてこのアルバム全編を無料配信をしていた。発売前の1週間はタダで聴くことができたのである。こうした例は海外ではレッド・ホット・チリ・ペッパーズやリンキン・パークなどの例はあるものの日本では彼女が初めてであった。
作品全てを無料で公開するとは大盤振る舞いだが、しかしちょっとした制限も施されていた。アルバム1曲1曲を聴くことができず通して聴くことしかできないのだ。また、彼女自身もアルバムの流れにはかなりこだわりを持っているようで、アルバムは「アタマから聴いて!」と「Gyao」で放映されたインタビューで強調していた。こうした彼女の意図もあって無料公開に踏み切ったのだろう。
集中力があまりない私は50分という長さのアルバムをずっと付き合うのはよほど気に入らないと無理なのだが、今回の無料配信はこうした形でしか聴けないこともありなんだかんだで10回くらいは買う前に通して聴いてしまった。1枚のアルバムを短期間にこれだけ繰り返し聴いたのも久しぶりな気がする。
そうしているうちに、
「確かに今回のアルバムの流れはいいかもしれないな」
と思うようになっていく。彼女の策略にまんまとハメられてしまったようだ。別にファンだからそれはそれで嬉しい話なのだが。
ただ正直に言うと、これを聴いた時の最初の印象はそれほど芳しいものではなかった。はっきりした説明はできないけれど、音質がなんだか気に入らなかったのである。抑えめというか控えめというかハッキリしないというか、とにかく自分にとって求心力が弱かったのだ。また、1曲目の”Stand Up!”もそれほどピンとこなかった(現在でも同じような印象である)。しかしそれでも3回、5回と聴いていくうちにだんだんと耳に馴染んでいき、楽曲などの特徴や魅力も見えてきた。そういう具合だった。これがもし無料配信をしてなかったとしたら、ほとんど聴かずにライブ当日を迎えていたかもしれない。
本作を聴くにあたり念頭に入れたいことは、やはり「3・11」の震災以後に彼女が初めて作った「オリジナル・アルバム」だということだろう。去年に出た「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」(11年)は、新曲が1曲入ってはいたものの、過去の作品を再録したいわゆる「リメイク・アルバム」であり企画ものである。また、あの時期の彼女はあまり新曲を作る気分にもなれなかった、とアルバム発売時におこなわれた各種インタビューでも語っていた。
例えば「ナタリー」のインタビューが参考になるだろう。
http://natalie.mu/music/pp/bonniepink
ここでインタビュアーに「全体的に外に向いている印象を受けました。」とアルバムの感想を言われて、
<テレビを観てても明るいニュースが少ないし、景気も全然良くならないし……どないすんねん!みたいな気持ちが強くて(笑)。じゃあせめて音楽で明るい要素を提供できればなと思って、なるべく明るい曲を書くようにはしていました。>
<私自身、希望を感じられる出来事がそろそろ欲しいっていう気持ちだったんです。震災以降というメンタリティもかなり反映されている1枚なので、被災された方々に向けても、次の一歩が踏み出しやすくなるような1枚を届けたかった。そうすると自然に「Chasing Hope」っていうタイトルが一番しっくりくるなと思って、こうなりましたね。>
などと語っている通り、震災以降の彼女の思いがあちらこちらに込められている。実際、””My Angel”や”Don’t Cry For Me Anymore”や”街の名前”といった曲が震災がきっかけで作られたものだそうだ。
希望とかなんとかいうともっと勢いのあるキラキラした音作りが想像されるが、先ほども指摘したように音質については割と控えめな感じである。そこが良い意味で彼女らしい。楽曲自体は今までなかったタイプの”ナツガレ”などライブ映えしそうだなと思う一方、ピアノのみで朗々と歌われる”My Angel”には、過去の作品に通じる懐かしさを感じた。彼女の代表曲になるような突出したものはないかもしれないが、全体的にバランスの良い充実した作品になっている。
このアルバムは7月の終わりに出たわけだが、夏の時期は職場への行き帰りの途上で、自転車に乗りながらこのアルバムを聴いていた。その時はよく、
「なんだか今の時代の空気に合ってる気がするなあ」
と意味も無く感じることがあった。そりゃあ今年出たアルバムだからいまの時代のものに決まっているだろうが、と思う方もいるかもしれない。しかし私は鈍感なこともあって、ラジオで昨今の曲を聴いてもほとんど同時代性を感じるような場面はほとんどない。また今年買ったアルバムにしてもリチャード・トンプソンとかレナード・コーエンとかヴァン・モリソンとか、時代とは無縁の創作活動をしているような人ばかりだ。そんな自分にとって2012年現在を伝えてくれるということでも彼女は貴重な存在である。今年を代表する作品といったら、私は間違いなくこの作品を挙げる(というほどもはやCDを買ってないけれど)。
さあ、それでは問題の(?)ライブがまもなく大阪でも行われる。果たして奇跡的なほど良かった前回に迫るものになるだろうか。
前回の感想はこちら。
BONNIE PINK京都公演「BONNIE PINK Acoustic Live Tour 2011 ”@thebackroom”」(2011年10月28日、磔磔)
http://30771.diarynote.jp/201110301051347144
ライブ前はさすがに期待と不安が入り交じってるが、とりあえず開演時間に間に合えることだけを今は願おう。
(1)Stand Up!
(2)ナツガレ
(3)Mountain High
(4)Bad Bad Boy
(5)街の名前
(6)Animal Rendezvous
(7)My Angel
(8)Tiger Lily
(9)Baby Baby Baby
(10)Don’t Cry For Me Anymore
(11)冷たい雨
(12)Change
BONNIE PINKのライブまであと2日と迫った。たぶんこれを逃したら本作の感想を述べる機会も失うのでなんとか書いて仕上げてみた。ちなみに前作「Back Room」はライブ当日に載せたのだから、それよりはちょっと早くなっている(何の自慢にもならないか)。
作品の感想を言う前に、このアルバムの発売前におこなわれたことについて少し触れておきたい。7月18日から発売日前日(7月24日)まで、iTunes Storeにてこのアルバム全編を無料配信をしていた。発売前の1週間はタダで聴くことができたのである。こうした例は海外ではレッド・ホット・チリ・ペッパーズやリンキン・パークなどの例はあるものの日本では彼女が初めてであった。
作品全てを無料で公開するとは大盤振る舞いだが、しかしちょっとした制限も施されていた。アルバム1曲1曲を聴くことができず通して聴くことしかできないのだ。また、彼女自身もアルバムの流れにはかなりこだわりを持っているようで、アルバムは「アタマから聴いて!」と「Gyao」で放映されたインタビューで強調していた。こうした彼女の意図もあって無料公開に踏み切ったのだろう。
集中力があまりない私は50分という長さのアルバムをずっと付き合うのはよほど気に入らないと無理なのだが、今回の無料配信はこうした形でしか聴けないこともありなんだかんだで10回くらいは買う前に通して聴いてしまった。1枚のアルバムを短期間にこれだけ繰り返し聴いたのも久しぶりな気がする。
そうしているうちに、
「確かに今回のアルバムの流れはいいかもしれないな」
と思うようになっていく。彼女の策略にまんまとハメられてしまったようだ。別にファンだからそれはそれで嬉しい話なのだが。
ただ正直に言うと、これを聴いた時の最初の印象はそれほど芳しいものではなかった。はっきりした説明はできないけれど、音質がなんだか気に入らなかったのである。抑えめというか控えめというかハッキリしないというか、とにかく自分にとって求心力が弱かったのだ。また、1曲目の”Stand Up!”もそれほどピンとこなかった(現在でも同じような印象である)。しかしそれでも3回、5回と聴いていくうちにだんだんと耳に馴染んでいき、楽曲などの特徴や魅力も見えてきた。そういう具合だった。これがもし無料配信をしてなかったとしたら、ほとんど聴かずにライブ当日を迎えていたかもしれない。
本作を聴くにあたり念頭に入れたいことは、やはり「3・11」の震災以後に彼女が初めて作った「オリジナル・アルバム」だということだろう。去年に出た「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」(11年)は、新曲が1曲入ってはいたものの、過去の作品を再録したいわゆる「リメイク・アルバム」であり企画ものである。また、あの時期の彼女はあまり新曲を作る気分にもなれなかった、とアルバム発売時におこなわれた各種インタビューでも語っていた。
例えば「ナタリー」のインタビューが参考になるだろう。
http://natalie.mu/music/pp/bonniepink
ここでインタビュアーに「全体的に外に向いている印象を受けました。」とアルバムの感想を言われて、
<テレビを観てても明るいニュースが少ないし、景気も全然良くならないし……どないすんねん!みたいな気持ちが強くて(笑)。じゃあせめて音楽で明るい要素を提供できればなと思って、なるべく明るい曲を書くようにはしていました。>
<私自身、希望を感じられる出来事がそろそろ欲しいっていう気持ちだったんです。震災以降というメンタリティもかなり反映されている1枚なので、被災された方々に向けても、次の一歩が踏み出しやすくなるような1枚を届けたかった。そうすると自然に「Chasing Hope」っていうタイトルが一番しっくりくるなと思って、こうなりましたね。>
などと語っている通り、震災以降の彼女の思いがあちらこちらに込められている。実際、””My Angel”や”Don’t Cry For Me Anymore”や”街の名前”といった曲が震災がきっかけで作られたものだそうだ。
希望とかなんとかいうともっと勢いのあるキラキラした音作りが想像されるが、先ほども指摘したように音質については割と控えめな感じである。そこが良い意味で彼女らしい。楽曲自体は今までなかったタイプの”ナツガレ”などライブ映えしそうだなと思う一方、ピアノのみで朗々と歌われる”My Angel”には、過去の作品に通じる懐かしさを感じた。彼女の代表曲になるような突出したものはないかもしれないが、全体的にバランスの良い充実した作品になっている。
このアルバムは7月の終わりに出たわけだが、夏の時期は職場への行き帰りの途上で、自転車に乗りながらこのアルバムを聴いていた。その時はよく、
「なんだか今の時代の空気に合ってる気がするなあ」
と意味も無く感じることがあった。そりゃあ今年出たアルバムだからいまの時代のものに決まっているだろうが、と思う方もいるかもしれない。しかし私は鈍感なこともあって、ラジオで昨今の曲を聴いてもほとんど同時代性を感じるような場面はほとんどない。また今年買ったアルバムにしてもリチャード・トンプソンとかレナード・コーエンとかヴァン・モリソンとか、時代とは無縁の創作活動をしているような人ばかりだ。そんな自分にとって2012年現在を伝えてくれるということでも彼女は貴重な存在である。今年を代表する作品といったら、私は間違いなくこの作品を挙げる(というほどもはやCDを買ってないけれど)。
さあ、それでは問題の(?)ライブがまもなく大阪でも行われる。果たして奇跡的なほど良かった前回に迫るものになるだろうか。
前回の感想はこちら。
BONNIE PINK京都公演「BONNIE PINK Acoustic Live Tour 2011 ”@thebackroom”」(2011年10月28日、磔磔)
http://30771.diarynote.jp/201110301051347144
ライブ前はさすがに期待と不安が入り交じってるが、とりあえず開演時間に間に合えることだけを今は願おう。
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