7月22日、ノルウェーの首都オスロで爆破事件があり8人が死亡、同日はウトヤ島で銃乱射事件が発生し68人以上が亡くなった。事件の直後に32歳の男性が逮捕されたが、彼の処遇をめぐって国内では議論が起きている。

ノルウェーにおいて死刑制度は1979年に全廃されている。どんな重たい罪であっても最大で禁錮21年となっているのだ。多くの犠牲者が出た事件のため、国内では死刑制度の復活や無期刑の導入を呼びかけている人も出てきているという。

時事通信7月25日に配信した記事によれば、93人が犠牲になって禁錮が21年となると、1人の殺害につき刑期はたったの82日しかないことになるのだ。なんだかよくわからないまま実刑をくらったホリエモンですら2年6ヶ月も服役しなければならないのに。私自身は死刑制度に対して、人間の作った制度に完璧なものなどないので誤った運用する可能性がある、という考えのもと「慎重派」という立場であるけれど、それでもこの罪は軽すぎるなあと素朴に感じてしまう。

そこでノルウェー司法当局は26日、容疑者を「人道に対する罪」で起訴する方向であると明らかにした。 それを聞いてオッと思い、今日の日記ではそれについて触れることにした。

「人道に対する罪」(crimes against humanity)という言葉は法律を勉強した人くらいした聞いたことがないかと思う。この概念ができたのは第二次世界大戦後の連合国による国際軍事裁判「ニュルンベルク裁判」までさかのぼる。これはドイツが起こした未曾有の戦争責任、具体的にはホロコースト(ナチスによるユダヤ人大虐殺)を裁くために初めて出てきた。仲正昌樹(金沢大学法学類教授)さんの著書「日本とドイツ 二つの戦後思想」(05年。光文社新書)にこの点について解説されている。

<これは、政治的、人種的、宗教的な理由から特定の人々に対する絶滅、奴隷化、追放などの「非人間的行為」を計画的に実行したことを、国際法上の罪と見做す考え方である。>(P.27)

ニュルンベルク裁判をおこなっていた時点ではすでにナチスの主な指導者(ヒトラー、ヒムラー、ゲッペルス)はことごとく自殺していたけれど、例えばアウシュヴィッツのガス室の責任者であったアドルフ・アイヒマンは死刑判決を受けている。

しかしながら今回のテロについては確かに多大な犠牲者を出した大事件であるものの、ホロコーストなど戦争犯罪に出てくる「人道に対する罪」が持ち出されるのはなんだかそぐわないなあと、第三者から見て違和感を覚えてしまう。

それにこの「人道に対する罪」が晴れて適用されたとしても、禁錮期間が30年になる程度にすぎない。この事件の判決結果はノルウェー国内外に大きな議論を巻き起こすに違いないけれど、法律というのはなかなか現実に即すことができないものだとつくづく感じた一件である。

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